第5話 裏

「ガーベラ、水の供給は順調か?」

かりかりと、数字が並べられた紙にさらに数字を記入していく。

「損害なく順調よ。ほんと土砂の影響がなくてよかったわ。それよりも作物のほうが大変じゃない?」

「ああ、大損害だ。もう少しで収穫時期だったのにな。唯一の裏山の実もだめだろうな」

想真がため息をつく。

―――また、だいぶ時間がたってる?

目の前には小さなテーブルがある。その上にはどれも文と数字がいっぱい書かれた書類が並んでいる。部屋の中は前見たような木の壁に囲まれている。変わりはない。以前見た夢とそこまで時間はたっていない感じがする。

「困ったな。どうやって切り抜ければいい?」

想真が頭をかかえた。

「被害が大きすぎるよ」

コスモスも、ため息をつく。テーブルを囲むように、コスモスとガーベラが座っている。

「どうする?村長さん」

ガーベラが言ってきた。

―――村長?

「どうすっかな・・・」

「水は問題なかったのが不幸中の幸いだわ」

髪をくしゃくしゃにする。

想真の考えが私の中にも流れてくる。情報が多くてよくはわからないが、なんとかかいつまんでみる。つい1週前に台風が来た。それにより町の家の半分が壊され、さらに畑はほぼ全滅。それにより食糧難になっており、今までにない危機に直面している状態らしい。

「そうだ!」想真が顔を上げる。「少し離れたのあの山、やっと草が生えてきたって誰か言ってなかったか?」

「たしかにわずかに草が生えてきたらしいよ。でもまだまだだし、そもそもあの山は鉱毒があったところみたいだし」

コスモスが申し訳なさそうに言う。

「やっぱ無理か」

―――もしかして、想真が村長?

「陸が無理なら、あとは海しかないけど」

  海、か。

「と言っても、この近くは山の鉱毒が流れているかもしれないし、遠くではあるけど石油が流れ出ていたという情報もあるわ。魚なんているのかしら?」

  そうだよな。以前釣りを何人かでやってみたけど、まったく釣れなかった。

ガーベラもコスモスも視線を落とす。

―――想真・・・。

気のせいか、想真の感じが前と違う。以前は私がいるこの空間がもっと明るかった。でも今は曇っているというか、どんよりとしている。この状況だからかもしれないけど。

「打つ手なし、か」

天井を見上げる。

「異常気象、土壌汚染、海水汚染、砂漠化、酸性雨・・・。今までのツケってやつね」

ガーベラが舌打ちする。

「そんな中、ここまでよくやったよ」

あーあ、といいながら背中を背もたれに預ける想真。

「想真、そんなこと言わないでよ」

コスモスが悲しい目で言ってくる。

「そうよ。あなたがそんなこと言ってどうするのよ!」

励ましてくれるガーベラ。

「そうだよ、まだなにか手があるはずだよ」

コスモスも励ましてくれる。

あとは、近くではない遠くの未開の地。それも日帰りで行ける距離でなく、何日かかけて。ただ、俺たちがここまで来るまでなんもなかった。なにも見つからなかったら・・・。

彼はぼんやりと上を向いたままだ。

―――想真?

想真の考えはすべて私に伝わってくるはずなのに、何も聞こえない。

それに、だんだん目の前が暗くなってきた。

「この町に来てもう2年。想真はこの町の人たちを何度も救って、信頼されて村長になったんじゃない」

ガーベラは想真の手をそっと握る。

「そんな村長だから今回も救ってくれると信じているわ」

ガーベラが期待をこめて言ってくる。想真はガーベラの手をぎゅっと握った。

「ガーベラ、想真はいっぱいいっぱいなんだからプレッシャーかけちゃだめだよ」

かばうコスモス。

「コスモスは甘いのよ。もっと彼には厳しくしないと」

今まで想真は率先して畑までの水を引いたり、裏山の道を整備して、木の実を取りに行きやすくするなどいろいろと活躍していたみたい。

―――想真、かわいそう・・・。

と私が思った瞬間、目の前は真っ暗になった。想真からの思考も急に切れた。

―――想真!?

「想真、あんた聞いてる?」

「―――――」

「ん、寝てる?」

「―――んが」

「ちょっ、寝てんじゃないわよ!」

バシッと頭からいい音が聞こえた。

「―――んっ?」

目の前が真っ白になった。まぶしい。

「んっ、じゃないわよ。真剣に話してるのになに寝てんのよ!」

「あはははっ!」

コスモスが笑う。

「ふぁ~あ、しかたないだろ。眠いんだから」

背伸びする想真。

「ったく、ピリピリしてこんなとこで考えてても、なにも浮かんでこないんだから仕方がないだろ」

―――なんか良一みたいだわ。

「あのねぇ、人の命がかかってんだから真剣に考えなさいよ」

ガーベラはあきれてる。

「そんなことわかってるよ」

そう言うがガーベラは、

「心配だわ・・・」

と、行ってしまった。

「ガーベラの気持ちもわかるけどね」

ガーベラの後姿を見ながらコスモスが言ってきた。

「・・・ああ」

彼はため息をついて続けた。

「正直どうなるか不安で俺も怖い。それは今まででもそうだったけど、今は村の人の運命まで握っている。それが一番怖い。逃げられるなら今すぐ逃げたい」

―――想真、そいゆうことね。この暗い感じは今までと違って、責任というか、抱えるものが   

   増えたからなのね。

「想真。ぼくも君の立場だったら、逃げ出している。それか、もうプレッシャーで潰れている。確実に。でも無責任なことを言うけど、想真ならなんとかしてくれると信じてる」

コスモスが力強く言う。

「ありがとな。俺もお前らがいるからやってこれた。俺だけじゃ無理だったよ」

席を立つ想真。

「どこ行くんだい?」

「息苦しいから外の空気吸ってくる。うまくないけどな」

ドアを開けると、雲ひとつない青空が広がる。

  昨日はすんごく寒かったのに、今日はすんごく暑いな。体がだるい。

上着を脱ぐ。

「といっても、もう慣れて当たり前になってきたけど」

カンカンとハンマーの音が聞こえる。家の屋根を直している民家がちらほらと見える。ここから見る限りでは、被害は少ないように見える。

「想真、こんにちは」

子供を抱えた褐色肌の若い女性が話しかけてきた。

「ああ、ミラさん。こんにちは」

―――かわいい子。6,7か月くらいかしら。

「顔色悪いわね。大丈夫?」

「ちょっと寝不足なんだ。だから裏山にサボりに行こうと思ってね」

ミラさんは心配そうな顔をする。

「無理しないでね。あなたはいつも自分のことを後回しにするから」

「ありがとう。でも今は村をなんとかしないと」

村を見渡す想真。

「・・・一人で抱えなくてもいいのよ。村のみんなを頼りにしてもいいんだから」

「それはわかっている。みんながいなきゃ、今ここにいないよ」

そう想真は言うが、ミラさんはまだ安心していない様子だ。

「それなら―――ゴホッ、ゴホッ!」

せきこむミラさん。

「大丈夫か!?」

「ゴホッ、ゴホッ!」

明らかに苦しそう。息をするときもヒューと変な音が聞こえる。

くそっ、この空気のせいだ。

しゃがみこむミラさん。想真は背中をさすることしかできない。

  薬さえあれば・・・。

「まー」

子供がしゃべった。それを聞き、ミラさんのせきも止まった。

「おっ、しゃべった!」

こっちを見て笑っている。

「まー」

「まーって、何だろう?」

「そうまを、呼んでいる、のね」

まだ声が本調子でないが、くすっと笑うミラさん。

「ははっ、もう名前を覚えてくれるなんてお利口な子だな」

想真は子供の顔をのぞき込む。

とても純粋で澄み切った青い目だ。

「・・・いい目だ。将来はミラさんみたいに心のきれいな子になるな」

「ふふっ、ありがと」

―――かわいい男の子ね。

そして、ミラさんと別れ、裏山へ向かう。

山の入り口につくと、地面は泥だらけ。ただ、足元は悪いが、草木なくきれいに奥へと向かう道がある。

―――これ、想真が整備したの?

泥のような土を踏みしめ、坂を上っていく。

―――あっ・・・。

地面には泥にまみれた枝や葉が多数みられる。中には何かの実だったり、果物のような残骸がある。

「くそっ!」

想真はその残骸を見て舌打ちする。

―――せっかくの食糧が・・・。

  水だけ無事なのは不幸中の幸いか。

遠くから、水の流れる音が聞こえる。川だろうか。

少し進むと道がなくなった。横を見ると急に崖のように、地面が削り取られている場所が広範囲みられる。

―――土砂崩れ・・・。

想真は迂回してさらに上に歩いていく。だが、すぐに倒木があり、そこで終わった。

「ここまでか」

振り返ってちょうど腰かけられる木に座り込む。

―――え?

そんな高くまでは上っていない。歩いて15分くらいだと思う。それでもここから十分に彼が住んでいる村全体が見えた。

―――うそ・・・。

それに、十分すぎるほど、今の町の状況が。

家の半分以上が壊されている。屋根だけでなく、家の中の浸水が激しかったせいか、中の泥を必死で外に運んでいる。それに家の物が町中に散らばっている。浸水のせいだろうか。近くではここの土砂崩れで埋まっている家も見える。遠くに畑があったような場所も見えるが、泥水に埋め尽くされている。少し村から離れたところには、砂の上に大きい棒のようなものを立てている。違う棒の前で手を合わせている人もいる。亡くなった方もいるのだろうか。それ以外の町の人たちは、家の復旧に忙しくしている。

台風さえなければ、ここに村を造れたのにな。ガーゴイルにも狙われないし、何より涼し

い。

―――ひどい・・・。

雲一つない青空。本来ならすがすがしい気持ちになるはずなのに、全くそんな気持ちにさせてくれない風景だ。

ふぅと、またため息をつく想真。

―――ほんと、これからどうするの?

今、想真の頭の中は真っ白だ。もし想真が私の頭の中を見れるのであれば、同じく真っ白だと思う。

村はとても小さく、ざっとみたところ100人もいなさそう。遠くには瓦礫と砂漠のような景色が見える。草木などの緑色はまったく見えない。草木ががあるのはこの村の近くにしかない。まるで砂漠の中のオアシスのような感じだ。

―――ここから見る感じじゃ、遠くにはなにもなさそう。よくここだけ植物が育ったわね。

オアシスなんて行ったことないから、私にとっては本当に夢を見ている感じしか思えない。

「ほんと、どうすっかな?」

つぶやく彼。

彼の頭の中が真っ白からいろいろな問題が浮かび上がってくる。それが多すぎて、頭が破裂しそう。

―――私の頭まで痛くなりそうだわ。

「ほんとふざけんなよ!」急に叫び、寝そべる。「何でこんなふうになっちまったんだよ」

風が体を吹きぬける。生ぬるくてあんまり気持ちよくない。

相手がむかつく。先につぶしておこう。ほしいものがある。理由つけて奪ってやる・・・ 

そんな感じで戦争をおっぱじめて、終わったと思ったら結局また似たような理由でおっぱ

じめる。しかも自分の国を豊かにしたいから資源ぶんどったって、限りがあるのはわかっ

ているだろう。先のことなんて考えず。自分らの欲望のままに。

想真の心の奥から燃えるような怒りが湧き出る。

「で、このザマかよ」

湧き出た怒りが急に引いていく。

ぜいたくしたやつらはとっくに死んじまってるし、生きてたとしてもこんな世界じゃなんにもできないしな。報いを受けたわけだ。ただ、かんけーねー俺や、残された人にとっちゃなぁ。

ふぅっ、とため息をつく。

「あんたもここに来てたの?」

体を起こすと、ガーベラが立っていた。

「ここ、落ち着くんだよな。村全体を見渡せて。ただ、この山もこんな風になっちまったけど」

横に座るガーベラ。

「私もここにくると気持ちが落ち着くのよね」

風がガーベラの髪をなびかせていく。

「どうせあんたのことだから、なんとかなんねぇかなー、とかつぶやいてたんでしょ」

「半分はな」

「あとの半分は、なんでこんな風になっちまったんだ。でしょ?」

「・・・当たり。すげぇ」

驚きと悔しさが心の中に広がる。

「ふふっ、あんたのことなんてお見通しよ」

「まぁ、だろうな」

ははっと笑う。

ガーベラも笑うが、すぐに笑顔が消えた。

「不安か?」

想真が察したかのように言う。

「・・・うん」

ガーベラはうつむいて小さく頷いた。

「俺もだ」想真もうつむく。「最近この町を見てると余計不安になっちまう」

「どうしたの?あんたらしくないわね」

「さすがに今回のは堪えたよ。こんな深刻な状況じゃあ」

「へぇ、あなたがヘコんでるとこなんて久しぶりに見たわ。いつもなんだかんだで乗り切ってきたから、そこまで気にしていないと思っていたわ」

「結果的にはなんとかなってきた。でもな」

―――!?

想真の手が震え始めた。

「今度はそうはいかないかもって、いつもそう思う。怖いんだよ」

「想真!?」

ガーベラも驚く。

「それにな、これからのことを考えるとき、いつも頭の中にこれが浮かぶんだ。なんでこんなふうになっちゃったんだろう、ってな」

震えた手を握り締める。

「それは私もいつも思うわ。なぜ私たちだけがこんな目に合わないといけないのか。でもね」

ガーベラは想真のほうを向いて続けた。

「そんなこと考えても今の状況は変わらない。生きていかなきゃならないのよ」

「わかってる!」

手の震えが止まった。想真の心の中が炎に包まれる。

「生きなきゃいけない。そのとおりだ。結局はそうなんだ。死にたくないから。だけど、誰かのせいにしないとやっていけねぇよ」

くそっ、と想真が言い放つ。

「想真、最近私思うの。こんな世界にした人たちの中には私たちと同じように、生きるのに必死だったんじゃないかってね」

「仕方なく環境破壊をしていたってことか?」

「そうね。環境を破壊していることを知りながらも家族を守るため、仕事をしてなければならなかったかもしれない。まぁ、結局はお金を稼ぐためになるけど」

「守るため、か」

想真の心の火が少しやわらいだ。

「だけど、自分らのためしか考えなかったから、結局このザマだ。すこしでも先のことを考えていたら変わっていたはずだ」

それを聞いてガーベラもため息をつく。

「そのとおりなのよね。いろいろと考えてみたけど。結局はそこにたどり着くのよね」

ガーベラはそれ以上話さなかった。想真も何も言わず、ずっと遠くを見ていた。

村からトントンと、家を直している音が聞こえる。家から泥をせっせと運んでいる人もいる。墓場にいた人も立ち上がり、村のほうへ歩き出した。

想真の中から先ほどとは違う火がついた。

「こんなことで油売ってらんねぇな」

想真が立ち上がった。

「そうね。行かなきゃね」

ガーベラも立ち上がる。

「俺が行っても何も変わんないかもしれないけどな」

「そうかしら?」ガーベラが微笑みながら言う。「いつも通り、なんとかなんねーかねーって思っていれば大丈夫じゃない」

「なんだよ。いつも俺がノーテンキみたいじゃないか」

「あら、違ったの?」

「まぁ、半分当たりか。ははは!」

といって、二人とも笑った。

「あはは!ちょっとあんたのノーテンキがうつっちゃった」

「はははっ!それはいいことだ」

彼はケラケラ笑いながら言う。

「いいこと?全然良くないわよ。あんたみたいにはなりたくないわよ」

ズバッと言うガーベラ。

「ひでぇな!あいからわず口が悪いな」

ちょっとヘコむ彼。

「ふふっ、生まれつきなのよ」

「生まれつきじゃあ仕方ないな」

納得する想真。

「あっさり納得したわね。というか、さっさと戻りましょ。コスモスが待ってるわよ」

「そうだな。ここで考えててもなんも浮かんでこなかったし」

二人とも立ち上がる、と、

「ん、なんだあれ?」

村のほうで何か騒がしいことが起こってる。遠くてよく見えないけど。

ドクンと想真の心臓が早く動き出した。

「嫌な予感がするわね」

すると二人とも全力で走りはじめた。

―――私には村の人が集まってるだけにしか見えなかったけど・・・。

でも、彼らにはそう見えなかったみたい。

「あの人たち、何者!?」

ガーベラが大声で言ってくる。彼女は目がいいみたい。

「まずいな」

舌打ちする彼。私の視点では人が指の大きさくらいにしか見えない。

―――なにかしら?

長い坂道をすべるように下っていく。

「よく見えねぇ!何が起こってんだ?」

大声をだす彼。

「まさかとは思うけど・・・」

ガーベラは何か察知したみたい。

  くそっ、嫌な予感しかない。

いつ転んでもおかしくないスピードだ。と、その時、

「――――っ!」

ガーベラが急に足を止めた。

「どうした!?」

つられて彼も地面を滑らせながら足を止める。

「・・・なんでもないわ」

妙に顔が青白い。それになんか様子が変だ。

「先行ってて、私も後から・・・おいつく、から」

うつむいて、消えるような声で言ってきた。

―――すごい顔色・・・。

「ああ、わかった。無理すんなよ」

そう言って、また全力で走りだす。

・・・ガーベラ。

やっと村の入り口の手前まで来た。

  みんな、無事でいてくれ・・・。

とその時、

ドォォォォーン!!

以前聞いた爆撃のような音が聞こえた。

「なっ!?」

思わず足をとめる。村の中のほうから煙が上がってきた。

  何が起こってんだ!?

「想真!どこ行ってたんだい?」

「コスモス!」

走ってこっちに来る。

「何が起こってんだ!?」

ガバッと彼の肩につっかかる想真。

「うわっ、落ち着いて!」

「落ち着けるか!何が起こってる!?」

「想真、離して!」

グラグラと体を揺さぶられるコスモス。

「―――ごめん」

スッと肩から手を引く。

「二〇人くらいの集団がやってきて、疲弊していたから最初は水や食料を分け与えたりしたんだ。だけど、急に食料とか奪い始めたんだ。しかもあいつら、武器を持ってる」

「武器、だと・・・」

想真は耳を疑った。だが、よく考えてみれば、前にいた場所は戦闘区域になっていたから、あってもおかしくはない。

ドォーン!とまた爆発音が聞こえた。

「くそっ!」

こっちは丸腰だぞ!

コスモスを置いて、走り出す。

  虐殺じゃないか!

村の中へ着いた。

が、目に映ったものは・・・


ドォーン!!          

炎上する家

うわーーー!!          ・・・・・・死んでいく

火が燃え移る       一面真っ赤

   柱が刺さる     血      誰か助けてぇぇーー!

いたい、いたい・・・          誰も助けられない

 ・・・・・・・・・        赤い地面        やめてくれ・・・ 

逃げまどう人          キャァァァーーー!

  えーん、えーん            泣き叫ぶ子供                死にたくない、死にたくないよ・・・

  バラバラ          人の破片      死体    

           はははははははは!!!     発狂する人    

刃物を持って追いかける人               憎い

  ザクッ!!           楽しそうに人を切り刻む

 あははははぁぁぁーー!!           こんなの、人じゃない・・・・

             ドォーーーーン!!          人がふっとぶ


10人くらいの男たちが手りゅう弾とサーベルのような長い刃物をもって、村人を追いかけている。

「やめろぉぉぉぉぉーーーーー!!」

何もできない。

「なんでこんなことするんだよ!」

ただ見てることしかできない。

「想真!」

「石田さん!」

村の人だ。想真に向かって駆け寄ってくる。が、

「あ、危ない!」

「えっ?」

石田さんが気付いた時にはもう、背中から大量の血が飛び散っていた。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「石田さぁぁーん!」

その場に倒れる石田さん。その先に背中を切った相手が現れる。

相手は40代くらいのやや小太りの男性だ。刀を手にしている。

「てめぇ!」

想真はぐっと手を握る。心の中が怒りで燃え盛っている。

「お前たちのせいだ。素直にあるものすべて出さないからだ!」

「なんだと!?」

「しぶらずに出していれば、われわれだってこんな暴力行為しなくてすんだんだ。それなのに、みんなで作ったものとか、村長のためとか・・・まったく」

舌打ちする男。それと同時に、

バキッ!

想真のこぶしが男の頬に当たっていた。

「ぐっ!」

男は後ろにふっとび倒れこむ。すかさず相手の刀を奪い、男に乗っかる。

「ふざけやがって!」

刀を振り上げる。

「ここまですることないだろ!」

そのまま、男の右肩に刀を突きさした。

「うわぁぁぁ!」

叫び、もがく男。

「・・・あっ」

我に返る想真。罪悪感が心に広がる。

「す、すまん」

反射的に刀を抜く。

「いてぇぇぇぇ!」

さらにもがきまわる男。

それを呆然と見ている想真。

「活きがいいな。お前がここの長か?」

「!」

横を向くと5,6人の男たちがいた。

「・・・お前らは?」

「我々はC地区の石油施設近くの村にいたものだ」

真ん中の男が答える。背が高く、目つきが鋭い。年齢は三〇代後半か。身なりはスーツのようにジャケットとワイシャツを着ており、しっかりとしている。手には刀を持っている。

「石油施設!?」ラジオの情報が頭に浮かぶ。「たしか、あそこは占領されたところ」

「そうだ。何もかも奪われた。このような感じでな」

破壊された村を指さす。もう悲鳴は聞こえない。

「それは残念だったと思う。けど、なんで同じことをするんだ?」

ぐっと刀を強く握る。

「なぜ、だと?」男は眉をピクリと動かす。「生きていくためにはなんだろうと奪うんだよ。あいつらがやったように!」

男は刀を振る。

「なっ!」

それを聞いて想真はまた怒りがこみ上げる。

「こんな事態なんだぞ、一緒に協力していくべきだろ!」

「綺麗ごとを言うな!」

男が刀を振るう。

ガキンッ!

とっさに刀で受け止める想真。

「協力などできるわけない。地域が異なる者同士が!」

ぐっと刀を押してくる。

くそっ、強い、けど!

「できる、俺たちは協力してきた!」

思い切り力を込めて、押し返す。男は後ろに下がる。

「知らないお前らをこの村の人たちは助けてやってたろ。それなのに、こんなにメチャクチャにしやがって!」

どんどん燃え上がっていく想真。体も熱くなってきている。

「うるさい!」

男はまた刀を振り上げる。

「この時代、自分たちがどう生き残るかが大事にきまってるだろうが!」

振り下ろしてくるが、想真は後ろに下がりひらりとかわす。

「それに食料が少ないなら、人を減らすべきだろ!」

また刀を振りかざすが、想真はまた下がってかわす。

「てめぇ!」

想真が刀を振るった。

男はギリギリのところで刀で受け止める。

「お前のような奴がいるから世界はよくならないんだ!」

受け止めたはよいが押されている。

「ボス!」

取り巻きの連中が焦り、刀を構える。

「手を出すな!」ボスは連中に怒鳴る。「こいつは俺の手でやらなきゃ気がすまねぇ!」

すると、ボスは頭を後ろに下げ、

「!」

ゴンッ!

鈍い音と同時に、顔に鈍痛が走る。

  ず、頭突きか!?


鼻から血がしたたる。

「俺だって」想真は血をぬぐう。「俺だって、お前だけは許せない!」

「やれるもんならやってみろ!」

二人の刀がぶつかる。

おっ、おもい・・。

やはり力では相手のほうが有利だ。

また刀がぶつかるが、刃先が想真の髪を触れる。

「どうした甘ちゃん!?」

受け流して、刀を振りかざす。

ガキンッ!

が、簡単に受け止められる。

くそっ!

「そう、ま・・・」

足元を見ると、石田さんが虫の息で呼びかける。

「石田、さん!?」

「ぼく、は・・いい、から」

明らかに顔色が悪く、呼吸も浅くなっているのがわかる。出血もひどい。

「にげ、て」

「石田さぁん!」

ふと前を顔を上げる。

ギンッ!

間一髪で攻撃を受け止めた。

「よそ見をしている場合か?」

バキッ!

「ぐふっ!」

蹴り飛ばされ、ゴロゴロと転がる。

ちきしょう・・・。

腹部に激痛が走る。立つのがキツい。

「こいつもしつこいな」

ボスが刀を逆手で持ち、下に向ける。

「おっ、おい、なにを!」

ボスはそのまま石田さん目がけ、刀を下に突き刺した。

「っっっ!!」

声にならない声があがる。

「いしださぁぁぁぁん!!」

―――ひどい!!

ふと、周りを見ると、遠くに何人も同じように虫の息で倒れている人がいる。

あ、ああ・・・あれは、レイモンドさん、ヤンさん、川野さん、まだいる。

頭の中で一緒に過ごした村での生活が流れる。全部ほっこりとした温かい記憶だ。

み、みんな・・・。

涙があふれ出る。

「さぁ、次はお前だ」

ボスがやってくる。

ちくしょう、なんでだよ。

「ん、泣いているのか?」

想真の心の中が悲しみの海から、一つの火がつく。

  なんなんだよ。俺たちがなにか悪いことしたのかよ?

「泣いても容赦せん」

また頭の中で村での生活が流れる。中には村人同士が衝突する場面もあった。だが、すぐに想真が間に入り仲直りしている。

・・・なんもねぇよ。なのになんだよ、これは?

ぐっと手に力が入る。体が熱い。心の中の海が、いつの間にか火の海と化していた。

「死ね!」

ボスが刀を振り上げた。

「ふっざけんなぁぁぁぁーーー!!」

うつぶせのまま、刀を思い切り横に振る。

ザクっと、ボスの両すねに当たる。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

前に倒れこむボス。すねからは出血している。その間に想真は立ち上がる。

「俺たちは何も悪くねぇのに!」

想真はボスの前立つ。

「村の平和を返しやがれ!」

刀を振り上げる。今の想真にはためらいがない。

ゆるさねぇ、殺してやる。

「おっ、お前に人を殺せるのか!?」

ずりずりと後ろに下がるボス。

「やらなきゃいけない。こんな平然と人を殺せるやつ・・・これからの未来のために」

「俺たちに未来なんてあるわけないだろ!」

「あった!」想真は叫ぶ。「この村にはあった。だが、お前はそれを踏みにじった!」

ぐっと力をこめる。

  やってやる!

刀を下ろそうとした瞬間、

「危ない!」

コスモスの声。ふと、後ろを見る。

「なっ!」

ボスの仲間の一人が想真を切りつけに来ていた。

ガキンッ!

間一髪、攻撃を防いだ。

「ボス、大丈夫ですか!?」

「くっそ・・・邪魔するな!」

ボスの仲間を後ろに押し返す。

「ボス!」

ほかの仲間も駆けつけてきた。

後ろにはボスがいるが、前にはボスの仲間たち。全員刀を持っている。

こうなったら、やれるところまで!

ぐっと力をこめ、刀を構える。

「想真、やめて!」

コスモスが離れた場所から言ってくる。

「いや、やるしかないだろ!」

これ以上やられてたまるか!

と、その時、

「あれ、なに?」

コスモスが遠くの空を指さす。

「?」

想真を含めその場にいる全員が指さすほうを見る。

  空に黒い点、鳥の群れ?

ふと、視線を戻すと、

「うあ、ああああ」

ボスの仲間たちが震えている。

「え?」

先ほどの威勢が消えている。むしろ、おびえている。

  なんだ、急に?

「や、やつらだ・・・」

後ろを見ると、ボスも震えている。

「やつら?」

「し、知らないのか。俺たちの町を破壊したやつだ」

「町を破壊?」想真は首をかしげる。「お前たちの町は敵国に占拠されたんだろ?」

「占領されたのはそうだ。だが、そのあと、やつらがきて・・・」

「逃げろー!」

ボスの仲間たちは、ボスを置いて慌てて逃げて行く。

「おっ、おい、置いていくな!」

ボスもはいずりながら逃げようとする。

「待て!」想真が踏んずけて止める。「やつらってなんだ!?」

「ガーゴイルだよ!」

ボスは必死に逃げようとしながら答える。

「ガーゴイル?」

  ってなんだ?

また上を見る。さっきより近づいてきている。

よく見ると、鳥とは全く違う。手足があり人型のようで、尻尾と大きい翼がある。

「なんだよ、あれ」

絵本の中に出てきそうな生物を目の当たりにして、目を疑う想真。

「あいつらが敵国の兵士もろとも、俺たちの町を破壊していったんだ!」

ボスがまたはいずり始める。

「どうやっても敵わない。あいつら百人以上いた敵兵をあっという間に殺しちまった。だから俺たちは逃げ続けて、ここにたどり着いたんだ!」

「・・・そいゆうことだったのか」

だんだんと全体がよく見えるようになってきた。

ぱっと見た感じ、黒い竜のようにも見える。皮膚は黒く、顔は竜の顔のように口が大きく、歯は牙のようにとがっている。大きさは人間の3倍くらいか。

確かにヤバイ気がする。

「想真、行こう!」

コスモスが叫ぶ。

「ああ、でもどこへ!?」

「裏山だよ。村のみんなも避難しているはず!」

「わかった。けど一応、見てくる!」

走りだす想真。

「ちょっと、時間がないよ!」

コスモスが想真を止めようとするが、

「コスモスは先行っててくれ!」

想真は止まる気配がない。

ほとんどの家が壊されている。人がいるとは思えないのに。

「もう、急いでよ!」

コスモスは説得をあきらめ、走り去っていく。

「おい、待て、置いていくな!」

ボスが叫ぶが、

「知るか!」

置いてく想真とコスモス。

「誰かいるかー!?」

叫びながら村を回る。

いないなら、それでいいんだけど。

ほとんどの家が燃えていたり、面影もなくつぶれている。もし、中に人がいても、一人じゃ助けられない感じだ。

想真はつぶれた家を声を出しながら見るが、人の気配はない。

もうみんな避難してくれたか?

引き上げるかとそう思った瞬間、

「ぎやぁぁぁぁぁ!」

遠くから叫び声が聞こえた。

  村の人か!?

違う。裏山とは違う方向だ。

「やめてくれぇぇぇぇぇ!」

よく見ると、ボスの仲間たちがガーゴイルに襲われている。

うそ、だろ?

ガーゴイルの爪で八つ裂きにされている。文字通り、体がバラバラになっている。

中には刀を振り回し、戦おうとするものもいるが、傷一つ付けられずにあっさりと殺されていた。

やばい、早く離れよう!

想真は裏山へ向かって走り出す。ガーゴイルはもうすぐそこまで来ている。

「おい、頼む、助けてくれ!」

またボスの声。すぐ隣にいた。

「・・・くそっ!」

想真は反射的にボスを起こし、肩を貸す。憎い相手なのはわかっている。なぜか体が動いてしまっていた。

「おお、ありがとう!」

ボスが泣いて喜ぶ。

「うるせぇ、礼を言う元気があるならさっさと走れ!」

なんでこんなやつを!?

早く逃げなきゃいけない。これじゃ確実に追いつかれるのに。

ボスはよろよろと走る。後ろを見ると、ガーゴイルたちはボスの仲間たちを全員殺し、周りを見ている。

  やばい、次は俺たちが標的にされる!

気持ちは急ぐが、大人一人かついでいるため、ほぼ歩いているのと同じくらいの速さだ。

「くそっ、というか、なんで人を襲うんだよ!?」

「わからんが、噂によると人間たちが破壊活動をやめないから現れたとか」

ボスが答える。

「それで人間を絶滅させるつもりなのか?」

「そうかもしれん。急に現れて、少しづつ人間を消しているみたいだ」

「急に現れて?」

「そうだ。何もないところから現れるんだ。俺たちの町が襲われた時だって、どこからともなく出てきたんだ」

  生き物、なのか?

後ろを見ると、こちらを追いかけてきていた。

「信じられないだろ、おとぎ話に出てくる生き物が襲ってくるんだ。俺だってまだ信じられない」

「しゃべる余裕があるなら急げ!」

裏山まであと500mくらいだ。だが、同じくらいの距離まで迫ってきている。

  裏山まで行ければ、身を隠せるはず!

「もういい」ボスがつぶやいた。「俺を置いていけ」

想真は驚く。

「急になんなんだよ!」

しっかりと肩をかつぐ。

「このままじゃ追いつかれちまう。二人とも死ぬ必要はない!」

ボスの体から力が抜ける。

「ここまで来て、置いていけるかよ!」

想真がまた力を入れようとした瞬間、

「行け!」

ボスが想真の手を振り払った。

「俺はどっちにしろ間に合わない。急げ!」

ボスの体は震えている。想真は一瞬戸惑ったが、ボスを置いて走り出した。

「・・・くそっ!」

最後の最後で、なんなんだよ!?

さっきまでは殺意があったが、一気に冷め、悔しさがにじむ。

「そうだ、それでいい。お前みたいな甘ちゃんは、生きろ・・・」

ボスは小声で言った。

ちくしょう・・・。

歯を食いしばって走る。

「うわぁぁぁぁぁぁーー!」

程なくして、後ろから叫び声が上がる。

くそっ、もう来たのか!?

後ろを見ると、ボスは八つ裂きにされていた。

「ちくしょう!」

全力で走る。

バサッ、バサッ!

翼の音が聞こえる。もうすぐそこまで来ている。

だめだ、追いつかれる!

裏山まではあと100mくらいだ。

「想真、早く!」

コスモスが入口の木の陰から呼んでくる。

「コスモス!」

だが、後ろを見ると、もうすぐそこにいた。

  追いつかれた!

ふと下を見ると、刀が落ちていた。想真はとっさに拾いあげ、後ろを向く。

こうなったら、やりあって、なんとかして裏山に行くしかない!

足を止めて、刀を構える。

「想真、無茶だ!」

コスモスは一瞬出てこようとするが、踏みとどまる。

ガーゴイルは5体。一瞬にして八つ裂きにしてくる相手に、どう考えても勝ち目はないし、スキを作ることもできないだろう。

「やってやる・・・!」

手の汗が止まらない。足も震える。近くで見ると意外と大きい。

ガーゴイルは想真をめがけ、空から急降下してくる。

「こっ、こい!」

ガーゴイルは手を上げる。手の大きさは俺の体の半分くらいだ。

よけるのは無理か!

爪を立てて、手を振り下げる。爪は刀と同じくらいの長さ。

受け止めるしかない!

「うわぁぁぁ!」

ガキンッ!

金属音とともに、トラックにぶつかったかのような衝撃を受ける。

「!」

気づいたら、体は勢いよく宙に浮いている。

ドサッ!

「ぐふっ!」

ゴロゴロと地面に転がり落ちる。体全体にものすごい激痛が走る。

い、いてぇ・・・。

「想真!」

見ると、コスモスがすぐそこにいた。

「こ、すも・・・す?」

反対側を見ると、さっきいた場所からここまで飛ばされていたようだ。

ゴロンと仰向けになると、周りは木々に囲まれていた。

こんな、飛んだのかよ。

「ここじゃダメだ、もっと奥へ行くよ!」

コスモスが両脇をもって、引きずろうとする。

「!」

木々の間から影が見えた。

「あぶねぇ!」

コスモスを突き飛ばす。

うおあ!

衝動で体に激痛が走る。それと同時に上からガーゴイルが現れた。

爪を立てて降りてくる。

体が動かねぇ!

バキバキ!

木の枝を折りながら、まっすぐと爪を突き立てている。

「うおお!」

なんとか横に転がる。

ドスン!

轟音とともに、左半身から激痛が走る。

「うわぁぁぁぁー!」

血が飛び散っている。ガーゴイルの爪が左肩とわき腹に突き刺さっている。

「ああ、あ・・・」

焼けるように痛い。しかも左手に感覚がない。

「っっっ!!!」

ガーゴイルが、指先まで地面に刺さった爪を抜いていく。

頭がくらくらする。それに、激痛で意識が飛びそうになる。

  だっ、ダメだ・・・死ぬ。

爪が真っ赤に染まっている。左手が動かない。脇腹もピリピリする。

  これ、左手、とれているんじゃ?

目の前がぼんやりとしてきた。ガーゴイルが爪を抜き、また突き刺そうと腕を引いていく。

  死ぬのか、俺。

もう体は動かない。覚悟を決め、目を閉じた。

風切り音とともに爪を突き立ててくる音が聞こえた。

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