第35話 会談の申し出
デュラレン王国の首都に到着すると、いつものようにモーリスの商会が宿の手配をしてくれていた。到着してすぐに私達は、用意してくれた宿に案内してもらう。
今日も豪華な宿屋を確保してくれていたようで、大満足だ。
いつもは宿屋に到着すると、モーリスの商会から派遣された案内役の人は速やかに立ち去る。旅行中の私達に気を遣って、必要以上に干渉してこない。だけど今日は、離れようとしなかった。何か、話したいことがあるらしい。
案内役の男性は、恐る恐るという感じで口を開いた。
「実は、ナディーン様にご相談したいことがあります」
「相談?」
私の顔を見ながら、彼は話し出す。一体何の用だろうか。その男性は表情が暗くて言いにくそうな感じ。面倒事だろうか。
「貴女に、お会いしたいという方が居りまして」
「会いたい? 私と?」
「はい、そうです。休暇中に大変申し訳無いのですが、相手の方が是非と」
デュラレン王国に知り合いなんて居ない。他国の伯爵家の令嬢と会いたいと言ってくるような相手も居ないと思うのだが。一体誰が、私と会いたがっているのか。
「会いたい人、というのは誰なのかしら?」
「それが、お名前は会ってからじゃないと明かせないと仰っているようで」
「誰かも分からないのに会うのは、怖いわね」
尋ねると、誰なのかは言えないらしい。
モーリスの商会が持ってきた会談の申し出だから、相手は犯罪者とかではないとは思う。つまり、高貴な身分の人。デュラレン王国の貴族かしら。
だけど、正体を隠すような人物と会うなんて怖いわよ。正直な気持ちを答えると、案内役の男性は納得したような表情で頷いた。
「そうですよね。貴女と魔法に関する議論をしたいと仰っていた、あのお方に今回は会えないとお断りを」
「待って」
男性の口から出てきた言葉に、私は興味を惹かれた。魔法に関する議論をしたいと言っている相手。それなら、会ってみたい。
魔法という言葉を聞いた私は急に意見を変えて、誰なのか分からない相手と会ってみることにした。
「相手は、魔法使いである私と会いたいと言っているのね?」
「え? え、えぇ。おそらく、ですが……」
「なら、会ってみるわ」
相手が私の予想した通り高貴な身分だとしたら、デュラレン王国で研究されてきた歴史ある魔法の研究成果や資料を見る許可を、得ることが出来るかもしれない。
どうやら、私と会いたいと言っている相手も魔法に関心ある方のようだから。
「よろしいのですか?」
意見を一転させた私に、驚きながら彼は確認してくる。本当に会うのかどうか。
「えぇ。相手に伝えて頂戴。招待を受ける、と」
「わかりました。必ず、伝えます」
この王国に来た目的を果たすために、会ってみることにした。会ってみて、もしも危なそうな人物だったら、即刻この国から逃げることにしよう。
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