第19話 幸運を運ぶ鳥(コウノトリ)
その出会いは、朝の通勤時だった。
最近勤めだした私の職場は、家から徒歩二十分くらいのところにあるため、いつも歩いて通っている。その日は良い天気で、休みだったらバードウォッチングに行くのになーと思いながら歩いていた。
そして、仕事場の近くにある駐車場に来た時、電柱にものすごくデカい鳥がとまった。
私は思わず二度見した。
デカい。
ものすごく、デカい。
まるでカラスのように何気なく電柱の上にとまっているが、明らかにサイズがおかしい。トビよりデカい。サギよりもデカい。びっくりするほどデカい。
全体的に白色で、翼の先は黒い。スラリとした長い足に、まっすぐ伸びたくちばし。
この鳥の名前は、コウノトリだ。
「あぁっ、ここにカメラがあればーっ!」
私は心の中で嘆きつつ、最近買い換えたスマホのカメラでぼやけた画像を一枚撮り、後ろ髪を引かれる思いで職場へと向かった。
コウノトリは電柱にのってじっとしたまま、私を見送っていた。
――それから、仕事が終わって、家に帰った後。
「よしっ! コウノトリを見るぞーっ!」
私の頭は、コウノトリだらけだった。
そもそも、なんであんなところにコウノトリがいたんだ? あそこは家が建ち並んでいて、近くにお寺や保育園もある田舎の中心部だぞ。なんでアイツは、まるでカラスのように、あんなところの電柱にとまっていたんだよー!
などと頭の中で考えながら、荷物をまとめる。
今朝見た場所の辺りで探してみようか。でも帰る時には、もう電柱にいなかった。あの近くにまだいるかはわからない。それに明日も仕事だから、あんまり体力を使いたくない。でもコウノトリ見たい。できればカメラに収めたい。バードウォッチングしたいー!
などと頭の中で自問自答しながら、リュックを背負って靴をはいた。
頭の中で議論した末、結局私は、いつものバードウォッチングコースへ行くことにした。コウノトリがいた場所からはかなり離れているが、周囲には田んぼがある。もしかしたら、田んぼでエサを探しているかもしれない。ついでに買い物もしたいから、帰りに近くのスーパーへ寄ることにした。
「よーしっ、コウノトリを見るぞーっ!」
と、意気込みながらも、内心は「まぁ、ちょっとバードウォッチングすれば気が済むよね」と思っていた。まさか、ふらっと歩いただけでコウノトリに二度も会えるとは、思いもしなかった。
結論から言おう。会えたのである。しかも二羽。
いつものバードウォッチングコースを歩いていると、前方の上空を飛ぶ大きな鳥がいた。間違いなく、コウノトリだった。しかも後ろにもう一羽飛んでいる。
翼をほとんど動かさずに、風に乗って飛ぶ姿は雄大そのものだった。二羽はおそらくつがいだろうか。仲良さそうに上空を飛び回り、しばらくすると私の視界から見えなくなってしまった。
ここで、コウノトリについて調べたことを書いておこうと思う。
コウノトリは、ロシア南東部や中国北東部に生息している鳥だそうだ。世界的にも数が少なく、絶滅の危機にある鳥である。日本にもかつていて、繁殖していたそうだが、乱獲や環境悪化のために国内のコウノトリは絶滅してしまったらしい。まれに繁殖地から迷鳥として飛んでくる個体がいるらしいが、野生のコウノトリは日本ではほぼ見られなくなってしまったようだ。
その後、兵庫県豊岡市で人工繁殖が進められ、コウノトリを放鳥する活動がおこなわれているそうだ。今では、放鳥した個体と野生下で生まれた個体を含めて日本に二百羽を超えるコウノトリがいるという。
「なるほど。コウノトリも、トキと同じように人に愛されて守られてきた鳥なんだ」
コウノトリの歴史を少し知ることができて、感慨に浸る私であった。
ちなみに、コウノトリといえば、赤ちゃんを運んでくるという言い伝えがあるが、実はあれ、本当はコウノトリではなくて、シュバシコウという鳥だそうだ。
ヨーロッパでは、シュバシコウが屋根の上に巣を作ると、赤ん坊や幸運を運んでくると言われているらしい。シュバシコウはコウノトリと同じ仲間で、姿もよく似ている。たぶん、日本に言い伝えが伝わった時に、コウノトリになったのだろうか。
「えぇっ、赤ちゃんを運んでくるのって、本当はコウノトリじゃないの!?」
思わぬ事実に、一番びっくりした私であった。
追伸
電柱にとまるコウノトリを近況ノートに載せています。ぼやけていますが……。
https://kakuyomu.jp/users/miyakusa/news/16816927861535250930
飛んでいるコウノトリがこちら。
https://twitter.com/miyakusa_h/status/1502873503036428288
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