第18話 婚約破棄

 私は今、とあるパーティーに参加していた。婚約者と一緒に。


 本当は、参加する気はなかった。研究で忙しいと言って、何度も断った。なのに、リカード王子がしつこく誘ってきた。それで仕方なく、私も参加することに。


 ドレスを着て、メイクもして。かなり時間を費やして、準備した。行きたくもないパーティーに参加するため。


 会場に到着する直前で、リカード王子と合流した。彼も面倒そうな顔をして、私を出迎える。そんな顔をするのなら、なぜ私を誘ったのかしから。




「本日は、ようこそおいでくださいましたリカード王子。ナディーン嬢も」

「あぁ」


 本日のパーティーを主催する侯爵の中年男性と挨拶する。しかし、リカード王子の愛想が悪い。頷くだけで、その後には何も話そうとしない。そんな彼の態度を見て、少し機嫌を悪くする公爵。


 確かに、侯爵よりも王族である彼のほうが立場は上だろうけれど。ちょっとぐらいは、愛想よくしたほうが良いと思う。


「本日は、お招きいただき誠にありがとうございます」

「美味しい料理をたくさん用意しましたので、どうぞ楽しんでいってください」


 仕方なく、私が代わりに対応した。挨拶もそこそこに、別の参加者を応対するため立ち去る侯爵。


「……」

「……」


 会場に入った後は、黙って参加者たちの様子を眺めるリカード王子。私も、彼とは話すことなんて無いので黙って立っているだけ。


 なぜ、こんなにも興味のないパーティーに参加しようと思ったのか。しかも、私を強引に誘って。彼の目的が分からない。早く、屋敷に帰って研究の続きを進めたい。


「お会いできて光栄です、リカード王子! 私は、デュパルク侯爵家のジュスタンと申します。以後、お見知りおきを」

「そうか」

「デュパルク侯爵家といえば、鉄鉱石の採掘が盛んな領地ですね!」

「そうです。よくご存知で、ナディーン嬢」

「えぇ、とても有名ですから」


「私は、ルルー伯爵家のアルフレッドです。どうか、お見知りおきください」

「うん」

「初めまして、アルフレッド様。ルルー伯爵家が生産している絹織物は、我が家でも取引させてもらっています」

「おぉ! それは、ありがたい。今後ともご贔屓に、ナディーン嬢」


 時々、近寄ってくる貴族達の対応は私がした。リカード王子と話すために近寄ってきた貴族達は、何も話そうとしない彼の対応に呆れていた。近くに立っていた私と、少しだけ会話をしてから、すぐ離れていく。


 貴族と交流を深めるために、今回のパーティーに参加したんじゃないようね。彼は最小限の反応だけして、話しかけてきた貴族達と会話を続けようとしない。


 いよいよ、リカード王子が参加した理由が何なのか分からなくなってきた。




「皆、聞いてくれ!」


 パーティーも中盤に差し掛かった頃だった。リカード王子が突然、会場の真ん中に移動して、大声をあげた。参加者の注目が一気に集まる。


 私も、なんだろうかと思って彼の様子を眺めた。何をするのか、見当もつかない。困惑する私を、睨みつけてきたリカード王子。しかも、指差してきた。


「私は、ナディーンとの婚約を破棄する!」

「は?」


 私は、声を漏らす。彼が何を言っているのか、その一瞬では理解できなかった。

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