【御陵菜衣美】船内での格闘
第78話 貴公を懲戒免職とする
※この章より話し手及び視点が「
須藤の隣で眠っていた
西野が操舵をあべこべにしたのか、目的地が見えたので速度を上げたのかは分からぬが、その振動に狂気めいたものを感じたのだ。
予感は的中した。西野が変異していたのだ。山科を我が物にしようとする寸前のところでボールを投げつけ、これを阻止。今、黒い下着姿の西野が、片膝と片手を床につきながら
彼女の腕を見ると、人に噛まれた
女性ホルモンの多い人間は変異者に襲われないという
初めに買い物袋を提げて売店を出てきたとき、変異者に襲われなかった西野が、もう一度代金を支払うためにと売店を往復したときには、彼女の着衣が乱れていた。
おそらく再び売店に戻った際、
嗅覚 > 視覚 > 聴覚
変異者はこの優先順位で襲う対象を選別していることを、今改めて思い知らされた。
西野はサービスエリアからワゴン車へと戻る途中に襲われ、逃げ帰って車に乗った、と考えれば合点がいく。あのときトラックドライバーの変異者に噛まれた感染の症状が今頃現れた、と考えるのが妥当だ。
「貴公、酒を飲んだな? あれほどきつく命じておったのに」
西野が
「規則、規則、規則、相変ワラズクソ真面目ナ小娘ネ。ソンナダカラ男ガ寄ッテ来ナイノヨ。アッ、ソウカ。ソノ貧相ナバストデハ男ナンテ寄リツカナイカ」
西野が口から舌を出しヘビのようにビラビラさせながら、黒のブラジャーで包まれた自身の胸を両手で揉みしだく。
「イイデショコレ、欲シイデショ?」
「言いたいことはそれだけか、西野」
「私ト交ワレバ巨乳ニナレルノヨ。ドウ、欲シクナイ? 男ヲ惑ワス魔法ノチカラヲ」
「魅力を作り出すのは人の心だ。胸の大きさはそのきっかけにしか過ぎぬ。貴公のような邪な考えでは、魔法と呼ぶその身体も抜け殻同然だな」
西野はそれを聞いて高笑いをした。
「恋モマトモニシタコトナイクセニ偉ソウナ口ヲ叩イテカラニ。チョウド良イ機会ダ。私ノ身体ヲ張ッタ性教育ノ現場ヲ、ソコデ指ヲ咥エテ見テイナサイ。愛ノ形トイウモノヲ、小娘ノオマエニモ見セテヤロウ」
「未成年との淫行は、青少年保護育成条例により歴とした犯罪だ。現時刻をもって理事長代理として貴公を懲戒免職とする」
「フン、イツモイツモ生意気ナコトバカリ言ッテ。前々カラオマエノコトガ気ニ入ラナカッタンダヨ!」
西野の姿が一瞬視界から消えた。超人的な跳躍で
腰を低く落とし左右に軽くステップを踏むと、空中の西野に目掛けて回し蹴りを放つ。蹴りが西野に命中はしたが、交差させた両腕でガードされたまま後方へと吹き飛んでいった。その勢いのまま反転し、床へと着地した。敵ながら見事な防御。
「ハハハハハッ、小娘ニシテハイイ蹴リシテルジャナイ。オッパイヲシボマセルホド、身体ヲ鍛エアゲタ成果ネ」
西野が足を斜めに振り、履いていたパンプスを両足分飛ばす。素足に近い状態なら、さらに動きやすくなると考えたのであろう。——西野は戦う気満々だ。
「余計なお世話だ」
臨戦態勢を取るため、その場で軽やかにステップを踏む。カポエイラの基本、ジンガ。他の格闘技で言うところの「構え」に相当する。
「アアソレ、確カ
「それは後世の作り話だ、
「フッ、ソンナ足技モコレナラドウカシラ?」
西野が横へ揺れ動く。気配を感じ取れぬまま一瞬の内に背後を取られ、
「サア、遅効性ノウイルスデ、オマエモユックリ念願ノ巨乳ニシテヤロウ」
耳の後ろで、西野が大きく息を吸い込むのが聞こえた。おそらく、
「カポエイラが、何も足技だけの格闘技だと思うなよ」
頭を前に倒し、「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます