第27話 旅の準備

「旅行?」

「はい、そうです。魔法の研究に必要な材料や資料を探しに行ってきます」

「ふむ。そうか」


 お父様に報告すると、一瞬悩んだような表情を浮かべる。だが何も言わずに、すぐ承認してくれた。いつものように、関心が薄いらしい。


「それから、お母様も一緒に連れて行きます。よろしいですか?」

「なに? マルティーヌも連れて行くのか?」

「最近ずっと部屋の中に閉じこもってばかりだから、外に連れて行ったほうがいいと思うのです。お母様にも確認済みですよ。一緒に行ってくれると」

「……そうか。まぁ、好きにしなさい」


 しばらく悩んでから、すんなり許可してくれた。これは止められるかもしれないと思ったのに、お父様は何も言わなかった。


 ようやく最近、お父様のことを理解してきたような気がする。多分、家族に対する興味がないのね。それで、自分が面倒事に巻き込まれないように必死になっている。妹のことも、処分するのが面倒だと思っているのかしら。


 旅に出ると行っても、何の心配もしていないようだ。家族のために、行動しようと思わない人なのね。


 王子に夢中になっていた時の私は、同じように周りの人達に興味が無かったから。お父様を責めることは出来ないわね。ちゃんと反省をして、もう二度とあんな風にはならないように気をつけないと。


 お父様の振る舞いを見て、我が身を振り返る。


「屋敷で働いている使用人も、何人か連れて行きますね」

「わかった。その代わり、旅の準備は全て自分で進めるように」

「もとからそのつもりです。では、失礼します」

「あぁ」


 旅の許可を得るという目的を果たして、お父様の執務室から出る。思っていたより簡単に、話し合いは終わった。


 お父様との話し合いの後、研究室に戻ってきた。そして次は、彼女に聞いてみた。


「これから旅行するけれど、ヘレンも一緒に行ってくれる?」

「もちろん行きます」


 即答だった。彼女が一緒に来てくれないと、私が困ってしまうから良かった。


「お母様も一緒に行くの。だから、連れて行く使用人の選別をお願いするわね」

「わかりました。旅行は、どこまで行く予定なのでしょうか?」

「うーん。それはね」


 今考えている予定のルートや期間をヘレンと話し合う。まだ予定の段階で、準備を進めていくうちに色々と変更しそう。なるべく早く出発したいと思っているけど。


 商人との話し合いも必要ね。お父様から、全て自分で準備するように言われていたから。ついでに、魔法道具の販売についての話し合いもしておきたいわ。


 ストランド伯爵家がよく利用している、あの商人に来てもらおう。まだ会ったことなかったので、これが初の顔合わせになる。今回も、仲良く出来ればいいんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る