1 怪異猟兵一之瀬晃人の日常

【タイトル】

 怪異猟兵一之瀬晃人の日常

 https://kakuyomu.jp/works/16816700429373274228


【作者】

 キロール 様


【ジャンル】

 ホラー


 ※魅力の項目にラストシーンのネタバレを含みます。ご容赦ください。※


【あらすじ】

「星降りの地をお鎮め願いたい」――日本皇国軍に所属する怪異を狩る軍人「怪異猟兵」である一之瀬晃人に、財界の有力者からの指名があった。星降りの地は今まで何度か開発のため手が入ろうとしたが、そのたびに事故が起こっているという。それだけならば大きな問題ではないが、依頼者が古来より存在する強大な怪異「土蜘蛛派」の頭目であることから、一之瀬は上官からの司令を受けて星降りの地へ赴くことになる。


【魅力】

 コズミックハートフルホラー、というジャンル名が心をくすぐります。コズミック・ホラーはいわゆるクトゥルフとか、ラヴクラフトの小説を説明する代名詞のようなものでしょう。名状し難い地球外生命体に対する、理解不能なものへの恐怖。それらは生理的嫌悪を催すような恐怖に分類できると思いますが、そこにハートフルがつくとはこれいかに。


 その融合こそが、この作品の魅力であり特徴であると思います。師と一之瀬、星降りの地に潜む怪異とそれに対する一之瀬の召喚。いずれも親子愛を感じることができ、この作品がハートフルなホラーである所以です。

 今作で一番印象に残っているのがラストシーンですが、正直私はクトゥルフのような異形のビジュアルは得意ではありません。蠢いているような外見を遠ざけてしまうし、できれば深く関わりたくないと思ってしまいます。そんな、理解を放棄してしまいそうな人間でさえ、ラストシーンの光景を読んで、そこにあったのは彼らなりの親子愛だったのだと、確かに感じることができました。空から黒い触手のようなものが降りてきたら、人間からすれば厄災に見えるでしょうし、わからないものが侵略している、と考えるかもしれません。しかし、その黒い触手が腕であり、赤子を抱きかかえるための親のものだと解すると、まったく違う思いが生まれるはずです。

 理解できないもの、外から来たものを人は忌避し、畏怖するものですが、一之瀬が召喚を行い、交信し、理解し難いものと通じたとき、つまり不可知を超えた瞬間にあったのが、人がよく知る愛情だったというのが、今作の醍醐味だと思うのです。

 読了後にコズミックハートフルホラーの題に偽りなしと納得し、何度か読み返して親子愛の対比と余韻を味わっていたい小説です。


【気になった点】

 文章から読み取れる世界観、そこから推測される雰囲気と、使われている語彙に若干の違和感を覚えました。それが作者様の意図されたものならば恐縮です。


 冒頭の荒野の描写は人の手の及んでいない見捨てられた土地、日常からは隔絶された場所であるという雰囲気が提示されています。硬派でどことなく寂しさを感じさせる導入なのですが、その後出てくる「ベッドタウン」というワードの繰り返しが悪目立ちしているような気がします。

 荒野が「集落からも見捨てられた土地」として表現する情報のひとつとして記載されているのかもしれませんが、四段落目からほぼ毎段落に「ベッドタウン」が出てきます。二話目以降を読めば他にも横文字は出てきますし、和語や漢語を重んじる世界観でもなさそうなのですが、ワードの繰り返しで語彙のマンネリを感じるせいかもしれません。今回はベッドタウンというワードへの提案になりますが、ベッドタウンの他に集落、住宅地、周辺住民など、他にも雰囲気、リズム、語感、文章を読んだときの流れを踏まえて単調にならない語彙の選択をしてもいいのかなと感じました。


【その他】

 皇国軍、と書かれると大正時代とかの日本軍をイメージしてしまいますが、西暦2022年のイフというのが、古来よりの怪異の存在と合わせて不可思議な世界観、非日常感に合っていると思いました。お地蔵様、懐が深い。

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