第4話 ニートの俺と女子高校生の人生革命
言ってしまった、遂に言ってしまった、柊日菜乃に付き合おうと。
俺は顔を俯きにしたまま動けずにいた。
とてもじゃないが恥ずかしくて柊日菜乃の顔を見れない……。
「ねぇ、悠くん顔上げて?」
そう言われ、俺は顔を上げた。
俺が顔を上げた時、すぐ近くに柊日菜乃の顔があった。
彼女は、柊日菜乃は、俺の頬にキスをした。
あまりの出来事に俺は慌てふためき動揺した。
「あははは!悠くん顔真っ赤で面白い!次は唇を頂くからね♡」
「ふざけんな!何勝手にキスしてんだよ!」
キスされた俺の顔は確かに真っ赤に染まっていた。それはそうだ、いくら頬とはいえ、女の子にされるのはこれが初めてだったのである。
ちなみに妹にされたのはノーカンである。
「だって、悠くんから「付き合う?」って言われたのが嬉しくて♡」
「だからって、いきなりキスすんなよ……」
「ごめんね♡でもどうして付き合う気になってくれたの?さっきまであんなに否定的だったのに?」
「お前が俺に似ているからだ」
「え?どいうこと?」
俺はなぜニートになったのか、なぜ自殺しようとしたのか、過去の事も含めて全て話した。
「……って事があって俺は今ニートをやってるんだ」
「そっか、悠くんも大変だったんだね」
「別に同情して欲しくて話したわけじゃない、付き合う前に俺がどんな人間か知っておいて欲しかっただけだ。この話を聞いてもまだ俺と付き合いたいと言えるか?」
「うん!言える!」
またしても即答だった……。
「お前さ、ちゃんと考えて話してる?」
「ちゃんと考えてるよ!失礼な!」
さっきまで散々失礼なことしてたやつが失礼とか言うんじゃねぇよ。
「どうしてなのか分からないけど、私、悠くんとならありのままの自分で話せるの。あの日、悠くんを助けた日からずっと悠くんの事考えてた。あの人また自殺しようとしてないかなって凄く心配だった。そしてずっと考えているうちにあの人と付き合えばあの人はもう自殺なんてしないんじゃないかと思ったの」
「それで今日、俺がお前を助けたから告白するには絶好の機会(チャンス)だと思ったわけ?」
「そう!正解!大正解!最初は好きって感情じゃなくて助けてあげるって感情の方が多きかったんだけど、助けられたら悠くんがかっこよすぎて惚れちゃった♡」
こ、こいつ考えてるようで考えてない……、単純すぎる……。
「まあ惚れて好きになるのは勝手だが、俺はまだお前のこと好きじゃない。お前がさっき言った助けてあげるの部類だ」
「え~、なんでよ、好きになってよ」
「お前みたいな面倒くさい性格、俺が一番嫌いなタイプだ。話してくれるだけありがたいと思え、馬鹿」
「あ~!今馬鹿って言った!皆さん聞きました!?この人今私に向かって馬鹿って言いましたよ!」
「分かった分かった!うるさいから静かにしろ!馬鹿!」
「また言った!馬鹿って言った方が馬鹿なんだからね!」
お前は小学生か、馬鹿。俺は心の中でもう一度だけ言った。
「俺はまずお前の友達兼彼氏から始める。お前は好きなように俺に接して来ればいい」
「ねぇ~そのお前もやめようよ~。日菜乃って呼んで♡」
「あ~、分かった。ひ、日菜乃は好きなように俺に接すればいい、いいな?」
「うん!大丈夫だよ!悠くん♡」
「一人のお前を俺が支えてやる、覚悟しとけ」
自分で言っといてなんだが恥ずかしいな。
この歳で黒歴史作りたくないんだが。
まあ既に女子高生と付き合うって時点で終わってるんだがな……。
日菜乃の方を見ると、今まで見たことないくらいの満面の笑みでこちらを見つめていた。
……俺が知っているドイツの小説家、ヘルマン・ヘッセは言った。
『世の中には実に美しいものが沢山あることを思うと、自分は死ねなかった。だから君も、死ぬには美しすぎるものが人生には多々ある、ということを発見しなさい』
俺は今日、それを見つけてしまった。それくらい日菜乃の笑顔は美しかった……。
「私は悠くんのサポートいっぱいするね!私家事全部出来るから任せてよ!」
いや、東京来て一人暮らししてる女子が家事出来なかったら大問題だろ。
「俺たちはお互いの人生を変え合うんだ。人生に革命を起こすんだ」
「お!革命!なんかかっこいいね!」
「そうだ!革命だ!それくらいの強い気持ちでお互い頑張っていこう、日菜乃!」
「うん!私頑張る!悠くん!」
俺と日菜乃は付き合う事になった。このあと俺の人生がどのように変わっていくのか、この時の俺は何も想像できてなかった。
*
日菜乃と付き合うことになって迎えた日曜日の朝、俺はインターホンの音で目を覚ました。携帯を見るとまだ八時前だった。
「誰だ、こんな日曜の朝早くから……」
とりあえず、俺は無視をして寝た。
二日前の日菜乃との会話でさすがに疲れていた。
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
この鳴らし方をする奴を俺は一人しか知らない。
渚だ。俺は起き上がり玄関に向かった。
「おい、こんな朝早くからなんのようだ!なぎ……」
「あ!やっと出た!悠くんおはよう♡」
玄関を開けるとそこに立っていたのは渚ではなかった。日菜乃だった。
いや、おかしい。なぜ日菜乃が俺の家を知っている、俺は教えていないぞ。
「……なんでここにいる?」
とりあえず俺は日菜乃に当たり前の事を訊ねた。
「なんでって、悠くんの彼女だから」
「違う、なんで俺の家を知ってるのかって聞いてんだ!」
「ふむふむ、それはですね。私が二日前に悠くんと別れた後こっそり尾行していたからなのです!」
「そうか、どの辺まで尾行してたんだ?」
「そこの階段までなのです!」
俺は五階建てマンションの三階の一番階段に近い部屋に住んでいる。
日菜乃が指さした場所と俺の部屋は目と鼻の先だった、気付けよ、俺。
てかこいつの行動力すげぇな。
だが関心してる場合ではなかった。日菜乃が来た理由をまだ聞いていなかった。
「それで要件は?」
「悠くんに会いたくなったの」
「……それだけ?」
俺は玄関を閉めようとした。
「いやいやいや!ちょっと待ってよ!」
日菜乃が身体を無理やり押し込んで玄関まで入ってきた。
どうして俺の周りの女子は玄関のドアに身体ねじ込んでくるんだ。
「せっかく会いに来てくれた彼女を追い出そうとするなんてひどいよ!泣いちゃうよ?」
「ご自由に泣いてて下さい、俺はもう一眠りするから。おやすみ」
俺はベッドに向かった。日菜乃はむすっとした表情でこっちを見ていたが無視した。
そして俺は再び眠りに入るのだったがあと一歩のところで邪魔が入った。
玄関から寝室に向かってくる足音が聞こえた。まさかとは思ったが。
「わーい!私も一緒に寝る!」
「ちょ、おい、やめ、おふっ……」
日菜乃が俺のベッド目掛けてダイブしてきた。綺麗なダイブに思わず見とれてしまったが、見事に俺の上に落ちてきたため俺は撃沈した。
「お、おい、おりろ、よ」
「や~だ。一緒に寝よ?実を言うと私あんまり寝てないんだよね」
そう言うと日菜乃は俺の上で眠ってしまった。どうなってんだ、この状況。
てか、こいつ秒で寝たぞ。とりあえず俺は日菜乃を上から下ろし横に寝させた。
ここからが問題だった。
「ね、眠れねぇ」
それはそうだ。隣には女の子が眠っている、しかも女子高生だ。
何も考えずに寝ろという方が無理な話である。
それに何なんだ、この甘い香りは。
シャンプーなのか香水なのか、色々考えてしまい頭がパンクしそうだった。
そして何より困ったのは日菜乃の寝顔だった。まるで赤ん坊のようなあどけない寝顔だった、天使が俺の隣に降臨していた。
寝させるんじゃなかったと今更になって後悔した。
日菜乃が寝返りをうち、日菜乃の顔が俺のすぐ真横にまで近づいてきた。理性がどうにかなってしまいだった。
「……ゆ、ゆうくん……だいすき……えへへ♡」
日菜乃の寝言だった。きっと寂しくて眠れなくて会いに来たのだろうと、察した俺は日菜乃の頭を軽く撫でて寝ることにした。寂しい思いをしている女の子を横にいかがわしい事ばかり考えていたのではとてもこの先が思いやられる、俺は気持ちを切り替えた。
しかし、ここで予想外の出来事が起きてしまう。
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
再びインターホンが響いた。しかもこの鳴らし方、渚だ。
絶対絶命だった。今隣に寝ているのは渚と同じ女子高生の柊日菜乃、そして玄関には俺が日菜乃と付き合い始めたことを知らない渚。俺はどうすればいいのだ。
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