ずるい炎上よりけり

エリー.ファー

ずるい炎上よりけり

「何を読んでいかれますか。お好きな本をどうぞ」

「立ち読みされるなら、そこの椅子に座ってどうぞ。いや、買わなくても大丈夫ですよ。楽しんでもらえればそれだけで十分です」

「まぁ、売れたら、そりゃあ嬉しいですけどね。はは」

「寒くなってきましたね。今夜は雪が降るかもしれないなあ」

「大人になったら、もっと毎日が楽しくなると思っていましたよ」

「好きな本は、色々ありますけど。そうですね。辞書とか好きですね」

「若いころはミステリーとか読んでましたね」

「本屋も少なくなりましたよ。このあたりだと、うちしか残っていないんじゃないかな」

「本は好きですよ。でも、一番は自分ですね」

「本って難しいですよね。いつ読むのが適切なのか、今もよく分からないです」

「本をプレゼントですか。あぁ、なるほど。それは結構、難易度高いと思いますよ」

「有名じゃなくても、面白い本はたくさんあるんですよ」

「人と本の価値は同じくらいですからね」

「活字が好き、というわけではないんですよね。あの、難しいところではあるんですけれども」

「さっき、小説家さんが来てましたよ。話しかけてみたらどうですか」

「今日は臨時休業なんですけど。いいですよ、開けましょうか。いえ、気にしないでください、どうせ暇ですし」

「一応、これが私のオススメの本です。好きなものがあったら自由に持って帰って下さい」

 

 即効性のある死をプレゼント。


 あなたのための時間を喰らわせる。


 青い空に似合う殺人鬼。


 設定に頼った殺し屋は早々に死ぬべきだ。


 金色と銀色には血液が良く似合う。


 真夜中は誰かのために近づいていく。


 純白は狂気に近いものであるべきだ。


 闇夜に似合う月提灯。


 星と並べて青息吐息。


 海は雲に近くなり凍てつくことはない。


 真白の光線銃。


 言語藝術は魂を奪うために存在している。


 完全に甲虫男。

 

 暗雲は無色透明。


 白鯨ラフマニノフ。


 グラスハンブラム。


 心の形式に色は憑物だ。


 空を固めておいてくれないか。


 直線からはじまる五行。


 封じられた罪人を解放してほしい。


 白線と千年を君は待っていた。


 西側奇数か東側偶数か。


 浮かび上がれない蒼山羊。


 磨かれぬ否定思考。


 不定の黒。


 理からおやすみまで。


 九段の八月式七月。


 沼地の机上論。


 町から本屋が消えても、何も変わらなかった。何せ、多くの人たちにとって、本屋というものはそれほど足しげく通う場所ではなくなっていたからだ。思い出は少なく、影は薄い。しかし、それでも好きな人間はいる。本が好きで、店員が好きで、本屋が好きな変わり者がいる。いずれ、世界中から本屋は消えてしまうかもしれない。本屋という存在を忘れてしまうかもしれない。辞書にすら載らなくなる日が来るかもしれない。でも、本屋という空間が好きだ。そこに流れる時間に身を任せていた日々があった。確かに、ここには本屋があったのだ。間違いなく、絵本と小説と実用書と雑誌とメモ帳と駄菓子が少し置いてある本屋があったのだ。感謝しかない。まばらでも、大きな拍手を。掛け声とクラッカーの音を。どうか、この幕と共に。


「そうなんですよ。凄く長いですよね、この本のタイトル。本のあらすじがほぼ書いてあるような感じだから、買う意味あるのかって思うかもしれないですけど、結構いいですよ。オススメです。あぁ、この本屋ですか。経営状態は良好なので普通に続きますよ。喫茶店を併設したり、スペースを貸したり、やりようはあるんで。はい、まぁ、どうにかなりますよ」

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