偏愛姉妹の共依存


 お姉ちゃんが言ってた。

 女の子は、姉妹同士でキスをするのは普通なんだって。表ではみんなしてないって言ってるけど、本当は彼氏ができたときの練習でしてるんだって。でも、ほら、宗教とか、世間体とか、やっぱりあるから、特に大人はそういうの敏感だから、あまり言っちゃいけないことだって。


 だからあたしもお姉ちゃんとキスをしても、誰にも言わなかった。それが当たり前だと教えられてきたから。


 お姉ちゃんとキスをするととても安心する。時々やってくる死にたくなる思いが消えていく。でも波はまたやってくる。


 ――ルーチェが居眠りから目を覚まし、黒板を見た。先生がまだ授業を行い、周りの生徒達もしっかりと授業を受けている。ノートを見ると、ルーチェだけ何も書けていなかった。それを見た途端、ルーチェは思った。


 もう嫌だ。消えてなくなりたい。


 別に嫌なことがあったわけではない。ノートが白くて、まだ授業が続いていただけ。誰も何もしていない。けれどルーチェの頭の中には死が浮かんでいた。


(最期に……お姉ちゃんに会いたい)


 だから、また来てしまった。

 いつ帰ってくるかもわからない姉のマンションに行き、合鍵のカードで中に入る。ソファーに座り、何もしない。ただ暗闇の中、何も考えず、闇に溶ける。やがて眠たくなったので、ルーチェがその場で横になり、眠った。――気がつくと、ベッドで横になり、温かなシーツに包まれていた。


(……ん……)


 優しく頭を撫でられ、温かい膝が枕になっている。見上げると――月の明かりに照らされたパルフェクトが、自分を見つめていた。


「あ……起きた? ルーチェ♡」

「……」

「ご飯ね、出前頼んだの。食べる?」


 ルーチェが首を振った。


「食欲ない?」

「……お姉ちゃん」

「うん?」

「あ、あ、あたし、お、お別れを言いに、きたの」

「……お別れって?」

「あたし、もう死ぬの」

「あー。……また波来たの?」

「なんか、もう、ん、今度こそ、もう、うん。死のうと思って」

「よしよし、ルーチェ、おいで」


 ルーチェがシーツに包まったままパルフェクトに抱きついた。豊満な胸に顔を埋めると、匂いが鼻を通ってやってきて、それがとても安心して、ルーチェが瞼を閉じる。パルフェクトは優しい手でルーチェを撫で、子守唄を歌うような声で囁く。


「最近、気圧の変動が多いから、嫌な気持ちになっちゃったんだね。大丈夫だよ。お姉ちゃんがいるからね」

「……お姉ちゃん……」


 ルーチェがパルフェクトにしがみついた。この手をもう離せそうにない。パルフェクトは優しい笑みを浮かべ、まるで聖母のようにルーチェの背中を撫で続ける。


「ルーチェ♡、疲れちゃったんだよね。明日学校は?」

「ある」

「休んじゃえば? 一日リラックスしてから、また行けばいいんじゃない?」

「でも、ずー……ズル休みに、なっちゃう」

「ううん。心が疲れてるんだから、ズル休みじゃないよ」

「……そうなのかな」

「わたくしも明日の予定ずらしてもらうから、一緒に映画でも見よう?」

「……うん」

「まだ死にたい?」

「……わかんない」

「わかんないか。そっか。じゃあ……今夜はお姉ちゃんとお風呂入る?」

「……わかんない……」

「わかんない?」

「わかんない」

「そっか。わかんないか」


 パルフェクトがルーチェの服の裾を引っ張った。


「お姉ちゃん、ルーチェ♡と一緒にお風呂入りたいから、この後一緒に入ってくれる?」

「……この後?」

「うん。この後」


 パルフェクトがルーチェの服の中へ手を入れさせ――背中を撫でた。あまりの手の冷たさに、ルーチェの背筋がビクンッ! と揺れた。


「んっ……!」

「ルーチェ♡は温かいね。触ると安心しちゃう」

「く、くす、ぐったい……」

「大丈夫だよ。ルーチェ♡。嫌なことは、全部忘れちゃおうね」

「あっ」


 パルフェクトがルーチェのブラジャーのホックを外した。ルーチェがパルフェクトの胸から移動し、今度は肩に顔を埋めた。


「お、お姉ちゃん」

「大丈夫。忘れちゃおうね」

「あっ……ぅっ……」

「ルーチェ♡、お姉ちゃんはいつだってルーチェ♡の味方だよ?」


 大丈夫。


「嫌なことは、全部、忘れちゃおうね」


 パルフェクトがルーチェを押し倒した。



( ˘ω˘ )



 ルーチェは眠る。どうやら、強制的に眠らされているみたいだ。けれどこれでいい。何も考えなくて済む。パルフェクトにしがみつく。お姉ちゃんだけはあたしの味方。けれど、パルフェクトもルーチェの両手からするりと抜け出してしまった。


 お姉ちゃん、どこ行くの?


 パルフェクトは無言で歩いていく。


 待って、お姉ちゃん! 待ってってば!


 パルフェクトはどんどん離れていく。


 お姉ちゃん!!!


「一人にしないで」



(*'ω'*)



 ――ルーチェが目を覚ますと、裸のままベッドで横になっていた。パルフェクトはいない。


 ――ナビリティがいない。


「……お姉ちゃん?」


 ルーチェがシーツに身を包んだままベッドから抜け出した。


「お姉ちゃん?」


 ルーチェが暗闇の中を歩く。


「お姉ちゃん」


 どこにもいない。ルーチェの血の気が引いた。


「お姉ちゃん!!!」

「あっ、ルーチェ♡」

「っ」

「お風呂沸いたよ。一緒に入ろ……」


 ルーチェがパルフェクトに飛びついた。その体を震えている。もう絶対に離れたくなくて、ルーチェが腕に力を入れる。その行動に――パルフェクトは、笑みを抑え切れない。優しく冷たい手で、大切にルーチェを抱きしめ返す。


「お姉ちゃんがいなくて不安になっちゃった?」


 ルーチェはもう動かない。腕に力を入れるだけ。


「大丈夫だよ。ルーチェ♡、お姉ちゃん、ルーチェ♡の側にいるからね」

「あ、あ、あたし、う、うざ、うざい、よね」

「全然そんなことないよ」

「ごめんなさい」

「大丈夫だよ」

「もう、もう、あたし、し、死ぬ……死ぬから……」

「ルーチェ♡、こっち」

「んっ」


 パルフェクトと唇を重ね合わせる。


「口開けて」

「……」

「そう。良い子」


 また唇が重なり合うと、今度は舌が絡まってきた。温かい。体温が上昇し、気分がおかしくなってくる。パルフェクトがルーチェの体を撫でる。ルーチェが完全に身を委ねた。パルフェクトの両手がルーチェの胸に触れた。ルーチェの肩が一瞬揺れた。可愛い先端を爪でくすぐれば、また固くなってきた。唇が離れる。


「ほら、ルーチェ♡、お風呂入ろう?」

「あっ……」


 パルフェクトに引っ張られ、そのまま浴室に入っていく――。









 ――暗い部屋の中、ベッドの中で、裸同士で抱きしめ合う。



「……おねえちゃん……」


 パルフェクトは優しく、とても優しくルーチェの頭を撫でる。そして、天使のような笑顔を浮かべ、ルーチェに囁く。


「ルーチェ? ……もう少しお金貯めて、もっと広い部屋に引っ越したら……その時は、ルーチェを迎えに行くから、一緒に住もうね。そしたら、ルーチェ、寂しくないでしょう?」

「……うん。さみしく……ない……」

「ごめんね」


 ここらへんはどうしても、マスコミに嗅ぎつけられやすいから。


(どこか良いところがあればすぐにでも引っ越すんだけどなぁ)

「……いつも、ごめんね」

「ん? ううん。わたくしはルーチェ♡に会えて嬉しいもの」

「もう、あまり、来ないようにする」


 パルフェクトの目が――一瞬で据わった。


「いつも、お、お姉ちゃんに……悪いもん」

「……」

「……いつも、ごめんなさい」

「……もう来てくれないの?」

「……甘えちゃうもん」

「甘えていいよ」


 優しく抱きしめてあげる。


「いつだって、お姉ちゃんはルーチェ♡の味方なんだから」


 そうやって誘惑する。


「だから、またいつでも来ていいからね」

「……ありがとう……」

「ううん。いいんだよ。ルーチェ♡」


 こうして、また鎖を繋ぐ。


(お姉ちゃんはあたしの味方でいてくれる)

(ルーチェを理解できるのはわたくしだけ)

(ずっと側にいてくれる)

(ルーチェの側にいられるのはわたくしだけ)

(お姉ちゃんの側にいたい)

(ルーチェはわたくしから離れられない)


 いくつめの鎖だろう。ルーチェはまた縛られる。鍵を付けられて、大切にパルフェクトの牢屋に閉じ込められる。もやは、ここから抜け出すなんて不可能だ。ルーチェは一生、わたくしだけのもの。


 そう思っていたら、いつの間にか――牢屋の中は、空っぽになっていた。



(*'ω'*)



 ルーチェがイヤフォンから爆音で音楽を再生した。


(うわ……、なんか急にお姉ちゃんのこと思い出した)


 ――ルーチェ……♡


(前まであれが当たり前だと思ってたもんなー。いやー、やっぱりあたし、ミランダ様にお会いできて本当によかった。あのまま洗脳されてたら、どうなってたかわかったもんじゃない)


 改札を通ろうとスマートフォンを取り出す。


(ハスモでピッとな)


 ――ピッ、とする前に、腕を掴まれた。その瞬間、ルーチェに悪寒が走った。凍るような寒気。凍り付いた駅。突然降った雪に電車が止まる。振り返れば――目を充血させ、鼻息を荒くしたパルフェクトが、素敵な笑顔でルーチェの腕を掴んでいた。


「久しぶりだね……♡ ルーチェ……♡」

(げっ! こいつは逃げなきゃいけないやつ! ミランダ様! あたし速攻帰りま……)


 改札を通る前に、パルフェクトの使い魔によって抱きかかえられてしまう。ルーチェが思い切り叫んだ。


「拉致ーーーーーー!!」

「さあ、お家でパーティーしようねー」

「助けてミランダ様ーーーー!!」


 ルーチェの叫び声は、大きな夜空に元気よく響くのであった。


「……あ、ミランダお帰り! ルーチェったらまだ帰ってこないんだ!」

「……はあ。あいつはまた……」


 ミランダが溜息を吐き、占いの文字に出たパルフェクトの元に行くため、再び箒に乗って部屋から出ていくのであった。





偏愛姉妹の共依存 END

(R18はアルファポリスにて公開中)

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