第30話 テイスティレス! ぽちゃドラがんばって食べる
ストックが心許なくなってきたので毎日更新は本日まで。
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【呪われたピースメーカー】
正式名称はピースメーカーK9カスタム・『ライチェス・ヴァルキリー"K"』
刻印:成長(呪)
ピーニャ・コラーディの銃技の師が、彼女の為にカスタムした逸品。
手にするモノに苦痛を与える効果を持つ、上級に近い呪いがかかってしまっている。(呪魂異常)
何かキッカケがあると、呪いが進化しそうな兆しを見せている。
ダンジョンからドロップするリボルバー式ハンドガンの一つであるピースメーカーシリーズの中でも、小型で取り回しのしやすいK9をベースに、ピーニャの手に馴染むようサイズや反動などを含めて大幅な改修をされている。
装飾も含め、すべてがピーニャの為に師が施したモノであり、彼女を大切に思う師の優しい想念が詰まっている。
その想いの強さ呪いで反転し、手にするモノに苦痛を与える銃になってしまった。
純白を基調とし金の装飾が施された美しい外見は、禍々しい漆黒が基調となり、金の装飾は血のような色に染まっている。
取り扱いのしやすさはそのまま、命中精度や威力などの性能面はかなり強化されているのだが、そもそも手で持つことが出来ない為、意味がない。
鑑定結果が丁寧だ……。
それに、刻印っていうのが気になる。
成長(呪)ってロクなモンじゃないよね?
いや、そんなことよりさ、ベッドに続いてまた人の想い出の品物が
でもこれで確信した。
ジンさんのベッドに呪いを掛けたのはコイツだ。
証拠とかないけど、私のカンが告げているッ!
だって呪い方の方向性というかノリが一緒な感じしない?
ジンさんのベッドといい、ピーニャちゃんの銃といい……思い出を穢す方向というか……。
「あの、ベル。
わたしの銃を返して欲しいんだけど……」
おずおずと訊ねてくるピーニャちゃん。
私はそれに対して首を横に振った。
「何で……」
泣きそうな顔をするピーニャちゃんに心が痛むッ!
だけど、こちらの様子を見ていたカツミッチェさんがやってくる。
「さっきも言ったけど貴女の銃はあいつの魔想術で呪いをかけられちゃったのよ。だからベルちゃんは渡そうとしないの。そうよね?」
それに、私はうなずいてから周囲を見回す。
悲鳴をあげたのはピーニャちゃんだけではなかったはずだ。
見回すと案の定、禍々しくなった色んなアイテムが地面に落ちている。それに触れようとすると痛みが走るらしくて、みんな困った顔をしていた。
……このまま放置するわけにもいかないし……しゃーないか。
「がぶ」
「ベルちゃん?」
よし――と、私は気合いを入れると、地面に転がってる呪われちゃった各種アイテムを全部食べて回ることにしたッ!
舌を伸ばして、しゅぱぱぱぱぱ~っん。
ぱくぱくぱくぱく、ごくんごくんごくん……。
「ちょっと魔獣ちゃん!?」
「え、おい!」
「それ……!」
「……おまッ!?」
みんなが口々に何か言うけど無視無視。
「がぶぇぇぇぇぇぇ……」
それにつけてもこのゲロマズ味の連続爆撃よ……!
私の舌の上では今ッ、不味さを炸裂させるホローポイント弾の弾幕が飛び交っているッ!!
だけどまぁ、解呪方法を見つけるまではこうやって預かっておくのが安全上一番いいよね。
幸い、私のお腹――収納ストマックに入れておくぶんには、呪いの影響とかないみたいだし。
周りからブーイングがくるけど、それを無視してカルミッチェさんのところへ戻る。
「がぶぶがぶがぶが、がぶぃががぶぶがぶが」
そしてカルミッチェさんに、そんな感じのことをお腹を叩きながら説明するけど、通じるかな?
「呪いが解く方法が分かるまで預かっておくってコトでいいの?」
「がぶ」
その理解でおーけーなので、私はうなずく。
ついでに、あんまりやりたくないけど、一度ジンさんのベッドを吐き出して見せた。
「ジンさんのベッド?」
それから、ピーニャちゃんの銃をその横に。
「……同じあるいは似たような呪いって言いたいのかしら?」
よし、通じた。
私は再び首肯すると、カルミッチェさんは大きくうなずいた。
そして――まだゲロマズベッドとゲロマズピストルを飲み込んで、お腹に収納する。
そのやりとりを見ていたピーニャちゃんが訊ねてきた。
「あの、特殊な呪い……なんですか?」
「そうね。市販の解呪系アイテムだと効果がイマイチなのよ。
でも触ると危険だから、しばらく預かってくれるみたい」
「わかりました。
ベル、大事な銃だから……その、消化とかしないでね?」
安心させるように私はピーニャちゃんの頭を撫でて、ウィンクをしてみせる。
それでたぶん通じたんだと思う。
ピーニャちゃんは笑顔に戻り一つうなずくと、カルミッチェさんと一緒に周囲の人たちに説明し始めてくれる。
私は意味のある言葉を喋れないので、伸びてるサブンの様子でも――と思ったら、サラトガくんたちがロープでぐるぐる巻きにしていた。
「ベル。
こちらが見ているのに気づいたのだろう。
デライドくんが顔を上げると、そんなことを訊ねてくる。
だが、生憎とそういう
「そうか。
ブレシアスは拘束してても、術で抜けだしかねないからな」
んー……詠唱されると困る……か。
もしかして、詠唱されなければいいのかな?
私はサブンをぐるぐる巻きにしているロープを軽く引っ張りながら、指を一本立てた。
もう一本ある、これ? って意味なんだけど、通じるかな?
「ロープ? もう一本……ってコトか」
よっしゃデライドくんに通じた。
「あるぞ。何かに使うのか?」
ロープを取り出して手渡してくるデライドくんに頭を下げて、そのロープをサブンの口元にあてる。
最初のひと巻きは口の中に入るようにして、あとは軽くぐるぐる……っと。せっかくだから硬結びにしてやるぜ。
痛そう? 苦しそう?
知ったこっちゃないね。口が使えなくなればいいのさ。
それにしても、私のこのぽっちゃりハンド……思ってた以上に器用に動くな。助かる。
私の様子を伺っていたデライドくんが感心したように漏らす言葉に、私はサムズアップで答えた。
「なるほど、ロープで無理矢理口を塞いだかやるな」
その横でサラトガくんとコンクラーベくんが何やら言っている。
「つーか、このデブドラ本当に会話できんだよな」
「模擬戦の時にギルマスが言ってたけど、本当に頭がいいんだろう」
そうだぞ。だからももっと敬って話しかけたまえ。
あと、サラトガ。お前さっきからデブドラって呼びすぎだ。
せめてぽっちゃりドラゴン。略してぽちゃドラと呼んで欲しい。
などとやっていると、この場にギルドマスターが現れた。
サラトガくんたちが「やべぇ噂をしたら……」とか何か言っているけど、私とギルマスは無視をする。
「なんか騒ぎが起きてるって聞いてきたが……ベル、お前か」
「がぶぅ……」
私が中心人物扱いはやめて欲しい。
なので、地面に転がってるサブンを踏みつける。
「ん? なるほど――無駄口が騒ぎの元凶か。
サブン・パスアティス。懲りないというか、反省しないというか……」
ギルマスの様子からすると常習犯なのかしら?
私が首を傾げた時、カクンと……急に膝からチカラが抜けて転びそうになった。
「ベルッ!?」
「が、がぶぅ……」
やっば……。
意識してなかったけど、そろそろ体力とか色々が限界なのかも……。
「おいおい……何があったか知らんが倒れてくれるなよ?
お前さん、結構重そうだからな。運ぶのが大変そうだ。せめてギルドまでがんばってくれ」
言ってギルマスはサブンを担ぎ上げる。
「ハーヴェイさん」
「カツミッチェ女史か。
騒動の関係者なんだったら、少しばかりギルドにつきあってもらって頂きたいのだが」
「ええ。行かせて頂きます。
でもその前に、ちょっと待ってください」
ギルマスと言葉を交わしたあと、カルミッチェさん改めてギャラリーを見回した。
「皆さん! 先も説明した通り、ベルちゃんのお腹の中にある限り呪いが持ち主を傷つけるコトはありません!
なのでしばらくは、彼女が預かるそうです!」
カルミッチェさんの言葉に、ギャラリーたちは顔を見合わせている。
「確かに触ると痛かったもんな……」
「実際、持ち運べなかったし、保存しておいてくれるなら、まぁ……」
「わざわざ呪いも解いてくれるっていうなら、いいのかな?」
その小さなざわめきは、どちらかというと肯定的なものが多くて安心する。
「また、ベルちゃんはお腹の中にあるモノの呪いを解く能力を持っていますが、今回の呪いは簡単には解けないようです。
もし皆さん可能でしたら、聖水などを筆頭とした呪いを解く清めのチカラを持つアイテムを用意して頂けたらと思います。
それらを一緒にお腹の中に納めると、呪いの解除が速まる可能性もありますので、是非とも協力して頂ければと。
ベルちゃんにとって、呪いを宿したアイテムというのは吐きそうなほど不味く、食べるだけで体力を消耗してしまうみたいなので、それ回復させるようなアイテムや食べ物でも構いません。
もちろん、ふつうに美味しい食べ物も大丈夫です。
それ以外にもベルは何でも食べますので、壊れた武具や調理器具でも食事として提供していただけるなら助かります。
もし協力頂ける方がいましたら、探索者ギルドの方まで是非よろしくお願いします」
そうしてカルミッチェさんがペコリとお辞儀する。
私もその横に立って、ペコリと頭を下げた。
……下げた時、軽く目眩がしてふらつく。
「ベルちゃん!?」
カルミッチェさんが慌てて支えようとしてくれるけど、それを私は手で制す。
「がぶ」
ギルドのある方角を指さす。
「ギルドまでがんばるのね?」
「がぶ」
うん。ちゃんと通じた。
そうしてフラフラと歩き出すと、背後から色んな声が聞こえてくる。
「ベルだったな。あとでギルドにアイテムもってくぞー!」
「呪いが解けそうなモノ持ってくから私のクシをお願いね!」
「あたしのリボンも頼むよ。何か美味しそうなモノもってくからさ!」
良かったぁ……みんな、カルミッチェさんの言葉を信じてくれたみたいだ。
振り向く気力はないけれど、それでもその色んな声に答えたくて、後ろ手に手を振ってみせる。
ちょっとキザかな――とも思ったけど、そのキザな背中はぽっちゃりした爬虫類っぽい奴の背中なのであった。
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ここからは週間更新にさせていただきます
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