第6話、何となく、聞いた事があります!

 皆さん、『 人称 』って、御存じでしょうか?

 初めて聞いた方、良く分からない方… 今日は、スッキリ致しましょうか。(笑)


 物語には、いわゆる『 語り部 』の存在があります。 ストーリー展開を説明している『 文章 』の部分です。

 人称とは、それが『 私 』なのか、まったくの『 他人 』なのか……

 簡単に説明してしまうと、そうなりまね。 本来は『 自分 』( 書き手 )以外の『 誰 』に向けて発した語句なのかを指しますが、解釈が難しいので、『 語り部 』が誰なのか? とご説明させて頂きます。


 『 一人称 』の場合、『 私 』となります。

 『 三人称 』の場合、登場人物以外の、存在しない『 誰か』となります。


 よく分からない方の為に、またまた例文を下記に記しましょう。

 ↓


 私は、彼女を見た。

 彼女は、じっと遠くを見つめている。

 その、憂いを秘めたような瞳に映るのは、過去への追憶なのだろうか……

 私は、彼女に言った。

「 どうして君は、そんなに過去に拘るんだい? 」


 ↑

 一人称の、書き方です。

 物語の主人公は『 私 』で、私から見た情景・状況・心理が、文章として描写されます。

 続いて、三人称の書き方です。

 ↓


 彼女を見やると、じっと遠くを見つめていた。

 その、憂いを秘めたような瞳に映るは、過去への追憶か……

 雅人は、彼女に言った。

「 どうして君は、そんなに過去に拘るんだい? 」


 努めて、同じ状況とさせて頂きましたが、いかがでしょうか?

 つまるところ『 私 』目線で書き進めると一人称となり、『 他人 』から主人公を眺めた状況で書き進めると三人称となります。 状況描写・心理描写等に、若干の変化が必要となりますので、第2例文には、加筆・修正等を加えてあります。


 小説は、どちらで書いても構いません。 ただ、一人称の場合、気を付けなければならない事がありまして…… これは、非常に重要な意味を含みます。


 『 私 』が存在しない場面での描写が、非常に難しくなるのです。


 まあ、物語の状況的には『 出来ない 』とご説明した方が、正解かもしれません。

 下記に、例文を記してみましょう。

 ↓

 僕は、彼を待つ為、バス停のベンチに腰を下ろした。

「 早く来てくれないと、閉館時間に、間に合わなくなっちまうんだケドな…… 」

 はたして彼は、僕を待たさないでやって来てくれるだろうか?

 僕は、一抹の不安を覚えた。


 その頃、彼は自宅の玄関を出たが、財布を忘れた事に気付き、施錠した玄関を再び開錠して2階の自室に戻り、机の中を物色していた。

「 あれ? 財布が無いぞ? 」

 彼は腕時計を見やり、時間を確認する。

「 やべ、もうこんな時間じゃないか…! 」

 閉館時間が過ぎると、管理人室へ、新たな申請をしに行かなくてはならない。

 おそらく、あの警備員には、ヤな顔をされる事だろう。 気が重い…… 東館から、わざわざ本館へ行くのも面倒臭いし……

 彼は、慌てて机の引き出しを閉めた。


 ↑

 一見、問題は無さそうに読めますが、自宅で財布を探している『 彼 』の描写部分は、三人称になってしまっています。 更には、『 管理人室へ行く 』との記述にある心理描写は、当然、『 彼 』の心理になるのでしょうが、『 僕 』と言う、一人称で書いているのであるならば、『 見ていない 』他人の行動や心理を、そのまま『 僕 』が表記するのは、おかしな状態ですよね……?

 一人称の場合、先の章で触れさせて頂いた『 伝達節 』を用い、『 僕 』の心理の中でしか、他人の心理は表記出来ません。 更には、物語が展開している『 その場 』に『 自分 』がいない場合、『 他人の行動 』は、そのまま記述出来ないのです。


 …よく考えたら、当たり前ですよね?

 見ていないのに、その情景を『 語って 』いるのですから。


 書き手は、全ての状況・設定を把握していますから、このような不可思議な状態に陥ってしまっても、気が付かない事が多いのです。


 ……実は、この一人称と三人称を混同させてしまった創作物は、アマチュアの方の作品では、よく見かけます。 一部の方は、理解されておられるようで、プロローグ的に「 一人称・三人称を混同して創作してあります 」との『 前置 』を、よくお見受け致しますが、あまり良い事ではありません……

 登場人物の『 他人キャラ 』に説明させるとか、『 後で聞いた話だが… 』とかにするとか、創作的に解決すべき事項です。

 まあ、プロの作家さんでも、時々、意図的に人称混同の作品を執筆されますが、そこは、やはりプロ… 完璧に、違和感の無い作品に仕上げておられます。

 我々としては、まずは、基本に忠実に創作を進める事が大事でしょう。 人称については、よく理解をしておいて下さいね。



 あと、二人称と呼ばれる書き方もあります。

 超、簡単に要約説明させて頂きますと、これには『 語る者 』と『 拝聴する者 』の、2者しか存在しない記述の仕方となります。


 そんなん、あるの……?


 民話・童話的な創作にて、『 語る 』事に集中した書き方は、それに準ずるものもあるかとは存じますが、代表的なものとなると『 聖書 』ですかね。 『 神 』と『 あなた 』しか存在せず、神の行動・心理・考察を、一方的に説明・推奨する事に終始しています。 感動・起承転結などと言ったエンタメ要素や、テーマ性は一切なく、心理描写の記述も、ほとんどありません。 まあ、強いて言うならば『 独り言 』のような書き方ですね。


 …ただ、二人称で書かれた小説は、あまり読んだ事がありません。

 なぜなら、小説に『 なり難い 』からです。

 簡単に、例文を記しましょう。

 ↓


 食卓の上にあったリンゴを1個、手にし、あなたは思いました。

( これは、誰が買ったリンゴだろう? )と……

 おそらく、家の住人の誰かだと、あなたは思った事でしょう。

 しかし、今日、この家には、あなた1人しかいないのですよ?



 …ナンか、ヘンです。

 『 神父様 』のお話を記述したような… まさに、聖書の一部を映像化したような経緯すら窺えます。

 どうしても淡々と展開が進む為、いわゆる、『 オチ 』が待っているかのようにも想像出来る文章ですよね? 一種独特な世界観すら覚え、一風変わった創作を期待出来そうですが、こういった形態の読み物を欲する方が、一体、どれだけいらっしゃるか… です。

 中には、奇特な方がおられ、創意に同調されるかもしれませんが、わずかでしょう。 それ以前に、この形態が、小説として認知されるか否か……?

 小説と言うよりは、これは、エッセイのような感覚です。

 ……まあ、ある意味、ホラーならイケるのかもしれません。 いわゆる『 怪談 』を語っているようなカンジ……

 これなら面白そうですが、どうやって最後まで『 引っ張って行くか 』が、問題となります。 さすがに状況描写だけでは、ネタが切れますからね。

 更には、『 語り部 』と『 聞き手 』( 読者 )しか存在しないのですから、『 私 』とは記述出来ません。 常に、『 あなた 』の行動・心情を語る事しか出来ないのです。

 やはり、これは… かなりキツイかも……!


 上記させて頂いた例文以外にも、二人称の表現方法はある事でしょう。 しかし、やはり二人称での創作は、小説には『 なり難い 』かと……

 従って、小説創作における人称に関しては、『 一人称 』と『 三人称 』の2つで充分だと私は考えます。



 次章も、根気強く、創作を続けて参りましょう!

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