ある公爵令嬢の話

赤井タ子

第1話 プロローグ

 黒塗りに金の紋章付きのキャリッジが馬車道を走る。ほかの馬車が道を譲っている光景で、そのキャリッジが名家のものだとすぐに分かる。


「お母様、あの馬車って凄い馬車なの?」

「そうなんだろうね。」


 母親は、娘の綺麗なストロベリーブロンドの髪を触った。


「お父様より偉いのかしら?」

「あなたのお父さんより偉い人はいないよ。」

「お母様、そう言う話し方はダメだとお父様から言われているでしょ。」

「そうだったね。お父さんの前では気をつけるよ。」


 ‘まぁお母様ったら’とケタケタ笑う娘を愛おしそうに見る。そして、手を引いて歩き出す。



「お父様、今日ね、お母様と街にお買い物へ行ったの。その帰りにね、私たちが乗る乗合馬車ではなくて、とっても大きくて、ピカピカの馬車が通ったの。そしたらね、その馬車からお姫様みたいな子が見えたのよ。きっとあの子お姫様なんじゃないかしら。」

「そんなピカピカな馬車なら本当にお姫様だったかも知れないね。そんな馬車乗ってみたいか?」

「うん。」

「じゃあ、いつか乗らせてあげるからね。」

「大きな馬車に乗って、お姫様へ会いに行ける?」

「あぁ。お姫様にも、王子様にも会えるよ。」

「あっそう言えば、その帰りお母様ったらね…」

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