第30話 認識の差 ※商人モーリス視点
その後、細かな部分を色々と話し合った。基本的に全て私に任せてくれるという。驚いたことに、利益の一割しか要求してこなかった。
「材料費や人件費なども全て商会に受け持ってもらうつもりだけど、よろしい?」
「それは、もちろんです」
「それなら、私が受け取る利益は売上の一割で十分ですわ」
「さようでございますか」
ナディーンお嬢様は、商売のことを分かっているようだな。それに、必要な費用の確認までしてきて、抜け目ない。
ストランド伯爵家の令嬢であるナディーンお嬢様との初対面は、無事に終わった。
私は、お嬢様から依頼された旅行準備の案件と、新たな魔法道具の設計書を商会に持ち帰る。とても緊張する話し合いだったが、得るものも非常に多かった。
ナディーンお嬢様との出会いで、我が商会の今後の展望が少し見えた気がする。
***
「モーリス! おい、モーリス!」
「どうした、ニック? そんなに慌てて」
部屋に駆け込んできた男性は、商会が雇っている魔法使いのニック。商会で扱う、商品の生産などを任せている頼りになるパートナーだ。
彼が、こんなに慌てているのは珍しかった。何か事件が起きたのか。もしかして、ナディーンお嬢様から受け取った設計書に何か問題が?
「こいつは、本物だぞ! 凄すぎるッ!」
彼の手には、魔法道具の設計書が握られている。やはり、そんなに興奮するような代物だったのか。
「そんなにスゴイのか?」
「ちゃんと効果を発揮する魔法道具を作ることが出来た。疲労軽減効果もバッチリ」
「それで、その魔法道具は量産できそうか?」
「む……。それなんだが」
効果は確認できた。なら、量産することは出来るのか。それが大事だ。尋ねると、彼は表情を暗くする。
ニックが、表情を曇らせた理由を説明してくれた。
「ある程度の実力がある魔法使いなら道具を作成できる、と言っていたらしいな」
「あぁ。ナディーンお嬢様から、そう聞いているが?」
「とんでもない。この魔法道具を作るためには、ちゃんと魔法について理解している実力者じゃないと難しいぞ」
「商会で雇っている魔法使いだと、何人ぐらいが作成できそうだ?」
「これを作成できるのは、俺を含めて三人だな。それ以外は、少し難しい」
「三人だけか。少ないな」
「しかも、一つ作り上げるのに五時間ぐらいは必要になる」
「む。そんなにか……」
それは、困った。せっかく設計書を受け取ったのに、量産できないなんて。商品を用意できないと、売上を伸ばすことは出来ない。
しかし、ニックほどの実力者でも難しいのか。彼は、元宮廷魔法使いという肩書を持つ実力者だ。商会で雇っている他の魔法使いも、腕利きばかり。それでも作るのが難しいなんて。
「わかった。ナディーンお嬢様に相談してみるよ」
「頼んだ。こっちも、もう少し設計書を読み込んでみる」
新たに発覚した、ナディーンお嬢様との認識の差。魔法の研究者として有名な彼女だが、もしかすると噂以上に凄い人なのではないか。
実際に会って話をしてみた時に感じた、とてつもない迫力。年齢に見合わない知性と落ち着き。ただの貴族令嬢ではない。
やはり、彼女との関わりは大事にしていくべきだろう。
これから先は、ストランド伯爵家の当主よりも、ナディーンお嬢様を優先するべきだな。そういう意識で、商会は彼女と関わっていくことを決めた。
そして、魔法道具の作成に関する問題についてナディーンお嬢様に報告した。そうすると、すぐに対応策をまとめた資料を送ってくれた。
お嬢様から受け取った資料をニックに渡すと、魔法道具の作成に関する問題はすぐ解消した。こうして、商会で取り扱う新たな魔法道具の量産が可能になった。
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