第14話 GW① 水族館デート
GW初日。俺はいつもより少し遅く起床した。昨日がGW前の最後の仕事だったのだが、追い込みが激しすぎて若干疲れている。
それでも今日という日を心待ちにしていた今の俺にとって、そんな疲れなど微塵も感じていなかった。
日菜乃が九時頃に一度俺の家に来る。そのあと一緒に出掛ける予定だ。
現在の時刻は七時半、俺は今日何を着ていくか考える事にした。
今日は少し肌寒い気がしたので、俺はテーラードジャケットにテーパードパンツといった、ラフだが少し大人っぽく見える服装にした。
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
今日もいつも通りにインターホンが鳴った。俺もそろそろ慣れてきてしまって何も思うことなく玄関に向かうのであった。
「はいはーい!悠くんおっはー!」
「ああ、日菜乃おはよ」
「えへへー、楽しみ過ぎて昨日全然眠れなかったよ、……ふあぁ~」
日菜乃は少し眠そうな顔で軽くあくびをした。
「まあ、とりあえず家入れよ。少しお茶でも飲んでから行こうぜ」
「はーい」
俺達はソファに座り紅茶を飲んで一息ついた。
「ねぇねぇ、悠くん?今日の私どうかな?」
そう言うと日菜乃は立ち上がり、俺に今日の服装を見せてきた。
「凄く似合ってるよ、可愛い」
少し素っ気ないというか、もっと褒めるべき言葉があったと思うが俺には日菜乃の姿を見て、これくらいの言葉しか出てこなかったのだ。
日菜乃は、ベージュのシャツに白のロングスカートと自分のスタイルの良さを強調させるコーディネートだった。いつもの百倍は美しく見えてしまった。
街の中を歩いたら間違いなくモデルと勘違いされてもおかしくないレベルだ。
「もーう!悠くん、それだけ〜?」
日菜乃が不満げそうな表情で答えた。
「ちょっとあまりにも可愛すぎて言葉が見つからなかったんだ。綺麗だぞ、日菜乃」
俺の言葉に日菜乃は過剰に反応し、頬を赤らめて後ろを向いてしまった。
「おーい、日菜乃?」
「……悠くんのばか」
あまりにも小さな声だったので俺には聞き取れなかった。
「なんだって?」
「なんでもない!」
「顔赤くなってるぞ?」
「赤くなってないもん!べ、別に嬉しかったわけじゃないんだからね!」
おいおい、お前いつからツンデレキャラの設定追加されたんだよ。
「ま、いいか。そろそろ水族館行くか」
まだ日菜乃の顔が赤いままだったが時間も押していたので向かうことにした。
今回、俺達が最初に行く水族館は『アクセル アクアパーク品川』だ。日菜乃にどこの水族館がいいか聞いたところ、真っ先にここがいいと答えた。
ここでは光や音の演出により幻想的な空間を作り上げている。特にデジタルアートと水槽で泳ぐ魚たちの融合はとても斬新である。今までの水族館では考えられない、新世代の水族館だ。
俺達は品川駅で電車を降り、徒歩で約二分の水族館へと向かった。到着した俺達は券売機で入場券を買い中へと入っていった。
さすがGWといったところだ。家族連れにカップルと大勢いる。
これは、まるで人がゴミのようだ。
……失礼、言ってみたかっただけなんだ。今のは忘れてくれ。
「人、いっぱいいるね」
あまりの多さに驚いたのか、日菜乃の口から言葉が漏れた。
「しょうがないよ。ここは東京で一位、二位を争う水族館だ。このくらいは予想してたよ」
「そっか、悠くんからはぐれないか心配になってきた……」
「そんなに心配なら、『手』、繋ぐか?」
俺は日菜乃に左手を差し出した。
「うん!繋ぐ!」
日菜乃は笑顔で俺の手を握った。
「じゃあ、はぐれないようにゆっくり進んでいくぞ」
進んでいった俺と日菜乃はこの水族館の魅力にあっという間に吸い込まれた。
特に日菜乃は大はしゃぎだった。
「ねえ!悠くん!このクラゲの水槽凄いよ!インスタ映えだよ!インスタ映え!早く写真撮って!」
めちゃくちゃテンションが高かった。日菜乃の弾けるような笑顔と楽しんでいる姿を見れて俺は連れてくることが出来て良かったと実感した。
日菜乃が水槽の魚に見惚れている中、俺は時間の確認をしていた。
「日菜乃、一時半からイルカショーがあるんだが見るか?」
「もちろん!そのために来たんだもん!」
ここは水槽も凄いが、一番の目玉はイルカショーである。
イルカのダイナミックな動きに加え、音楽に照明、天井から落ちる水のカーテンなど、見所満載なのである。
そして大型の円形プールで行うため三百六十度どこからでも楽しめるのもポイントだ。
「悠くん、でもまだ一時だよ?見るには早くないの?」
「ギリギリで行くとな、既にいっぱいで座れない事の方が多いんだよ。だからある程度は余裕を持って行った方が前の方に座れる確率も高くなるんだよ」
「随分と詳しいね?もしかして調べてくれたの?」
「当たり前だろ?折角来たのに立ち見で見るのも嫌だろ?」
「ほんと優しいね、ありがと♡」
そう言うと日菜乃は俺の左腕に抱き着いてきた。
「お、おい。こういう場ではさすがに止めてくれよ。恥ずかしいだろ」
「別にいいじゃん~、減るもんじゃないんだし♡」
日菜乃を引き離すことが出来ないので俺達はそのままイルカショーの会場に向かった。
俺の読み通り、無事に座ることが出来た。日菜乃の要望で近い方が良いということで俺達は五列目辺りに座った。勿論、水を被る可能性があったのでポンチョを購入した。
大迫力のイルカショーに圧倒され大満足の俺達だったが、流石にポンチョだけでは防げるわけもなく普通に濡れてしまった。
「あぁ~。ポンチョ被ってたのにびちゃびちゃだよ~、最悪」
「あれだけ近かったんだ。しょうがないさ」
……俺は思わず濡れた日菜乃の胸に視線が行ってしまった。急いで視線を逸らしたのだが。
「悠くん?私のおっぱい見てたでしょ?」
「はい、すいません」
俺は潔く認めた。
「今更見られても別に問題ないけどね~、お風呂で見られちゃったし♡」
「ここでそういう事言うの止めてくれ!」
見てしまった俺も悪いが、日菜乃にはもう少し公共の場では自重して欲しい。
一通り見終わった俺達はお土産を買って帰る事にした。悩んだ末、ピンクとブルーのイルカのぬいぐるみとイルカの形をしたミルククッキーを買って俺達は水族館を出た。
「さてと、じゃあ帰るか」
「悠くん!」
日菜乃が大きな声で俺の名前を叫んだ。
「どうした?」
「今日はありがとう。私こんなに楽しかったの生まれて初めて。悠くんがしっかり計画立ててくれたから隅々まで水族館堪能出来た。本当にありがとう……」
日菜乃の声が震えていた。友達のいない日菜乃が今日という日をどれだけ楽しみにしていたかが伝わってきた。
「日菜乃、ありがとうを言うのはまだ早いぞ。まだ明日も明後日も残っている。楽しいのはこれからさ。俺はお前が楽しめるように頑張る、だからお前はいっぱい楽しめ。それが今の俺の幸せだ」
「……うん。分かった」
日菜乃の目から涙が溢れ出していた。
「よし、じゃあ帰ってご飯食べようぜ!」
俺は泣いている日菜乃の頭をそっと撫でた後、日菜乃の手を握り、ゆっくり駅へと歩き始めた。
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