思春期カップルの一夜
それはとある土曜日の夜。
星空が広がり、もう良い子は寝る時間。
そんな中、ルーチェが彼氏の家のクローゼットを開けた。
(あ! 新作がある!!)
クレイジーのベッドの下にしまわれていたアダルトビデオに目を輝かせ、パッケージを見る。だめだめ! 赤ちゃん出来ちゃうよぉ! 彼氏の止まらない暴走! 孕ませセックス50連発!
(クレイジー君、こういうのが好きなんだ……)
ルーチェがクレイジーの部屋のデッキにDVDを入れ、再生ボタンを押した。ビデオが始まる。
(……あっ、これ、すぐヤるやつじゃなくて、ストーリーがあるやつだ! クレイジー君、意外とストーリー系が好きなのか……)
(……うちの店に置いてあるのはすぐヤるタイプのものだったよなぁ。こういう系統のも置いてみるべきかな……)
『ジェシー、愛してる。な、していいだろ?』
『駄目よ。マイク。ここ、学校よ』
『んなこと言ったって止まんねえよ。俺、もう勃起してしょうがないんだ』
(わあー。モザイクで何もわかんないー)
「はあー。いい湯だったー。ルーチェっぴー、愛しの彼ぴっぴが戻ってきたっぴ……」
クレイジーが息を止めた。ルーチェがはっとして振り返った。テレビから流れるアダルトビデオ。女優の雰囲気がルーチェに似ていたから購入し、結構エグめの内容で、抜く分には十分だが、それを見ていると人には絶対に知られたくないやつ。それをルーチェが――愛しい彼女が――見ている!!!!!
瞬時にクレイジーがぞっと血の気を引かせた。回転の早い頭が高速で動き出す。リモコンはどこだ。――はっ! ルーチェがリモコンを抱きしめている。ならば! と、クレイジーがプレーヤーの電源ボタンを押した。画面が黒くなった。
「あっ! これからだったのに!」
「何やってんの、まじで……」
「発注のさ、さ、参考に、見てたの」
ルーチェが目を輝かせ、クレイジーにエグいパッケージを見せた。
「クレイジー君、こういうのが好きなんだね!」
「や、ルーチェっぴ、あの、ちが、普段はそういうの買わな、や、あの、そうじゃなくて……!」
「大丈夫! こういうの、いいと思う! やっぱりストーリーがあるやつって、面白いよね!」
「あ、ああ……それ、あー、なんか、そうだね。うん。早送りするからあんま見てないけど……」
「え、そうなの? ス、ス、ストーリーあるやつ、確か棚に置いてなかったから、た、頼んでおこうかなって思ったんだけど、駄目かな? しかもこれ、ご、50連発も、た、体位の種類が……」
「ルーチェっぴ! ゲームしよ! 俺っち、ゲームしたいんだ!」
「あ、わかったー」
(なんで俺がいない時にアダルトビデオ触るんだよ! しかも! 見られたくなかったやつ!!)
折角ルーチェが泊まりに来た夜だっていうのに、ムードもへったくれもない。
(今日こそはえっち出来るかなって期待した俺が間抜けだったか……。この状況でえっちしよー! は流石に空気読めなさすぎ……)
「クレイジー君、あたし、これやりたい」
ルーチェが持ったのはすごろくのゲームであった。職業を選択して、すごろくを回してゴールするゲームだ。とりあえずこれで気を紛らわせようと、クレイジーも賛同し、二人でゲームを始めた。
ルーチェが職業を選択する。魔法使い。
「クレイジー君はどうする?」
「俺っちはねー」
淡々とゲームを進めていく。ミニゲームでは盛り上がり、止まったマスで嫌なことが起こり、それを互いになすりつけあったり、アイテムを使ったり、お金を増やしたり、部屋に楽しそうな笑い声が響く。ドアが開けられた。二人が振り返ると、エリスが笑みを浮かべていた。
「ユアン、何時だと思ってんだい」
「ごめんなさーい」
「ルーチェちゃん、ごめんね。もう夜だから、ちょっと静かにね」
「ご、ごめん! エリスちゃん! うるさくして!」
「ううん。いいのよ! ルーチェちゃんは何も悪くないの! ユアンの笑い声の方がうるさくてね、ルーチェちゃんは本当に、何も気にしなくていいんだからね!」
「贔屓だー」
「黙りな!! ゲームが終わったらさっさと寝るんだよ!! ……ルーチェちゃん、夜更しは肌に悪いから、それ終わったらちゃんと寝るんだよ? ね?」
「ほ、本当にごめんね! 気をつけるから!」
「ううん!! いいのよ!! ルーチェちゃんは何も悪くないんだから!! 楽しんでね!! ……ユアン! お前だよ!」
「はいはーい。声抑えまーす」
エリスが扉を閉めると、ルーチェが眉を下げてクレイジーを見た。
「ごめんね。うるさかったよね」
「気にしなくていいって。いつものことだから」
「……ごめんね?」
「はあ。……これ終わったら寝よ」
「ん」
(クソ。楽しかったのに。あの魔王め)
楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。昼間は一日ルーチェといられる時間がたっぷりあると思っていたら、もうこんな時間だ。
(明日の昼には帰っちゃうんだよなぁ)
ゲームはクレイジーの勝ち。ルーチェが悔しがった。
「あそこで株を売っておけば……」
「ぐひひ。俺っちには敵わないってばよ!」
「あー、悔しい……」
「さ、寝よ寝よ」
クレイジーがゲームをしまい、のそのそとベッドに入り、ルーチェに手招きする。しかし、ルーチェは辺りをきょろりと見て、眉を下げてクレイジーを見る。
「……えっと、クレイジー君」
「ん?」
「どこで寝たらいい?」
「……どこで、って……。普通にこっち来りゃいいじゃん」
「えっ」
「え?」
「あ、え、ベッド、でも、あー、……そういう、あの、感じ?」
「あ、うん。そういう感じ」
「そのー、でも、あの、あたし、その、入ったら、狭くなるよね?」
「あ、大丈夫」
「や、壊れちゃう、かも……」
「壊れない壊れない」
「……ソファーで」
「無理無理。早くおいで」
ルーチェが躊躇い、少し間を置いてから部屋の電気を消し、ゆっくりとベッドに入る。横になると、すぐ側で待ってたクレイジーが腕を広げ、ルーチェを抱きしめる。
「……あ、えっと、クレイジー君、……こっち、向くね」
「ん? うん」
ルーチェが反対方向を向いた。クレイジーの手がルーチェの腹を撫で、華奢な肩に軽く顎を乗せ、抱きしめながら耳元で囁く。
「……今日、楽しめた?」
「……うん。た、楽しかった」
昼間に着いて荷物を置き、クレイジーと遊びに出かけた。魔法博物館に行き、魔法使いの歴史を見てきた。魔法が使われた映画まで行って、クレイジーの家では五人兄弟に囲まれ、久しぶりに会えた親友は元気そうに笑っていて、エリスから笑顔で頭を撫でられ、まるでお姫様になったようにちやほやしてもらった。
「……うちの家族、あんなんじゃないから、……楽しかったし、すごく、うー、うれしかった」
「……」
「またきーても、いい?」
「……住んでもいいよ」
「や、住むのは、あの、ふふっ、ミランダ様がいるから」
ルーチェがクスクス笑い、そのくすぐったい笑い声にクレイジーの心が癒やされていく。手を伸ばし、ルーチェの手を掴み、握りしめてみる。温かな手だ。
「ルーチェっぴ」
「……なーに?」
「……少しは、俺っちのこと好きになってくれたっぴ?」
「……ん、……。……好きって、聞かれたら……んー……よくわかんないけど……」
ルーチェの手はクレイジーの手を握りしめている。
「クレイジー君といると落ち着く」
「……ほんと?」
「うん。……落ち着くのは本当」
「好きかどうかは」
「……ミランダ様の方が好き」
「寂しいっぴー」
「ふふふっ!」
「……でも、いいや。……こうしてくっつけてるし」
クレイジーがルーチェの頬にキスをすると、ルーチェの肩が揺れた。
「ルーチェ、……すげー好き。なんか、一緒にいると俺も落ち着く」
「……お世辞?」
「ちげーって」
「ふふっ、だって」
「俺っち、正直者だから」
「どうかなぁ。クレイジー君は頭いいから。も、も、弄ばれそう」
「……弄ばれてるのは俺だよ」
「え? あたしそんなことしてないよ?」
「ルーチェに振り回されっぱなしだもん」
「そんなことないでしょ」
「そんなことあるの」
「そうなの?」
「そうなの」
「……そんなことないくせに」
「もー」
「でも嬉しい。……いつもありがとう」
「……んーん。……俺の方こそ、いつも一緒にいてくれてありがとう」
「一緒にいてくれ、くれるのは、クレイジー君の方でしょ」
「何言ってんの。ルーチェがいてくれるから俺も毎日楽しめるの」
「……ほんとかな」
「ほんとだよ」
「……じゃあ、そういうことにしておこ」
「うん。そういうことにして」
少しは自信があってもいいと思うんだ。でもルーチェはわかりきって、諦めて、期待なんてしない。7歳の頃から魔法使いの道を目指しているから、散々期待に弄ばれ、辛い目に遭ってきたんだろう。だからもう何も求めない。魔法使いになりたいと願うだけ。
それなら、俺が与えよう。
「……ルーチェ」
俺がこの子に自信を与えよう。言葉で伝えて、頭を優しく撫でて、この子を沢山愛そう。
「好き」
「……あり、がとう……」
(……あ、やべ)
ルーチェの匂いを嗅いでたら勃った。まじか。うわ、最悪。まじでムードも何もねーわ。男ってなんでこんな単純なの? 俺ってなんでこんなに勃つの? 勃ちやすいっけ? いや、そんなことは……なかったと思うけど。え? なんで? ルーチェの匂い嗅いだだけじゃん。うわ、まじで、うわっ。
(また変態とか思われるじゃん……。や、ここは寝る。そのためにルーチェ呼んだわけじゃないし)
ただルーチェと過ごしたかった。博物館を餌にして、泊まりに来るよう誘導してみた。ルーチェはあっさり引っ掛かると思ったら、そうでもなかった。一ヶ月かかった。課題が、とか、ミランダ様が、とか、ミランダ様が、とか、ミランダ様が、とかとかとか、全部ミランダ・ドロレスが理由で一ヶ月かかった。
(今回、俺、結構、頑張ったと思うんだ……)
彼女を家に呼ぶなんて簡単だろ。保護者より彼氏の方が大事だろー? なんて言葉はルーチェには効かない。彼女は絶対こう言う。ミランダ様以上に大事な人なんて存在しない。
だからこそすごく丁寧に繊細に少しずつ少しずつ誘って、こんないい事があるから、ルーチェも楽になるからとか、メリットの話をして、まるで交渉だ。母さんが会いたがってるって言ったらコリスさんが怖いと言って、セインが会いたいってさ、と言えば、
「あ、なら行く」
(なんでーーーーーー!?)
ご飯中もセインとルーチェは楽しそうだったなぁ。おい、ルーチー、ご飯付いてるって。ぷぷっ! そんなこと言ったらセーチーだってずっと口のとこついてるよ。気づいてないの? え、まじ!? うわっ! あはははは!! ……おいおい。彼ぴよりも幼馴染ですか?
(俺のルーチェだから)
(わっ、なんかぎゅってされた)
(思い出したらむかついてきた)
(くすぐったい)
「……ルーチェっぴ、寝たー?」
「そんなにぎゅってしないで。苦しいよ」
「むぎゅーーーー!」
「ふふふっ! やめてってば!」
「んひひひ!」
二人で声を抑えながら笑い、ふと、暗い部屋の中で目が合った。緑の目が見つめ、茶の目が見つめる。クレイジーから近付いた。静かにゆっくりと唇が重なった。体が密着する。温かい。クレイジーがもっとくっついた。温かい。シーツが擦れる音や、服が擦れる音で鼓動が早くなっていく。
唇が離れて、重なり、また離れ、頬に口付ける。ルーチェがクレイジーの背中を撫でた。クレイジーはキスを続ける。目の前にルーチェがいる。夢ではない。大好きな彼女がいる。そう思うと止まらなくなってしまう。頭の中が欲に支配される。性欲、支配欲。欲しくなってルーチェの体を撫でてみる。ルーチェの体がぴくっ、と動いて、固まる。その反応を見て、もっと見たくなって、他には絶対に見せたくなくて、もっと欲しくなって、自分だけのものにしてしまいたくなって、ルーチェの首にキスをすると、ルーチェが訊いてきた。
「あの」
「ん」
「……寝る、よね?」
「……んー、……どうしよっか」
額同士を重ね、クレイジーがルーチェを見下ろしながら、甘えた声を出す。
「寝たい?」
「……あの、んー、と」
「寝る前にいけないことしちゃう? ……ルーチェっぴがさっき見てたビデオみたいな」
「……」
「……嫌?」
「……や、……んー……嫌では……ない、けど……」
「けど?」
「……は、……恥ずかしい」
「(なんだよ。ただの天使かよ)……部屋暗くしたままで……しちゃ駄目?」
暗闇の中、ルーチェが再びクレイジーに訊いた。
「……クレイジー君は、……したい?」
「うん。したい」
「……あたしとだよ?」
「すげーしたい」
「……」
「また素股でいいから、しない?」
「……あの……」
「ん?」
「……今日は、」
クレイジーが小さく震える声を聞いた。
「処理、してきた」
「……え、まじ?」
「あの、……念の為……」
「……」
「……」
「あ、俺は、してない、けど」
「あ、あたしは、別に、気にしないから」
「え、じゃあ、あの、最後までしてい……」
「や、嫌なら……」
「や! 嫌じゃない! 絶対!」
「……」
「……てか、……いいの?」
「……痛く、しない、なら……」
ルーチェがクレイジーに抱きついた。
「いいよ」
(……まじ?)
ってことは、挿れていいってこと?
(処女膜貫通していいってこと!?)
落ち着けーーー。落ち着け。俺の理性と本能! いいか! 時間をかけるぞ! もう何時間でもいい。とにかくルーチェを気持ちよくさせて、穴ガバガバにした状態まで持っていけばスルッといけるはず! 経験上! うわーーー。まじかーーー! どうやって触ろうかなーー。どこからどうやっていこうかなあーー。うおーーー! やべーーー! すっげーー興奮するーーー!
(やばいやばいやばい鼻息荒くなる)
クレイジーの手がルーチェに触れる。肩がぴくりと揺れた気がして、ゆっくりとパジャマのボタンを外していく。ルーチェの緊張した吐息が聞こえてきた。クレイジーも緊張している。過去の彼女と初めてしたセックスを思い出す。クレイジーがそっと近付き、ルーチェと唇を重ねた。温かい。キスをしたら何だか落ち着いてきた。柔らかな唇を堪能する。ルーチェのパジャマのボタンが全て外れた。上を脱がせてみた。自分が着ている寝間着も脱いで、またキスをして、ルーチェの反応を見ていき、なぞって、触れて、手を握りしめて、――呼吸が乱れていく。
「……んっ……」
ルーチェの首筋にキスをすれば、吐息に混じった声が漏れた――。
(*'ω'*)
クレイジーが腕に力を入れた。
(ルーチェ……)
腕の中にぬくもりを感じる。
(ルーチェ、ちゅー)
残念。それはただのシーツだ。
(……あん? ……ルーチェどこ……)
クレイジーが目を覚ますと、ルーチェが鞄に荷物を入れていた。目が合えば、眼鏡をかけたルーチェが微笑む。
「あ、おはよー」
「(……眼鏡ルーチェも可愛い……)……はよ……」
「荷造りしてたんだけど、あの、忘れ物あったら、ごめんね」
「あったら学校で渡すよ」
「うん。だ、だ、大丈夫だとは思うけど……」
「……あ、ルーチェ、これも忘れてるよ」
「え?」
クレイジーが手招きする。ルーチェがベッドに近付き覗き込むと、クレイジーに引っ張られた。
「うわあ!」
ベッドの中でクレイジーに抱きしめられる。
「クレイジー君!」
「ぬははは!」
「もー!」
(あったかー)
ルーチェを抱きしめながら顔をスリスリさせる。
(幸せー)
「……朝ご飯出来てるって」
「……んー」
「クレイジー君起きたら、い、一緒に下りておいでって、エリスちゃんが」
「……じゃあ、もうちょっとゆっくりしよ」
どうせあとちょっとしか一緒にいられないんだ。堪能させてよ。
「ルーチェっぴ、柔らかいっぴー」
「重たい」
「男の子に重たいとか言っちゃだめだっぴー! お仕置きだっぴー!」
「ちょ、やっ! あはははは! やめてー!」
「ひひひひ!」
クレイジーの部屋から賑やかな笑い声が聞こえてくる。
窓から見える空には青空が広がっていた。
思春期カップルの一夜 END(R18フルverはアルファポリスにて)
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