第2話 出会いとは運命という名のデスティニー

本日2話目です。

1話目を見てない方はそちらからよろしく٩( 'ω' )و


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 しかしまぁなんとも珍妙な姿に転生したものだ。これ、完全にモンスターだよね。


 思考というか嗜好の影響は間違いなく受けてる。

 見るもの全てが美味しそうに見える感じは、間違いなく。


 あ~あ……なんていうか、いわゆる獣人とか亜人とか呼ばれる種族程度かなぁと思ってたら、まさかの竜種ですよ。

 ……いや、竜なのかどうかも怪しいけど。トカゲ?


 謎の大食い美人OLの二つ名にこだわりがあったのかと言えば微妙だけれども。

 いや、でも美人ってフレーズはときめいたかな。

 馴れないメイク込みとはいえ、そう言ってもらえるのは嬉しいし。


 ともあれ、前世の自分の容姿に思い入れがあったかと呼ばれると、それもまた微妙なワケで。

 他者から美人と呼ばれていたことに多少思い入れはアレど、自分の容姿そのものは、特別に思ったことはないから、問題はないかも。


 なんなら、この姿らしく愛嬌を振りまくか、前世のゲームに出てくるようなカッコいいデブや機敏なデブを目指して、モンスター界のアイドルを目指すのも悪くない。


 想像というか妄想に近いけど、それはそれで楽しそうだ。


 うん。よし。

 もっとちゃんとした目標が立てばいいけど、特に思いつかない間は、モンスター界のアイドルを目指してみよう。


 あとは、自分がどんなモンスターで、どんな能力を持っているかの把握が必要だよね。

 加えて、この世界における自分の立ち位置というかモンスターの立ち位置みたいなのも知りたい。


 だいたいは討伐対象とかだろうけど。

 ただ、同じ討伐対象であっても、こちらから手出ししなければ討伐されないのか、引きこもってても討伐しにくるのか――そういう範囲も知っておきたい。


 でも、それを知るには人間――というかこの世界における主たる文明種――に近づく必要があるんだよねぇ……。


 剣や盾なんかは落ちてた以上、それを作ったり扱ったりする文明はあるだろうから、モンスターパラダイスな世界ではないと思うけど。


 それならそれで、何でも食べれる能力というのはサバイバル向きだと思うし悪くないよね。


 一番最悪なのはモンスターにとってのパラダイスとは異なる、むしろモンスターをハントするのがアタリマエな世界だった場合だと思う。

 見敵必殺。モンスターと書いて飯の種と読む。


 ドーモ、モンスターさん。ハンターです。チェストー!


 ――とかやられる世界だった場合、本当にやばい。

 そんな世界だった場合、サバイバルの難易度が跳ね上がる。モンスターにとってのサツバツワールド。それはセツジツにごめん被りたい。


 自分が有用な、良き隣人になりうる存在だとアピールした時に、ちゃんと迎え入れてくれるような、そういう文明世界であってほしい。いやマジで。


 などと、湖面に映る自分の姿見ながらグダグダしてても仕方がないので、動こうか。

 私は、鏡のように空や風景を映し出している美しい湖の水を、満足行くまで飲んでから立ち上がる。


 まずは、この森から出よう。

 いざとなったら、木とか土とか食べればいいし、ひたすら真っ直ぐ進めば出れるでしょ、多分。


 そうして適当な方向に歩き出した私だったけれど――


「うあぁぁぁ~~ッ!!」


 突然、悲鳴が聞こえてきた。

 たぶん女の子だ。それも年齢は低めの。


 そんな子がふつうに入って来れる森なのかしら……? などと思いつつも、声が聞こえた方向へダッシュ。

 意外にも機敏に動けるこの身体。機敏なデブを目指すまでもなく、成立してる。やったぜ。


 それなら、次に目指すはカッコいいデブだ――ッ!


 心の中で握り拳を作りながら、私は木々の隙間を縫っていく。


「こ、こないで……ッ!」


 女の子発見ッ!


 角度によっては黒にも見えそうな深い緑色の髪をした、可愛い子だ。なんかちっちゃい。


 対するは、紫色の体毛をした狼。女の子とのサイズ比を思うと、大きい方なのかもしれない。

 狼の眼差しは、完全に獲物を狙う目だ。今日のランチに、あの子を選んだようである。


 よしッ、これはチャンスだ!

 私が悪いモンスターでないアピールをできるぞ!


 ま、そんな打算はさておいて。

 さすがに幼女といっても差し支えなさそうな女の子を見捨てるなんて、元人間としては出来ないしね。


 あとは、この身体が戦えるかどうかだ。

 これだけ走れるんだ。たぶん大丈夫!


 格ゲー界隈の――いや、格ゲーだけじゃない。RPGとか、ラノベとか、マンガとか、何でもいいッ!

 フィクションでもノンフィクションでも、全ての戦えるデブのみんなー! オラにチカラを分けてくれ~ッ!


 ……ってなお祈りしつつ、この身体で出来そうなアチョーな必殺技を試してやるぜぃ!


 決意と覚悟が完了すると同時に、私は勢いよく茂みから飛び出す。


 まずは一発ッ!


 身体に対しては短いけれど、それでも竜(?)の腕で繰り出す掌底だッ!

 体格的にも手の形的にも張り手っぽいけど、掌底だと言い張らせてもらうからッ!


 飛びかかりつつ、腕を引き――その手にチカラを込める。肉球はないけど、私の掌ッ、堪能しやがれッ!


太竜トリュウ掌底破ショウテイハ


 頭の中に、そんなフレーズが沸いてでる。

 私のイメージにはそんな言葉はない。

 だけど、不思議とこれから放つ技がそういうモノなのだと本能が理解する。身体がより適切な動きをとろうと、勝手に動くッ!


 それならいっそ、技名叫んでキメてやるッ!

 私は狼に飛びかかりながら、てのひらを突きだしたッ!


「がぶぅ、がぶがぁばッ!」


 しかし、私の口から発せられたのは技名などではなくどこか可愛げのある唸り声。いや鳴き声?


 だけど、それは今はどうでもいい。

 本当はちょっと残念だけど、どうでもいい! どうでもいいんだってばッ!


「グガァッ!?」


 私の掌は狼を捉えて吹き飛ばす。

 でも、これで決着は付かないらしい。


 ゴロゴロと転がった狼は、けれどもすぐに立ち上がり私を睨む。


 その狼に対抗すべく、私は左手の甲を狼に向けて、指先で来い来いと挑発するように動かした。


 来いよッ、ワン公ッ! 私がペロリと平らげてやるッ!


 そんな感じのことを叫んだつもりなんだけれども。


「がぶばッ、がんぶぁ! がぶがががぶぶががぶがぶががぶぁッ!!」


 出てきた声は鳴き声だけ。

 うん。確信した。今の私、人の言葉を喋れない。


 でも、狼には通じたらしい。

 明らかに怒気をはらんだ狼は、ターゲットを幼女から私に変える。


 そのことに安堵しつつ、私は考える。

 ほかに何か必殺技はないだろうか。

 今みたいに、ふわっと閃いたりしないだろうか。


 まぁそうそう上手く行くわけはなさそうだ。

 でも掌底破だけだと決め技にはならないよなぁ……。


 そうなると、殴るよりもこの体格を利用した重量を使うのがいいよね。


 よし――出来るかどうか分からないけど……。


 狼が地面を蹴る。

 私は構える。


 飛びかかってくる狼。

 それを私はギリギリでかわして、背後から首根っこを両手で掴んだ。

 さすが機敏なずんぐりボディ! 前世よりも動けるじゃん!


 うっし! これなら……ッ!


 私は狼を首を捕まえたまま大きく跳び上がり、ジャンプ頂点から勢いよく地面に投げつける。


「ギャン!」


 堅そうな土に叩きつけられ、狼が悲鳴を上げた瞬間――再び私の脳裏に必殺技の名前のようなものが過ぎっていく。


太投タイトウ百貫圧ヒャッカンアツ


 技名が叫んでも鳴き声になっちゃうのは分かっているけどさ、だけど叫ぶでしょッ! シチュエーションがこれならさぁッ!!


「がぶばぶッ! がぶばぁぶッ!」


 そうして空中にいた私は、地面に倒れ伏す狼に向けて、全体重を乗せたヒップアタックで押しつぶした。


 ドスンという音と共に、思ってた以上に衝撃が発生した気がする。

 脳裏に技名が過ぎったことで、必殺技として成立したのかもしれない。知らんけど。


 とはいえ完全に倒せなかった。

 まぁ狼は目を回しているので、グッタリしてるんで、私は狼を両手で持ち上げて、そのまま口に入れて飲み込む。

 うむ。不味くない。いや、味は何かよく分からんけど。


 ともあれ、これで脅威は去った。


 私は小さく息を吐き、幼女の方へと振り向いた。


 黒に近い緑色の髪と、前髪の下に少し隠れているオレンジ色の綺麗な瞳を、怯えた様子で揺らしている。


「う、う……た、食べないで……」


 怖がってるところ申し訳ないけど。

 いや、本当に申し訳ないんだけど!


 めっちゃ可愛い……!!


 この子、とんでもない美少女なのは間違いない。

 将来、前世の私なんて目じゃないほどの美人になる!


 まぁそんな可愛い子が全力で怯えているので、何とかしないと。


 ええっと、僕は悪いモンスターじゃないよー!


 そんなアピールを込めて適当に踊る。

 なんかフラダンスっぽいやつ。いや、脳裏に過ぎった踊りがそれだけなんだけど。


 手を横に伸ばしてぐにゃぐにゃ~……あ、見てくれない。

 えーっと、えーっと、どうすれば怖くないアピールできるかな……。


 ……と、待てよ。

 目の前であの狼を食べたんだから、そりゃビビる。

 次は自分の番だって、怯えるのも無理はない。


 そうなると……。


 私は幼女に嫌われるの覚悟で、ゆっくりと近づいていく。

 彼女は自分を抱きしめるようにギュと小さくなる。


 ううっ、怖がらせてごめんよー。

 大丈夫。私、怖くない。怖くないよー。


 そんな思いを掌に乗せて、ゆっくりと彼女の頭をなでた。

 出来るだけ優しく。食べたりしないから、安心して、と。


 触った瞬間、ビクンと彼女の身体が大きく跳ねる。

 怖くて怖くて仕方ないという様子で、まなじりからは涙が零れて。


 だけど私は、それでも優しく撫でることを繰り返す。

 彼女が落ち着くまで。大丈夫だから。私は貴女を食べたりしないよ。


 しばらくすると落ち着いてきたのか、ゆっくりと幼女は顔を上げて私を見た。


「食べ、ないの……?」


 その姿に、お姉さんの胸はキュンとキタ!!

 まぁ今のお姉さんの姿はモンスターだけどな!!


 そんな私の心の中などさておくとして――不思議そうな顔をする彼女に、私はゆっくりと小首を傾げる。出来るだけ愛嬌を振りまくように。


「助けて、くれたの……?」


 その問いに、私はうなずく。

 こちらは出来るだけ、意図が伝わるように真面目にしっかり。


 すると、彼女は立ち上がって私のお腹にしがみついた。

 幼女は私の柔らかい腹部もちもちぽんぽんをぎゅっと握って――あ、痛くない。良かった――しがみつく。


 気分は、バス停で傘を借りる系森の不思議な生き物だ。

 このまま彼女をしがみつかせたまま空を飛べたりすると楽しそう。


 ……いや、そんなしょうもない妄想はともかくとして。


「怖かったッ! 怖かったよーッ!」


 私は、私にしがみついたまま大泣きする幼女を優しく撫でる。

 彼女が落ち着くまで、私はずっと彼女を優しく撫で続けた。


 モンスター界のアイドルも捨てがたいけど、ちょっと思っちゃったわ。私、この子のこと守りたい……って。


 後になって思えば、これはきっと運命の出会いって奴だ。

 英語でいうならデストロイ……じゃなかったデスティニー。


 赤い糸なんてものじゃないけれど、この姿のままこの世界でよろしくやっていくのに、必要だった出会いってやつ。


 転生してモンスターになった私にとって、最重要人物である女の子との出会いは、こんな感じだったのである。まる。


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 明日以降はお昼頃に更新していく予定です٩( 'ω' )وよしなに!


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