第28話 調査に参加してみよう。(ミサゴ)
「宮草さん、野鳥の調査に参加してみませんか?」
知人のCさんからそんなお話をいただいた。Cさんは地元で環境の保全に取り組んでいて、植物に詳しい方だ。私とは以前の職場で知り合った。
Cさん曰く、知り合いのDさんが野鳥の調査をしていて、地元で鳥の調査をしてくれる人を探しているらしい。そこで、私を紹介したいのだそうだ。
Cさんには以前から大変お世話になっているうえ、今後地元の環境を守っていくための人材育成の大切さを熱く語られたので、断るわけにはいかない。
「まずは見学からで、いいでしょうか?」
とりあえずそう返信をした。しかし、調査か……。
学生の頃、野生動物の調査には何度か参加したことがあるのだが、あまり良い思い出がない。
山岳地帯での猛禽調査では、一歩踏み外せば死ぬんじゃないかという急斜面を横切りながら進み、なにも出なかったという結果を持って帰ってきた。
東北でのサル調査では、一歩踏み外せば死ぬんじゃないかという尾根をひたすら進み、なにも出なかったという結果を持って帰ってきた。
同じく東北で冬にあったサル調査では、埋まったら死ぬんじゃないかという腰丈ほどはある雪の山道をかき分けながら進み、なにも出なかったという結果を持って帰ってきた。
調査とは、過酷な道をひたすら進み、なにも出ないことを確認する作業なのか!? (いや、そんなことはないはずなのだが。)私の調査に対するイメージがそんな感じなので、今回の調査がいったいどんなものなのか、二日くらい前から不安で仕方なかった。
そして、調査当日。
「はじめまして、宮草といいます。今日はよろしくお願いします」
待ち合わせ場所でDさんと合流し、車に乗せてもらって集合場所へと向かった。
Dさんの話を聞くに、今回の調査はおもに猛禽類を見ていく。新しい道路を建設する計画があり、その周辺で猛禽類が営巣していないかを調べるのだそうだ。開発が環境にどのくらい影響を与えるのかを調べる、いわゆる環境アセスメントだ。
なるほど、かなり本格的な調査だ。というかこれは仕事だ。日当も出るらしい。
集合場所に到着して、他二名の調査員さんと合流し、本日の予定を決める。
昔の調査で巣があった場所へ行ってみるグループと、何カ所かのポイントを回って猛禽類が出ないか観察するグループに分かれる。私はDさんと一緒に、いくつかのポイントを見て回ることになった。
決められたポイントへ行って、そこで見られた動物を記録するのを定点調査という。
車に乗って、さっそく最初の定点まで行った私とDさん。周囲に田んぼが広がる橋の上。日陰はなく、晴天の日差しが降り注いでいた。
辺りを見回すと、田んぼにはアオサギがたくさんいる。上空にはトビがいる。トビもいちおう猛禽なのだが、残念ながら普通種なので今回はスルー。他の猛禽類が出てくるのをひたすら待つ。
一時間くらいはなにも出なかった。私だけでしばらく田んぼ道を散策してみたが、なにもいない。定点に戻ってきたら、Dさんからミサゴが出たと話があった。そこでまたしばらく定点で待ってみる。
「あっ、いましたミサゴ」
しばらくすると、田んぼの上空にミサゴが飛んでいるのが見えた。すぐに林の向こうへと飛んで行ってしまったが、本日、私が最初に発見したミサゴであった。
さらにしばらくすると、別の方角からミサゴが飛んでくるのが見えた。私たちの上空を旋回して、かなり長い時間見られたと思う。カメラを向けて、飛んでいる画像を撮ることもできた。
二時間半ほど同じ場所で観察を続け、ミサゴを三回観察できた。
続いて、車で移動して、別の定点へ。ここは交差点の脇で、結構交通量が多い。こんなところでは出ないだろうと思っていたが、出た。またしてもミサゴだ。パチンコ店の脇を飛び、そばの電柱にとまった。しばらくすると、飛び立ち、林のほうへ飛んで行ってしまった。さらにドラッグストアの上空を飛ぶミサゴにも出会った。
「ミサゴって、意外と街中にもいるんですね」
そんな感想を抱きつつ、ここは一時間半ほど滞在して、別の定点へ移動した。
三カ所目も道路の脇。幸い近くに公園があったので、そこの木陰から山のほうを観察する。一時間ほど見ていたが、なにも出なかったので、別の場所へ移動することにした。
「ノスリとかオオタカとか、サシバが出ればいいんだけどね」
Dさんが言うには、昔の調査ではこの一帯で、ミサゴだけでなくノスリやオオタカやサシバが見られたのだと言う。
最後に行ったのは、山あいにある田んぼ道の脇。ここで一時間ほど、猛禽類が出ないかを探すことにした。
私はしばらく田んぼ道を散策してみたのだが、残念ながらなにもいなかった。車のそばに戻ってくると、Dさんがミサゴを見たと報告してくれた。その後、車のそばで待っていると、二羽のミサゴが林の上を飛んでいくのが観察できた。
これで定点での観察は終了。Dさんが見たものを含めて、合計のべ八羽のミサゴを観察することができた。
最後に集合場所へ戻って、調査員さんと合流し、調査結果を報告し合う。
「ミサゴがこの山から出てきて、こっちのほうへ行ったんだよ。もしかしたら、この辺りに巣があるんじゃないかな」
「私が観察したミサゴは、ここから出てきてこっちに行きましたね」
「こことここで見たミサゴの行き先を見ると、やっぱりここらへんに巣がありそうですね」
正直、私は「ミサゴがたくさん見られたわーい!」としか思っていなかったのだが、やはりプロは違う。ちゃんと飛んでいた鳥の様子や行く先を観察して、地図を広げながら生息状況を予想している。端から会話を聞きながら、感服していた。
こうして、今回の調査は終了となった。ミサゴ以外の猛禽類に出会えなかったのは残念だったが、成果のある調査だったと思う。天気の良い日なたは暑かったが、過酷な道も進まずに済んだ。とても有意義な時間だった。
「宮草さん、今日はありがとうございました。また、次の調査が決まったら連絡しますので、よろしくお願いします」
「あっ……、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
そしてすっかり私は調査というものに足を突っ込んでしまったらしい。見学だけのつもりだったのに、日当までもらっちゃったし。趣味でバードウォッチングを楽しんでいたはずが、なんだか大変なことに巻き込まれてしまった気がする……。
追伸
撮ったミサゴの画像がこちら。飛んでいる姿と電柱にとまっている姿です。
https://twitter.com/miyakusa_h/status/1519619006541443072
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