第17話
「よし────出来た!」
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名称:
レベル:3
HP:150/150
MP:70/70
▼能力値
筋力:15
耐久:15
敏捷:20
知覚:15
魔力:10
精神:10
▼クラス技能:
・【★
▼特徴:
『世界移動存在』Ex:異世界転移者である事を表すスキル
『戦士の心得』C:殺傷や負傷などの戦闘に関する事柄で精神的悪影響を受けづらくなる。
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その差異は端的にいえば【剣聖】の習得にあった。
【★剣聖】──それは【戦士】の上位技能であり、強力な物理戦闘系技能。
恐らくは【戦士】が修練の果てに至る上位固有技能であるそれを、虎市はリビルドによって無条件に習得する。
本来ならばこれは相当な強化に繋がるはずであるが、しかし。
「所詮はレベル1だ……基礎的なスペックではあの悪魔相手にマトモな戦闘は望むべくもない」
故にこれから行う事は戦闘ではなく仕掛けである。
狙う一連の行動が全て成立しない限り勝利は訪れない。
分の悪い詰将棋のようなものだ。
「おい猫! そろそろ頼む!」
「
虎市の言葉に神を名乗る猫は強く双眸を発光させると、次の瞬間。
腰に下げた大振りの短剣が淡く輝きを灯す。
「聖別ヨシ! 行くんぬ!」
猫の言葉を合図とし、虎市は弾かれるように疾走を開始する。
同時、レッサーデーモンと交戦するケイトリンの側面の空間にウィンドウが展開し、声が放たれた。
『ケイトリン! 今から裏を取る、援護頼む!!』
「!?」
それはパーティを組んだことで行えるようになった音声チャットだった。
ケイトリンは横目でそれを確認し無言で頷く。
虎市は大きく距離を取り、大広間の壁沿いを疾駆しながら弧を描くような軌道でレッサーデーモンの背後へと移動する。
正面から馬鹿正直にやりあって勝てる相手ではない。
まず最初にやらなければならないのは戦いにすらならない格上に対して戦いまで持っていく為の位置取りであった。
故に、ケイトリンと戦うレッサーデーモンの背後を取り、挟撃を行う。
────だが、そのような思惑を安易とあざ笑うかのように悪魔は虎市を一瞥した。
ぎょろりと、眼球だけが動き睥睨する。
《レッサーデーモン/
《ケイトリン/
瞬間、レッサーデーモンの側面──虎市が走る壁側に対してエネルギー球が無数の散弾となって放射され、だが即応したケイトリンの《薙ぎ払い》による雷光の衝撃波により迎撃された。
稲妻の壁に阻まれた光球の群れは対消滅を起こしその場で破裂するが、それらを逃れた数発が虎市を襲う。
《虎市/
抜き放たれた短剣が銀弧を描き、飛来した光球を裁断する。
刃で断てぬ筈の魔力の球体を、しかし短剣は違わず切り裂き霧散させた。
【剣聖】の防御
武具による物理防御を行う《
虎市が【★剣聖】を選択した理由の一端であった。
《虎市/MP:70→50》
「くっ……やはり消費が重たいな」
直撃弾を切り払い疾走を続けながら虎市は苦々しく呟く。
【★剣聖】の職能技能はどれもが強力であるが、当然相応に魔力を消費する。その値は性能に比例するものであり、【★剣聖】習得者としての適切な能力を持たない虎市にとっては何度も行使できるものではなかった。
ステータスの割り振りで魔力を切った事もあり、運用はギリギリのラインである。
「レッサーデーモンに接近するまでに必要最低限の魔力量は温存する必要がある。何度も防御は出来ないぞ……!」
幸い悪魔の散弾は一度きりであり、ケイトリンは今もレッサーデーモンを抑えてくれている。
レッサーデーモンは油断なく此方を捉えているが、積極的に攻撃を行う動きは見せていない。
それを確認し、虎市は《
放たれた石弾は先程までの投擲を遥かに上回る弾速でレッサーデーモンに着弾し──そして砕け散った。
悪魔の目が細められる。
「────」
自身から距離を取り効きもしない石弾を放ち続ける虎市に対し、悪魔は興味を失ったかのように視線を全てケイトリンへと戻した。
「そうだ……俺は無害だぞ」
スタッフスリングを構えながら大広間の奥へと走る。
「今はな」
互いの位置はやがて、ケイトリンを挟んで一直線の形を取ろうとしていた。
レッサーデーモンの背後、距離にして約100m強。目標は眼前の敵に集中しており、無力な鼠に回り込まれた背後に意識を割り振ることはない。
虎市はスタッフスリングを捨てると、短剣を構え直した。
目を見開く。
《虎市/
────瞬間。
虎市の眼は悪魔の体躯、その全容を一瞬にして捉え、解析する。
レッサーデーモンの体格、構え、防御、魔力性質……そのようなものが
防御の隙間を通す中空の軌跡。
外皮の薄い部分を示す亀裂の如き黒線。
致命点を示す黒い渦。
弱点が看破される。
「成程……何処から攻めれば良くて何処が弱点か、見た目で教えてくれるわけか」
虎市は胸中で頷く。
《弱点看破》は【★叡智】の1レベル内で唯一戦闘に関連する職能技能であり、その効果説明は「効果対象の防御姿勢の隙や弱点を解析し、視覚化する」というものであった。
説明だけでは具体的にどうなるのか把握しづらいものであったが、実際に使用してみれば一目瞭然の効果である。
「特にあの中央の黒い渦……彼処を貫けば聖別した短剣の最大効果を期待できる。狙うのはあれしかない」
虎市は依然こちらに背を向けるレッサーデーモンに視線を送りながら、思考トリガーでパーティウィンドウを展開した。
『仕掛ける、合わせてくれ!』
「分かりました!」
《ケイトリン/
ケイトリンは虎市の声を聞くと同時、手にした大剣を振り上げ荷電衝撃波を巻き起こす。
上方にスイングされたエネルギーの奔流は爆発的な勢いで地面ごと周囲を打ち上げ、衝撃と足場の崩壊によりレッサーデーモンがたたらを踏む。
その隙を逃さずケイトリンは大剣を腰だめに構え、柄を左手、
《魔力放出》の噴炎が軌跡となり、砲弾の如く突撃する。
「■■■■■■■!!」
だが、レッサーデーモンは咆哮と共に突撃を掴み取った。
稲妻纏う刀身を両の手で握りしめると、全身からおぞましき黒い光を迸らせ、衝撃を受け止める。
恐るべき膂力と魔力による防御であった。
「15レベル級の魔物ならこれで仕留められる威力なのに……!?」
渾身の一撃を止められたケイトリンが驚愕に呻く。
力が拮抗し、お互いの動きが止まる。
────瞬間、虎市の姿が爆発するように迸った。
《虎市/
影すら掻き消えるような速度で虎市は100mの距離を一足で詰める。
一呼吸にすら満たない刹那にレッサーデーモンの背後数mへと到達した虎市は、その勢いのままに跳躍し短剣を振りかぶった。
必殺のタイミングによる、背後からの奇襲。
通常であれば防げ得ないこの襲撃に、だが。
「■■■■■■■!!」
「ッ!?」
悪魔は受け止めた少女ごと吹き飛ばさん勢いで身を捻ると、電光石火の速度で背後へと振り向き様に槍の如く右腕を振り放った。
疾走する思考の中、虎市の鈍化する時間感覚が悪魔の丸太のような貫手が自身の真芯を捉え、伸びるのを目視する。
我知らず口の端が歪む。虎市は左腕を構えた。
《虎市/
────打ち込まれた悪魔の貫手が、それを防いだ左腕ごと虎市の左肩を撃ち抜く。
弾け飛ぶ左腕部。だが虎市の身体は発動した職能技能によって補正された動きにより、迅速に右の短剣を突きこんだ。
レッサーデーモンの胴体、その中央に黒く渦巻く「弱点」に聖別された刃が吸い込まれるよう突き刺さった。
同時、衝撃によって虎市の身体は弾かれるように宙を舞い、短剣から手が離される。
吹き飛ぶ。
「■■■■■■■────!!」
レッサーデーモンが絶叫する。
身体の中央に突き立てられた短剣は白虹めいた光を迸らせると、その傷口から聖なる力を内側へと流し込み、ひび割れるように輝きを悪魔の巨躯の表面へと伸ばしていく。
外皮を古びた陶器のように崩れさせ始めたレッサーデーモンは藻掻き苦しむように短剣へと手をのばすが、放たれる輝きにより掌を焼かれ苦悶の声を上げた。
「トライチさん!?」
ケイトリンが叫ぶ。
虎市は吹き飛ばされた左半身から血飛沫を上げ地面に転がり、だが即座に声を上げた。
「ケイトリン……今だ……!」
「!!」
刹那、苦痛に悶えるような動きで拳を振り上げた悪魔よりも速く、少女は身を捻り打ち上げるような上段回し蹴りを短剣の柄尻へと放った。
蹴りの衝撃で更に刃を深く打ち込まれたレッサーデーモンに対し、柄尻を蹴り込んだ状態でケイトリンは
《ケイトリン/
────雷霆を付与された短剣はレッサーデーモンの内側へと稲妻を迸らせる。
聖光と雷光をその内側に打ち込まれた悪魔は声にならない声を上げながら、その外皮に猛烈な勢いで亀裂を生じさせていく。
内側から閃光を噴出させよろめくレッサーデーモンに対し、ケイトリンは大剣を大上段に構えると、渾身の力を込めて振り下ろした。
「えーいっ!」
一撃がレッサーデーモンを裁断する。
脳天から一刀両断にされた悪魔の巨躯はそのまま左右に切り離されると、大地に倒れ込むことも許されず即座に内側から閃光を放ち爆散した。
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