第23話  戦い終わって……

 アルベールはいまだに、幸せな夢の中であった。

 ユア・ストーンで火竜を呼び出し、王城に蔓延はびこる魔族をせん滅したのだ。

 良い気分である。


「なんで、アルがやったことになってるのよ!?」


 前にも聞いた声がした。

 振り向くと、目を吊り上げた精霊のはずの莉乃がいた。


「お前!? また人の夢に!? 夢なの? これ!」


「夢よ!! 現実のアルは、魔族に精気を抜かれて死にかけてるわ」


 莉乃は大きく溜息をついて言った。


「え? 俺が死にかけてる? 嘘だろ!!」


「ええ、あのままでは確実に死んでたわ。リヒトが援軍を呼んでくれなければね」


「リヒトが?」


 アルベールの顔つきが変わった。

 それと共に、背景がアルの見ていた自分がユア・ストーンを使って、火竜を呼び出したという夢の世界は壊れて行き、前に莉乃と会った銀色の世界に変わっていった。


「リヒトが火竜を喚んだのか?」


「ええ、私もお手伝いしたわ」


「リノは俺の契約精霊だろ!?」


 アルベールはブチ切れている。


「魔族に強制的に契約を切られたのよ。魔族に契約を迫られたわ!!

 精気抜かれて腑抜けになってた人が何言ってるのよ」


 アルベールは黙ってしまった。


「ちょっと待て、お前こそどうなってるんだ!? リヒトと契約したんだろ?

 なのになんで、俺の夢に出て来るんだよ」


「私も精霊として危ないみたいなの……自分の力量以上の力を使ったみたいで……つまりは危ない者同士繋がってしまったようね……」


「リノ……」


「今度生まれ変わったら、この世界の魔法使いに恋する女の子になりたいわ」


「おい、リノ……? 変な事言うなよ!!」


 莉乃の身体が透き通っていく……


「リノ!!」


「実体で会いたかったわ。アル」


 それが、莉乃の最後の記憶だった。

 最後の結界を張った時点で莉乃の精霊としての力は尽きていた。

 火竜の息吹をまともに浴びてしまったのも原因の一つだった。


 現実世界ではアルベールは、後方部隊の献身的な看護で命を取り留めた。

 リヒトも重傷を負ったが、鍛えられた身体なので、治りも早いだろう。

 シ-ドック帝国の王城を壊滅的に破壊し、魔族の王もいつの間にか、姿を消していた。

 この後、三年間見張ったが、魔族は現れなかった。


 火竜は火の魔法使いの手で東方の人の住まぬ谷へ誘導されて移動していった。

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