第16話 幸せとは ※ストランド伯爵家夫人視点

 二人の娘たちが広場で横に並び、身体を動かしていた。それは、美容に効果のある体操らしい。


 とても張り切っている姉のナディーンと、面倒そうな表情のメイヤ。少し前だと、見られなかった二人の光景。以前はナディーンが、人に興味がなかったから。家族に対しても、無関心だった。


 そんな彼女が変わったから、こんな事になっている。


「お母様も一緒に! こうやって、身体を動かすんですよ」

「え、えぇ……」


 彼女たちの様子を眺めていると、私も声を掛けられた。


 戸惑いながら、娘の言う通りに身体を動かしてみる。これが、健康に良いらしい。腕を回したり、背を伸ばしたり、跳ねたりする。指示された通り、全身を動かした。


 確かに、汗を流して気持ちがスッキリしたような気がする。最近イライラしていた感情も、落ち着いたような気がした。


 私は娘のナディーンに教えてもらって、身体を動かし続けた。




 今まで私は、娘たちの教育に、とても熱心だった。それが、彼女たちが幸せになる方法だと思っていたから。


 ナディーンには特に厳しく、淑女としての立ち居振る舞いについてを教え込んだ。リカード王子と婚約した彼女は、王族に名を連ねることになる。だから、彼女が恥をかかないように完璧な振る舞い方を身に着けておく必要があると、私は考えて。


 幼い頃から厳しく指導した。娘は、私のことを嫌うだろうと思うぐらい。だけど、彼女のために嫌われても仕方ないと割り切っていた。娘に嫌われたとしても、完璧なマナーを使いこなせるようになれるのであれば、それで良いから。


 嫌われていると思っていたナディーンに誘われて、今は一緒に身体を動かして汗を流している。そしてナディーンは、楽しそうな笑顔を浮かべていた。


 今まで見てきた中で、初めて見るような楽しそうな笑顔。今の時間をナディーンは満喫しているようだった。彼女は、幸せそうだった。


 最近、婚約相手のリカード王子とは関係が良くないらしい。今までの私だったら、表面上だけでも仲良くするように、と厳しく言っていただろう。それが、娘の幸せに繋がることだと信じていたので。


 しかし今は、迷っている。娘のナディーンに、リカード王子とは仲良くしなさい、と言うべきなのか。どうするのが一番良いのか、私には何も分からなかった。彼女は今という時間を、とても楽しんでいるようだったから。


 それにナディーンは既に、淑女としての振る舞いを完璧に習得していた。私から、娘に教えることはもう何も無かった。


 だから、何も言えない。


 ナディーンの好きなようにさせよう。今は、彼女の判断に任せるべきだと思った。無責任かもしれないけれど。


 彼女は、先のことをちゃんと考えているような気がする。私なんかよりも、ずっと深く将来のことを考えているようだった。


 ナディーンは、自分の力だけで幸せを掴み取れそうだった。だから、私には見守ることしか出来ない。これからは、妹のメイヤの教育に集中するべきということね。

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