擬人化

物語中毒者

第1話

「はぁ〜、なんかもうやり尽くした感じだなぁ。何か面白いもんねぇかなぁ?」

「お困りのようだな少年」

「っん?! だ、誰だ!?」

 机の上に放り出されたスナック菓子をパリパリ食べていると、急に目の前に知らない男が現れた。

「おっと、すまんすまん……小説だ」

「は? 何言ってんだこいつ」

「小説が具現化した姿、それが俺だ。君に言いたいことがあって、無理矢理ならせて貰った」

「マジで何言ってんだこいつ。なら、その証拠見せてみろよ」

「お安い御用だ」

 ポンっ、という音と共にさっきまで男がいた場所に一冊の本が現れ、床に落ちる。

「これでどうだ?」

「……マジかよ」

「マジだ」

 またポンっ、という音と共にさっきの男がその場所に現れた。

「して少年よ。夏休みの課題も終わらせ、海も行き、友達とも遊び、やりたいことを夏休みの前半で全て終わらせた優秀で愚かな少年よ。私の話を聞く気にはなったか?」

「なんか言い方があれだけど、まあなった」

「そうか、では聞くが「待ちなさい小説」」

「今度は誰?!」

 厳かな雰囲気を作り出して話そうとする小説にカットインを入れながら、また知らない男が現れた。

「出てくると思ったぞ、漫画の!」

「え、漫画?」

「ほっ!」

 ポン。

「おお〜、漫画だ」

「理解が早くないか少年?」

「ほっ!」

 ポン。

「後、地の文が適当だぞ作者!」

 すみません。

「今そんなことはいいのです小説よ。何を抜け駆けしようとしているんですか」

「べ、別にいいではないか! 私が先に見つけたのだぞ!」

「そもそも、あなたもっと可愛らしい喋り方だったはずでは?」

「え、そうなの?」

 少し驚いて小説の方を向くと、彼は見るからに目を泳がせてとてもわかりやすく狼狽えていた。

「そ、そんなことはない! も、元からこんな喋り方だ!」

「その喋り方、続けるのならば録音してあなたの母上に提出しますよ」

「あぁ、ごめんなさい! 許して漫画さん!」

 すぐに、負けを認めた小説。ちょっと泣きそうになっている彼を見て、少年は思わず口にする。

「母とかいるんだ」

「そこには触れないでください」

「あ、はい」

 そうだ触れるなバカ主視点。

「あなたも地の文を利用して苦情を入れない」

 すみません。

「はい。それはともかく、少年よ、読むなら漫画にしときなさい。漫画ならあなたもよく読んでいるでしょう?」

「まあ、読んでいるけど。でも、この部屋の漫画は全部読んだよ?」

「最近では漫画アプリというものが多数あるのです。「マンガUP」に「マンガワン」、「ピッコマ」に「LINEマンガ」などなど、そこでしか読めないオリジナル漫画が多数あるのです。それを読みなさい」

「えー、でもあれ途中で読めなくなるじゃん。俺、数巻分一気に読みたい派なんだよねぇ」

「あ、少年! それなら小説読もうよ!」

「どうせ小説も同じでしょ?」

「そんなことない! 今は「小説家になろう」や「カクヨム」で数巻どころか十巻以上を無料で一気に読めるんだよ!」

「え、そうなん?」

「そうなの! 「転スラ」とか「ありふれた」とかも完結まで読めるよ!」

「お、じゃあそっちにするわ」

「待ちなさい少年。文章を読むのは疲れますよ。絵の方が楽で、インパクトがあります。あなたどうせ陽キャなんですから漫画にしときなさい」

「なにおぅ!?」

 なんだとコラァ!

「作者」

 あ、はい。

「こほん。まあ、陽キャかどうかは別として、さっきも言った通り俺は一気に読むのが好きなの。それともなに? 何か漫画にもそういうサイトあるわけ?」

「そうだそうだ!」

「YouTubeに無断転載しれているものがたくさんあるでしょう」

「違法転載を人に勧めんなバカ」

「ちょっと思ってたけど、やっぱり君って黒いよね」

「さあ、なんのことやら」

「話は聞かせてもらった!」

「な、お前は?!」

「まさかあなたも来るとは」

「はぁ〜、で今度は誰?」

「あ、これは失礼! では!」

 しかし何も起こらなかった。

「あ、あれ? むん!」

 しかし何も起こらなかった。

「おいどうした作者!」

 いやだって、アニメってどうするらばいいのさ?

「テレビにでも変身させてくれればいいだろ!」

 壊れるだろ。危ないし。

「……作者」

  あ、はいなんでしょう?

「よくやった」

 ありがとうございます!

「作者腰引く?!」

 当たり前だこの世界の主人公様だぞ! もっと考えて発言しろこのアホ小説!

「ご、ごめんなさい?」

「ううんっ、まあ、いい! それより少年らアニメはどうだ! 「Netflix」や「dアニメストア」なら過去作品を全編見放題だぞ!」

「でも金掛かんだろ」

「なんと初登録者のみ、初月無料だ!」

「あ、自分で金稼いでない学生の身分で契約とはしないようにしているんだ俺」

「……意外としっかりしているな少年」

「そりゃどうも」

「じゃあじゃあ、勝者僕ってことだよね!?」

「まあ、そうなるな」

「仕方ありませんね」

「ワシ、そんな出番なかった……」

「いっやったー!」

「じゃあ、勝者小説ってことで。解散! あ、ちょっとまって。うん、もしもし?」

「どうしたんだろ?」

「さあ?」

「わからん」

「うん、うん。わかった、じゃあまた後で。ごめん三人共! 友達からネカフェに誘われたから行ってくるわ!」

『!?』

「いやーごめん! じゃ、行ってくる!」

 そう言って、少年は部屋のドアから飛び出して行った。

『……』

 あー、っと、では解散!

『作者テメェ!』

 ネカフェ最高!

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