飛び降りようとしていた想い人を助けた後の関係値。〜彼女に拉致され『カフェ友』になったかと思ったら、今度は俺の勘違いで『同棲生活』が始まりました!?〜

ハッピーサンタ

プロローグ

第1話:想いは彼方へ──。

 天井のライトで照らされ、小さな丸テーブルの黒い木目までもがはっきりと俺の目に映る。


 そして、俺と彼女の間に響き渡るバイオリンとピアノが合わさった美しい旋律が、さらに瞳の奥の世界を呑み込んでくる。


 ──不思議だ。


 長くて透き通った黒髪を、一本のゴムでポニーテールに結び直す、セーラー服姿の美少女。


 俺は彼女によって、この場所へと誘われたのだ。


 いや、正確には強引に連行されたと言った方が良いか。


 ほんの数時間前まで──夕陽がまだ空に居すわっていたあの時まで、俺と彼女の間を結ぶものは、はっきりと言ってなかったに違いない。


 でもそれは、あくまで俺の主観で、の話だった。


 今の不思議に満ちた世界を眼に焼き付けた夜が明け、日が真ん中に昇った辺りで、それを知ることになる──。


 そう、彼女は俺を昨日よりも遥か前から信じてくれていたのだ。


 俺には未だに見えないものを、彼女はずっと前から見えて、いや、じっと見て、眺めて、逃さないでいてくれた。


 だから、今度は俺が彼女を信じる番だろ。


 まったく、自分が好きで自分を好きな奴のことを信じなくて、なによりも、自分を信じなくてどうするんだよ、まったく。


 ああ、やってやるとも。


 待ってろ、日野ひの……いや、水葉みなは


 下の名前で呼ぶと、やっぱ照れるな。


『よしっ!』


 俺はいつも通り喝!を自分に叩き込むと、犬のように腹を見せて甘えてくる猫が招く方へと歩き出した。


 

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