第36話 ニート、4人パーティーを組む
その日の午後、メンバー二名を加えた新参パーティーがニートザワールドのフィールドに降り立った。
【
前衛系のジョブで、俗にいう戦士呼ばれる肉弾戦専門の職種だ。
これは
【
これもRPGでは御馴染みの回復魔法や補助魔法を専門に扱う後衛系のジョブ。これをドールが役割を担うことになった。
戦闘の仕方はこうだ。
まず俊敏さがウリの【ローグ】である僕が、センサーをわざと通過して、可視化されたモンスターを出現させる。そこに立ちはだかるのがデブドラの【ウォーリア】だ。彼は堅牢な盾を前方に翳して、敵の攻撃をまとめて受ける。無論、彼の攻撃力も高いので、デブドラが愛用する
そうしてある程度のダメージをモンスターに与えたあと、とどめの一撃を「ソーサラー」のホビットが攻撃魔法を撃ちこむ
複数出現するモンスターには防御魔法で魔法陣を張る役目をドールが担った。何よりダメージをこちらが受けた際には、ドールの回復魔法ですぐさま体力値を元に戻すことが出来た。これで連続して戦闘を行うことができる。経験値の取得は飛躍的に伸びた。
「ワシの攻撃の前では、どんなモンスターもイチコロです」
まるで挑発するかのように、防備品を肌蹴て見事なまでの三段腹を見せる、という余計な行動がタマにキズだが、デブドラの攻撃力は凄まじかったさ。
「武器を振りかざしてから振り下ろすまでの位置エネルギーを、攻撃力として変換される仕組みになっているから、デブドラのようなデカイ体は戦闘に対して有利に働く」
獅子奮迅の活躍をするデブドラの姿を見ながらホビットが説明してくれた。
武器には「攻撃間隔」という値が定められているため、何度も素早く得物を振り回せば良いと言うわけでは無い。だから僕が持つ短剣は威力としては低いものの、その「攻撃間隔」が短く設定されているため、手数の上では断然デブドラを上回ることができた。
そうやって最初は、ネズミ、蜘蛛、イノシシ、など小動物を中心に戦ってきたが、レベルが『8』に到達すると、得られる経験値が物足りなくなってきた。
そこで少し休憩することになり、僕らは大きな木が植わっている木陰で身を休めることにした。そこは海岸線にほど近い場所である。断崖に波濤が激しく押し寄せ、時折細やかな水飛沫を僕らに浴びせた。
「何度見てもここはペブルビーチを思い出させるな」
ホビットが断崖から海岸線を見下ろしながら言った。
「ペブルビーチとはどこの海岸ですかいな?」
デブドラが白いタオルで汗を拭きながら言った。
「アメリカの有名なゴルフコースさ」
「へえ、ホビットってゴルフするの?」僕は訊いた。
「俺くらいの歳になればゴルフに興味くらいは……」
と言った瞬間、ホビットは咳ばらいをしながら、「いや、まあちょっと興味あるくらいだ」
と言い直した。
「あれ、でもニートザワールドでレベル上げするのって今回が二度目のはずだよね。ここに何度も来たことがあるってさっき言ってたけど変じゃない?」と僕は言った。
確かにホビットは『何度見ても——』と発言したはずだよな。
「それはその……」
ホビットは慌てながら何かを思案し出した。そして柏手をパンとひとつ打つと、
「そうだ、ニートピアのホームページにここと同じ場所が動画で再生できたのを何度も繰り返し観てたからな。それと勘違いしていた」
と付け加えた。
「ふーん」と言いながら、周囲を見渡すと、心地よい浜風が僕たちに吹いて来る。今日は雨の心配は要らないようだ。
「しかし、ここまで来てしまうと帰り道が大変そうだね」
ドールの何気ない一言に僕はハッとさせられた。
ドーム球場十一個分に相当するニートザワールドは、その規模からすれば相当な距離を歩かなくてはならない。勿論、RPGのように移動魔法なんてのも無いから、最初の街から強モンスターを求めて歩くのは体力が必要となる。現にこの休憩も、最初に提案したのはデブドラであった。
「ハァハァ、ちょっとみなさん。ワシは疲れてしまいました。少し休憩しませんか?」
と顔中を汗だくにしながらデブドラが言い出した。その巨体じゃ、そうなるよな。
「これからどうする、クロパン?」
ホビットが僕に訊いてきた。
「夕方まではまだ時間があるしなあ」
僕は未練タラタラに言った。時間の許す限り、レベル上げしたいという気持ちでいっぱいであった。
「どうぞみなさん。ワシのことは構わずにパーティープレイを続行してください」
とは言うものの、彼を独りここに残してプレイを続けるわけにはいかないだろう。
どうするべきか思案していたとき、ホビットが助け舟を出してくれた。
「俺がデブドラを連れて町に戻る。クロパンたちはそのままレベル上げをすればいい」
「えっ? でも……」
ホビットが自分の方へ僕を手招きする。そして腰を屈ませた僕の方へ頭を寄せ、
「アカバネに近づきたいという気持ちは俺にはよく分からないが、それがお前にとって生き甲斐だと言うのなら、俺は全力で応援する。ただし無茶はするな。せっかく取得した経験値だって、戦闘不能になれば全てを失うことになるんだ」
僕は小刻みに頷いた。
ホビットがデブドラを促して、町へ帰還することになった。
僕とドールはその場に残り、モンスターの狩りを続行することにした。
「しかし、このまま二人で戦って全滅したら、またレベル1に戻っちゃうよね?」
僕は不安そうにドールに訊いた。
「うん、確かにそうだね。でもセーブポイントで記録を上書きすれば、いいんじゃなかったっけ?」
「そんなのあるの?」
「確かこの近くにもあったはずだよ、セーブポイント」
ドールが遠くを指さした。
「あの建物もそうじゃないかな?」
ドールが示した先には、城のような建物がフィールドの高台の上に鎮座していた。
「じゃああそこを目指すか?」
僕の提案にドールは頷いた。
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