第16話 GW③ 遊園地デート
GW三日目。
俺達は五時半に起きて新宿に向けて電車を乗り継ぎ、着いたあとは高速バスに乗った。今日の行き先は山梨の富士急ハイランドだ。
「……悠くん、寝てもいい?」
眠たげそうな日菜乃が聞いてきた。
「いいよ、着いたら起こすからゆっくり休みな」
「……ありがと」
そう言うと日菜乃はまぶたを閉じた。さすがの日菜乃も疲れているだろう。この二日間だけでもかなり歩いたりしたからな。
そんな俺もさすがに疲れてしまっていたのか、日菜乃が眠ってから十分後に俺も眠ってしまった。
そして新宿を出発して二時間で俺達は富士急に着いた。
「……ついた~、あそぶぞ~」
「……お~」
ぐっすり眠ってしまい、二人揃って寝ぼけていた。
「……とりあえず、眠気覚ましにきついの乗るか?」
「……そうだね」
俺達は一番スピードの出るジェットコースターに並んだ。
二十分ほどで順番が回ってきた。
未だに眠気の覚めてない俺達は頭がボーっとしたままの状態で乗り込んだ。
ゆっくりと列車がスタートし、徐々にスピードが上がっていくに連れて俺達の眠気も覚めてきた。
「……な、なぁ?日菜乃、今更だけど大丈夫だよな?」
「だ、だいじょうぶだよ。きっと、うん」
冷静さを取り戻したがここに来て怖くなってきた。しかし、もう遅かった。列車はすでに最高到着点に届いていた。
その瞬間だけ自分のまわりだけ時間が止まっている感覚がした。
そして列車は勢いよく急降下して行った。身体が宙に浮くような感覚と臓器が上下に揺さぶられるような気持ちの悪い感じが襲い掛かってきた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
あまりのスピードの速さに俺達は叫ばずにはいられなかった。だがこの爽快感。……楽しい。
「あはははははははっ!」
俺の悲鳴が自然と歓声に変わっていった。
「いえーい!やっほー!楽しい!」
俺の歓声で日菜乃も気持ちが変わったのか、笑みがこぼれていた。
「日菜乃」
「悠くん」
無事に乗り終えた俺達は顔を見合わせた。
「めっちゃ楽しいな!」
「うん!楽しかった!」
「あそこから降りるときのびゅーって感じが堪らなかったな!」
「うん!あとはあそこのカーブ!ぐいーんってあのスピードで曲がっちゃうんだもん!」
俺達は互いに語彙力の無い感想を言い合いながら盛り上がった。
「よっしゃ!乗るだけ乗りまくるぞ!」
「おーう!」
ジェットコースターの楽しさを知った俺達は急いで次のアトラクションに向かった。もはや恐怖心など無くなっていた。
俺達は絶叫系の楽しさに気付いてしまったのだ。もうすぐ帰りのバスの時間が近づいてきた。俺達は乗れる絶叫系はほとんど乗り尽くして大満足していた。
「いやー、ほんと楽しかったな!」
「うん!いっぱい叫んだし、いっぱい乗れたからほんと良かった!」
だが、ここの名物を一つ忘れていることに気が付いた。
「日菜乃、最後にあれ行くか」
「……あれって?」
「戦慄迷宮だ」
「ほんとにいくの……?」
日菜乃の顔から血の気が引いていた。
「もしかして怖いの苦手か?」
「そ、そんなわけないじゃん!こ、怖くないし!余裕だよ!」
少し震え気味の声で日菜乃が答えた。
「じゃあ大丈夫だな!行こう!」
「え、ちょ、待ってよ!悠くん~!」
俺は日菜乃の手を掴み、戦慄迷宮に向かった。
……実際に間近で見ると凄い威圧感だ。
まさかここまでのものだとは思っていなかった。
「悠くん、やっぱり帰ろうよ……」
もうすでに日菜乃は泣き出しそうだった。
「大丈夫だって。俺がいるし、ずっと手握っててやるから」
「分かった。絶対だよ、絶対に離さないでね!」
そうして俺達は戦慄迷宮へと入っていった。
「悠くん、暗くて何も見えないよ……」
「大丈夫、俺から離れるなよ」
とは言ったが、すでに日菜乃は俺にベッタリ抱き着いていて離れるはずもなかった。
『ガシャン!』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
日菜乃が悲鳴を上げた。
「日菜乃大丈夫だ、何か物が落ちた音だ」
「ゆ゛うぐん、わ゛だじ、も゛うだめ゛がも゛」
もう日菜乃は泣き出してしまい、精神面は限界だった。
「大丈夫か?棄権するか?」
「……んんんっ」
日菜乃は首を大きく横に振った。そんな状態でほんとに大丈夫なのかよ。
「じゃあ進んでいくぞ」
……あとは言うまでも無いだろう。
日菜乃はひたすら叫び続けて、やがて気を失ってしまった。
「あれ?私なんで?悠くんにおんぶされてるの⁉」
日菜乃が目を覚ました。
「ああ、お前、戦慄迷宮の中で気絶しちゃったんだよ」
「え、そうだったの?なんかごめん」
「いや、謝るのは俺の方だ。苦手なのに連れていってごめんな」
「だから!苦手じゃないってば!」
「じゃあなんで気絶したんだよ!」
「……分かんない、でも怖かった。慰めて」
俺は日菜乃を背中から下ろし、頭を撫でてあげた。
「もう!彼女にあんな怖い思いさせてそれだけで満足すると思ってるの!?」
「ったく、しょうがねぇな」
俺は緊張しながらも日菜乃の顔に近づき、そのままそっと唇を重ねた。
「これでどうだ?」
「……ひゃくてん」
日菜乃は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてそう答えた。恥ずかしがるなら最初から言うなよ。遊園地にど真ん中でキスした俺の気持ちを考えろ。
だけど、これが俺から日菜乃にした初めてのキス。勿論、俺も恥ずかしかったがそれ以上に攻められるのが苦手な日菜乃にとって、今日のキスはきっと忘れられないものになっただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます