第2話 これがビギナーズラックか。(カワセミ)

 これは、カメラを手に入れた翌日にバードウォッチングへ出掛けた時の奇跡である。


 私は、カメラをプレゼントしてくれた兄から、とあるミッションをうけたまわっていた。


「手始めに、スズメとヒヨドリとトビを撮ってくるんだ」

「了解した!」


 カメラをもらって従順となった私は、さっそくミッションを遂行すべく出掛けていった。


 向かった先は、近所の川。左手には田んぼが広がり、右手には川が流れ、その奥は林となっている。田舎ののどかな風景に見えるが、田んぼの向こうにはスーパーが建っていて、帰りに買い物もできるという便利な場所だ。


 ここなら、スズメやヒヨドリやトビが観察できるだろう。


 そう思って、田んぼ道をのんびり歩いていったのだが……。


 いない。


 鳥が、いない。


 おかしい。鳥に会えない。会えたといえば、さっき電線にとまっていたムクドリくらいだ。カメラで撮ろうとしたら飛んでいってしまった。


 おかしいな。田んぼの真ん中でスズメの群れが、食べ物をついばんでいると思ったのに。木の上でヒヨドリが、騒がしく鳴いていると思ったのに。頭上でトビが、ピーヒョロロと弧を描きながら飛んでいると思ったのに。


 静かな道を怪しげにキョロキョロと見回して歩きながら、私は心の中でため息をついた。


「まぁ、相手は野鳥だから、なかなか上手くいかないよね」


 そう思い、家路につこうと、道の突き当たりで曲がろうとした。


 その時だった。


「ツィーーーーッ」


 突き当たりには、田んぼから川へと水を流す用水路が流れている。その水路を鳴きながら飛ぶ、青く小さななにかが見えた。


「カワセミだぁぁぁああああああああーーーー!!」

(※心の声です。実際に叫んではいません。)


 私は光の速度(比喩)で振り返った。小さな青い鳥は、川のほうへと姿を消した。


 はやる気持ちを抑えて。音を立てないようゆっくりと、鳥が飛んでいったほうへ引き返す。


 どこだ? どこだ? 肉眼で川縁を探す。あの突き出た枝にとまっていないか? それともあそこの草の茎か?


 あっ、いた! 木の枝に青いのが見えた。すかさずカメラを構えて、ズームする。


 カメラの画面に映し出されたのは、枝に垂れ下がる青く薄っぺらい物体。


「ビニールかよっ!」


 と、心の中でツッコんで地団駄を踏んだ時、川の手前側から、小さな鳥が飛んでいく姿が見えた。反対側の川縁の草にとまった。


 今度は間違えない。気を取り直して、再びカメラを向ける。シャッターを切る。


 大きさはスズメくらいで、細長いくちばしを持っている。お腹はオレンジ色で、背中や翼は翡翠ひすい色と呼ばれる美しい青色をしている。おもに水辺に生息して、魚などをダイビングして捕まえる。その美しさから、「水辺の宝石」「飛ぶ宝石」と言われ、ファンの多い野鳥界のアイドル的存在である鳥だ。


 まさか、カメラを手にして二日目、最初に出掛けたバードウォッチングで、カワセミに出会えるとは。というか、こんなところにカワセミいたのね。


 そんなことを思いながら、飛び立つカワセミと別れ、ほくほくとした足取りで家に帰った。その夜、早速、兄に今日の成果を報告した。


「カワセミ撮れたよー」

「マジか!? そんな簡単にカワセミって撮れるもんなの?」

「ビギナーズラックです」


 こうして、奇跡の味をしめた私は、バードウォッチングにのめり込んでいくのだった。


 ……あれ、スズメとヒヨドリとトビは?



追伸

この時に撮ったカワセミがこちら。遠かったので、ぼやけてます。

https://twitter.com/miyakusa_h/status/1470303902126215172

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