第5話 絆の架け橋

咳払いをする会長、慣れてくると優しい雰囲気が先行し始めて王位を継いだばかりの白馬の王子様って感じに見えてしまう。多分俺にとって去年学園のピンチを救っていたのは他人事だからだろう。でもその時いた生徒にとっては獣人の未来がかかった重要な局面であり、その危機を退け未来をほんの少しでも明るくした会長は偉大以外の何者でもない、一部の生徒に会長様と呼ばれるのは当然のような気がする。


「獣人の社会的地位向上のためには、ヒトと手を取り合うのが必須だ。それに向け世間では獣人保護条例や獣人の保険金など、ケモハラや低賃金に悩まされる彼らへの手当の量や質は少しずつだが着実に上がっているのは知っているね?」


「は、はい……いいことですね」


どうしようなんもわからん。なんか周知の事実みたいに語られてるから一般常識なんだろう、この世界では小学校で週一ぐらいの頻度であった道徳の授業で獣人だからって仲間外れにしちゃ駄目なんだって教わっているに違いない。


「しかしヒトが気付いているようでそうじゃないもう一つ獣人側にも問題があるんだ。獣人がヒトを怖がっているこの現状さ」


疑問がよぎる。そんな怖がられたっけ。校門で変な視線はあったけど、恐怖というよりここに人間がいることへの違和感……みたいな感触だった。


「それに去年前理事長の野望がバレて以来みな非常にナイーブになっている。なにせ典型的な獣人奴隷化運動の指揮者だったからね」


前理事長とどんな抗争の末決着がついたのかは是非教えてもらいたかったが、いま話の腰を折るのはなんかダメだ、ステータス下がりそう。てか獣人奴隷化運動とかそんな聞くだけで悪い奴らだって判断できるチープな名前でいいんだろうか、元の世界でいうところの白人至上主義と同じぐらいにわかりやすい邪悪さだと思う。


「しかし君は違う。獣人の幼馴染が2人……しかも遠巻きに見られていた彼らといつも一緒に遊んでくれていたんだって? 僕からも感謝を伝えたい」


全く見当がつかないが、この世界に来て再三再四体験してしまったせいでもう慣れっこだ。遠慮気味ながらどういたしましてと言っておいた。


「君には是非とも学園の生徒と交流を深めてほしい。そうする事でヒトと獣人の絆を結ぶための架け橋になってもらいたいんだ」


架け橋になるだと、ギャルゲーの主人公には荷が重過ぎるんじゃあないのか? ど偏見が過ぎるかもしれないが、モテるためにステータスあげていっぱい彼氏彼女作ってハーレム状態になるだけじゃなだめなのか? だめだ事前情報とか特になしでただAm○zonの評価だけ見て後先考えずに早朝ゲーム屋で衝動買いした浅はかな行為が今になって俺の命を刈り取りに来ている。そもそもただ元の世界に帰りたいだけなゲーマーにそんなこと頼むな。


冷や汗ダラダラな俺を心配してくれているつもりなのか、紅茶の味が好みじゃなかったのかと聞いてくる。いやそういうんじゃなくてさ、なんだろう天然なのか? どうやって元の世界に帰るんだよお先真っ暗じゃねえか。真ん前には斜め上の心配してくる会長、逃げても待っているのは俺の幼馴染こと優しい攻略キャラ2人(主人公の行動によってハーレム軍団の仲間になる)。そんでなぜか目に見える称号を獲得しました! というゲームでよくある通知のみ……あれ、なんだその通知は?


一気に元気になってしまった、視界に触らない文字が映る。SF展開が目の前で巻き起こってんのになんでこんな不反応だったんだ、場に囚われすぎだ。流石に触るような仕草をしたらさらに心配にさせてしまうからしないけど、それでも気になって仕方がない。


『おめでとうございます! 最初の称号「絆の架け橋」を入手しました! 元の世界に帰りたいなら3年間で全員落としてハーレムエンドを実現させましょう!


因みにクリアしないと好感度がゼロに戻った状態で何度でも3年間を周回してもらいますが、肉体の成長は止めておいたので安心して下さい!』


……悪魔だ。


「ど、どうしたんだい?」


「いいえなんでもないです。俺頑張ります」


「そんな宇宙に投げ出された泳げない人みたいな顔しながら言われても」


今の俺ってそんな修羅みたいな顔してんのかよ。ごめんなさいこの状況で感情は偽れても表情まで偽装出来るほど俺は大人じゃない。だけど流石に怠け者な俺でもこれは頑張るぞ、ってか頑張らないとダメだろう。


元の世界に帰るため、原因不明の理不尽なリアルギャルゲーが始まってしまう。景気づけに冷めはじめた紅茶を全て流し込む、やっぱりスパイシーなのが鼻を突き抜ける。うん、いい紅茶だ。







ステータス

ストレス 0

お金  10000円

学力  10

運動  10

流行  10

芸術  10

気配り 9

魅力  10

根性  12

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る