不具合能力リビルド無双 ~召喚事故で転移したけどいつでもだれでもリビルド能力で追放者も悪役令嬢もアカBANも再構築でだらっと救済~

BURO

第1話

 ────それは初夏にしてはまだ早い時期の、だが一際日差しの強い猛暑日……その昼下りの事だった。



 「ええい、クソ……暑い」



 太陽光に焼ける住宅街のアスファルトを睨みつけながら、スーツ姿の会社員が歩いている。

 まだ背広の上着を身に着けていたその男は汗だくの額を腕で拭いながら、苛立たしげに歩みを進めていた。



 「クソ……クソだぜ。気温もクソだし、やらかした事もクソだ」



 嘆息し、空を仰ぐ。

 鬱陶しい程に青々とした風景が視界一杯に広がり、男を更に苛立たせた。



 「ああ、なんて……勢いでなんて事をしちまったんだ。もう啖呵も切っちまったし、会社には戻れないな……転職しかないのか」



 男は暫定無職であった。

 上司と口論になり売り言葉に買い言葉という勢いで退職の運びと相成ったのが、つい数十分前である。



 「……まぁ、元々ブラックな職場だったしな。冷静になって考えてみれば、良い辞め時だった感じもないでもない」



 冷静と言うには明らかに気温にやられた発汗量をハンカチで応戦しながら、男は独りごちる。

 彼は考える。

 入社した時はここまでブラックな職場だとは思っていなかった。

 研修を終えたときもやや首を傾げる所もあったが気の所為かと考えた。

 だが明らかに怪しい労働環境、膨大な時間外労働、当然手当なし、他にも幾つものヤバい真実が明らかになった頃には自身も過労によって冷静な判断力と体力を失い、ブラック環境であると薄々わかりつつ抜け出せない状況になっていたのだ。

 辞めたのは結果としては正解だったのだろう。

 だが。



 「……なんでこんな事になってしまったのか……」



 ふと、道行きが下り坂に差し掛かった辺りでぼんやり先を眺める。

 そこには眼下に広がる比較的大きめの校舎とグラウンドがあった。

 学校である。高校だろうか? 授業中なのかグラウンドに人影はなく、校舎の窓にはちらほらと点のような人影が見て取れた。



 「何か懐かしいな……俺もあの頃は希望に満ち溢れてた気がするし、ましてやこんな事になるなんて考えてもみなかったが」



 男は足を止めて校舎の窓を眺めた。

 心なしか校舎の中で勉学に励んでいるであろう学生たちは輝いて見え、男は一層心を沈ませる。



 「輝いてる……めっちゃ輝いてるよ学生諸君……君たちの未来は明るく輝いて……七色に……ん?」



 ふと、男はぼんやりとした瞳を見開いた。

 そして気づく。



 「輝いてるな……七色……というか極彩色に……」



 目を擦る。

 眺めていた校舎の教室、その一角が明らかに男の内情を表現するような心理描写ではなく実際に強く発光しているのだ。

 そしてその輝きは加速度的に強くなっていく。



 「な、何だなんだ、火事か────うわっ!?」



 そして次の瞬間、教室が猛烈に光を発したと同時、それを中心として視界が閃光に飲み込まれ────男の意識は暗転した。





 ◆





 ────男が次に目を覚ますと、そこは一面真っ白な輝く空間で落下している最中だった。



 「な、何だ!?」



 驚愕を声に出すも、耳によく届かない。

 上も下もないような光の満ちる空間を、男はただ落下しつづけていた。

 口から漏れるうめき声も高速で流れていき、聞き取ることも難しい。



 「ど、何処だここ……なんでこんな所に!?」



 男は混乱した。さっきまで帰宅の途であった住宅街の街路風景はもはや無く、なにもない空間をひたすらに落下し続けている。

 だが恐らく高速で落ちているのにも関わらず、風圧というものを男は感じていなかった。

 ただ慣性の流れだけで背広がバタバタとはためき、ネクタイが跳ね上がる。

 異様な状況だった。


 一体何が……男が何とか思考を巡らせようとしたその時、視界の端に輝くものを見て取った。

 視線をそちらに向けると、そこには遠く遙か先に輝く、星のような強い光がある。

 それも、複数。かなり数は多い。

 正体を判断しかね眺めていると、不意に声が男の耳に聞こえてきた。



 『────お前達────勇者候補────』

 『────召喚され────異世界で────』



 男は眉をひそめた。

 言葉は遥かに遠く微かにしか聞き取ることが出来ないが、その内容に男は首をかしげる。

 勇者候補。召喚。異世界。



 「────これもしかして、勇者として異世界に召喚されるってアレか!?」



 男は叫んだ。よく見れば遠くの星々は人影にも見え、その数は……丁度眺めていた教室にいる学生達の数と考えれば、しっくり来る数だった。

 彼らは召喚されたのだ。異世界に勇者として。

 そして自分は────



 「重ねてもしかして、これ巻き込まれて召喚されたってヤツか!? いや、というかこれは巻き込まれたというより────」



 男は手足をばたつかせながら叫ぶ。

 彼ら異世界召喚された学生達(多分)に対して、自分のいる位置は明らかに遠い。

 物理的な距離が意味を成すのかどうかも怪しいが、これは明らかに同じ位相に存在していない。

 つまり。



 「召喚の端っこに引っかかって釣り上げられただけなのでは……!?」



 男は絶叫する。が、恐らくその声は学生達にも、そして召喚を行って今説明をしているらしき存在にも届いていないだろう。

 些細な事故。小さなバグ程度のイレギュラー。それが現在の自分だ。

 見逃されても大した影響のない、気づかなくても問題ないような。男はそう考えた。



 「こ、これは明らかにヤバいヤツ……!? お、おーい! 気づいてくれ……うわっ!?」



 不意に、男の周りの空間に突如として投影されたウィンドウめいた光が幾つも出現した。

 なにやら文字や映像が映っているような気がするが、それを冷静に確かめられる状況ではなかった。

 何故なら、自身の四肢が光の粒子となって消え始めていたからである。



 「ウワーッ何かキラキラシュワーンしてる!? ヤバいヤバいヤバい……助けてーっ!!」



 男はそう絶叫し────そして輝く無の空間から消滅した。

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