1週間以内に性行為をしないと死ぬ病気

Mari

(1)

気付けば俺は真っ暗闇の中に居た。


それから少し時間が経って目を覚ますと、俺が居たのは白いベッドの上だった。



「目が覚めたんですね!すぐに先生を呼んできます!」



状況がまだ掴めていなかった。

俺は誰だ?

自分の名前も分からない。


暫く窓から差し込む光で目を慣らしていると、熊の様な大柄な医者が俺のベッドの横に立った。


何だか少し表情が曇ってみえる。


「非常にお伝えし難いのですが.....」


医者は重たそうに口を開いた。




いやいやちょっと待ってくれ。

今なんて言った?



「あなたは1週間以内に性行為をしないと死にます」



だって?

俺が理解出来ずに思考停止している間に話を終えた医者の姿は無く、ベッドテーブルの上には今医者が言った言葉そのままが記載された紙が置いてあった。



『あなたは1週間以内に性行為をしないと死ぬ病気にかかっています。

  1週間以内に異性との性行為を遂行して下さい。』



何だこれは。

ふざけてるのか?

そもそも俺は何で病院のベッドに居るんだろうか。

目を覚ます前の記憶がまるでない。


暗くて、少し生温かい湿ったところ。

ずっとそんなところに居た気がする、とぼんやりとした感覚だけ。



異性との性行為。

目を覚ます前の記憶がないから童貞かどうかも分からないけど感覚的にまだ童貞な気がする。

あれ?なんだ。ちょっとだけ悲しくなった。


無性に外の空気が吸いたい。

そんな衝動に駆られて、俺は病室の窓を開け放った。

カーテンで隠れていた窓の外は道路に面していて、2車線の道路には車が渋滞を成していた。



ふと、歩道を歩く女性に目が行く。

大きな胸ではち切れそうな半袖のピタッとしたTシャツにデニムのホットパンツ。

この距離からでも豊満で色気のある身体をしていると判断出来るほどだった。



彼女を作らないと。



そうしなければ、俺は死ぬ。

だとすればこんな所に居るよりも外に出て彼女を探した方がいいのではないか。

正直俺は何故病院に居るのか分からない。

どこも痛くないし普通に歩ける。


俺は窓枠に足を掛け、そのまま外に飛び降りた。


地面に足が着いた時、少しじーんとする感覚はあったものの特に怪我等はしなかった。

振り返って病院の方を見上げると、下から数えて4つ目の大きく開いた窓からカーテンが風に靡いていた。


歩行者が俺の方に訝しげな視線を向けてくる。

そりゃ、急に4階から飛び降りてきたら怖いか。


ってそんなことはどうでも良い。

俺は先程の女性の歩いて行った方向に歩を進めた。


居た。


陽に照らされて少し茶色がかった肩で切り揃えられた黒髪と、きゅっと締まる括れた後ろ姿。

俺は女性に声を掛けようと近付いた。



「あ、の。俺の彼女になってください!!!!」



良し。言えた!

これで後は性行為をしてしまえば俺の死は無くなる!!


「はぁ?キモいんだけど」


女性はそう言うと軽蔑の入った様な目線で俺に投げ付けて足早に去っていった。




待て。

そんな筈じゃなかった。


.....彼女ってどうやって作るんだ。



俺は女性の括れた後ろ姿をぼんやり見つめたまま立ち尽くしていた。


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