授業中6

 先生の話を聞いてる10代前半の生徒達を見て、先生が思い出したように口を開いた。


「そういえば、お前達に聞きたいんだけどね、人に頼み事をする時、どうやって頼み込むかね? ルイ」

「あ、この間ありました! 両手を握って、父さんお願い! 一生のお願い! って言って野球のバット買ってもらいました!」

「そんなことで一生のお願いを使うんじゃないよ。ローラ」

「妹ならママの手を取ってお願いしますけど、私はお姉ちゃんだからそんなことしません。ちゃんとこういう理由だからこれが欲しいの。これが必要なの。だから欲しいの。お願いって頼みます」

「しっかりしてるこったね。じゃあ全員に聞くけどね、……膝に顎を乗せてお願いする奴はいるかね」

「膝に顎?」

「いや、そんな人いないでしょ」

「そうだよね。レベッカ。普通はそうなんだよ。……教育方法を間違えたかね」


 先生がため息を吐いた。


「事あるごとに膝に顎を乗せてお願いしてくるんだよ。弟子が」

((お弟子さんキタ━━(゚∀゚)━━!!))

「先生、お願いをする時って、膝に顎を乗せてお願いした方がいいんですか?」

「誰もそんなこと言ってないよ。チャット。今まで通り、お願いをする時は誠心誠意を込めて聞いてもらいな。心が届けば聞いてもらえるからね」

「先生、お弟子さんはどうしてそんなことをするんですか?」

「ドミニカ。私もね、聞いたことがあるんだよ。どうしてお前はいつも大切なお願いをする時に、私の膝から見上げてくるんだい、ってね。そしたらあいつ、なんて答えたと思う? ミルフィー」

「(うわ、当てられた! なんでお弟子さんが先生の膝に顎を乗せるか?)……それはきっと……へへっ……先生が恐ろしいからじゃないっすかね?」

「文句を言いたいところだが、これが惜しいんだ。モーラ」

「でもミルフィー? 恐れ多いなら顎なんか乗せられないよね?」

「いんや、きっと恐れ多すぎてそうしねえといけねえってしつけられてんだ。だって……ミランダ先生よ?」

「ごほんっ!」

「んちゃ! 顎なんか乗せられない! 恐れ多すぎて!」

「だったら……うーん。首を差し出してるとか?」

「それだべさ!」

「くくくっ、二人ともいいところつくね。でも違うよ。正解は」


 先生が杖を振ると、黒板に文字が浮かび上がり、それを復唱した。


「運が良いと構ってもらえるからです」

「「運が良いと構ってもらえるからです」」

「両想いぃ!」

「そんなこと言うんですか!?」

「お弟子さん強者すぎぃ!」

「先生にそんな恐ろしいことを……!」

(お弟子さんもお弟子さんで変わってるからなぁー)

「なんかね、よくわかんないけど、そうらしいよ。よく考えたら、確かにあいつが膝に顎を乗せてる時に、暇つぶしに髪の毛弄ったり頭を撫でたりしてるから、それじゃないかと思ってね」

「「頭を撫でたり」」

「ミランダ先生からあり得ない言葉が出た」

「俺達のことは、言葉の拳でぶん殴ってくるくせに!」

「お前達がちゃんとしないのが悪いんだよ。……膝から見上げてきたって、心がこもってなければ願いは届かないからね。身近な人に大切なお願いをする時は、きちんと誠心誠意こめて言葉を伝えるんだよ。いいね」

「「はーい」」

「はあ。話が逸れちまった。……続きといこうかね」


 先生が腿を撫でてから、授業が再開された。



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