第153話出発前と同行者


 学校からの許可も問題なく下り、この週末にレセリカはダリアを連れて教会へと向かうことになった。ヒューイも陰ながら見守る予定である。


 その話を聞いて黙っていられなかったのがキャロルとポーラの二人だ。当然、同行をしたいとレセリカに主張した。


「私は街をよく歩きますからご案内出来ますよ! それに、騎士科の生徒としてレセリカ様をお一人で向かわせるわけにはいきません!」


 ポーラはダリアが護衛を兼任していることは知っていても、その強さを知らない。だからこそ心配で申し出てくれたのだろう。

 あえてダリアのことを告げる気もないため、レセリカは困ったように眉をハの字にしている。


「わ、私は商人の娘ですから、社交性には自信があります! 教会の方々とのお話を円滑に進めるお手伝いは出来る、かもしれませんよっ!」


 実際、キャロルはただレセリカについて行きたいだけなのだが、言っていることには一理あった。正直な話、キャロルの話術は頼りになるのだ。


 だが、レセリカとしては出来れば二人を危険に巻き込みたくはない。いつどこで、アディントンやシィに目を付けられてしまうかわからないのだから。


 だがそもそも、自分と親しくしている時点でいざという時に危険に晒される可能性は否めない。今さら意味もなく遠ざける方が何かあると勘繰られてしまうことも考えられる。


 そんな建前や言い訳はあるものの、正直なところ友人と街歩きが出来るかもしれないというのは素直に胸が弾んでしまう。


(ずっと気を張っていても仕方ないものね。ヒューイの存在を知られない限り、教会に目を向けられることもないでしょうし……)


 チラッと目を向けたダリアが微笑みながら頷いたのを見たレセリカは、ようやく腹を括った。


「わかったわ。でも、二人ともちゃんと許可をもらってね?」


 レセリカからの許可を得て、キャロルとポーラの二人は手を合わせて喜んだ。

 そんな二人の姿を見て、レセリカもホッと肩の力が抜けたのを感じるのだった。


週末、制服に身を包んだレセリカは街へ向かうために寮室を出た。キャロルとポーラの二人とは学園の門付近で待ち合わせをしている。


 本来、休みの日に街へ向かう際は私服を着用するのが普通なのだが、レセリカの場合どの服を選んでも豪華になり過ぎてしまう。要は目立ちすぎてしまうのだ。


 ただでさえレセリカはその美しさと佇まいだけで目立つ。貴族であることを隠すなら、頭からすっぽりとローブでも被らない限り難しく、それはそれで悪目立ちをする姿となる。

 キャロル曰く、たとえローブでも気品は隠しきれないと言うのだが、あながち間違いではないかもしれない。


 そこで、三人とも制服で向かうのが良いのでは、という案をポーラが出してくれたのだ。これなら、貴族であるレセリカが街を歩いていても不思議には思われにくい。

 休日に制服という違和感はあるが、最善の案だと意見が一致したのだ。


「キャロル、ポーラ、おはよう。二人とも早いのね。待たせてしまったかしら」


 レセリカが待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでに二人の姿があった。二人はレセリカに気付くとにこやかな顔で挨拶を口にする。


「おはようございます、レセリカ様。そんなことありませんよ! 私が早く着きすぎただけです」

「おはようございます。私も楽しみで早く着いてしまいました。キャロル様には負けましたが……!」


 レセリカも楽しみで少しだけ早く来てしまったので、二人も同じ気持ちだったことを内心で嬉しいと感じていた。


 ふと、ポーラの腰にある物を見てレセリカが目を丸くする。


「ああ、これですか? 昨日の内に帯剣の許可を申請してきたんです。私の剣の腕なんてまだまだですが、レセリカ様をお守りするという意思表示になればと」


 聞けば、ポーラは幼い頃から剣の練習はこなしてきていたという。そのため、帯剣することにも剣を振ることにも慣れているのだそうだ。


「わぁ、ポーラったらカッコいい!」

「ええ、そうね。とても頼もしいわ。さぁ、そろそろ向かいましょうか」


 上品な学園の制服に帯剣するポーラの姿はお世辞抜きにとてもサマになっている。女子の制服であるためスカートではあるのだが、それがまたカッコいいとレセリカは感じた。

 ただ、動きにくくはないだろうかという疑問は残る。


(……思えば、ダリアもメイド服で戦うのよね。慣れ、なのかしら)


 レセリカも決して運動神経が悪いわけではないが、制服で激しい運動をしろと言われたら難しい。

 それを考えると、女性の戦闘職は男性とはまた別のスキルが求められるのかもしれない。


(みんな、それぞれで努力しているのだわ。私も頑張らないと。まずは教会との信頼関係を築かなければね)


 学園を卒業したら、街に下りて現状を見ることが難しくなる。王太子妃となれば遠慮されて本来の意見も耳に入らなくなるだろう。


 だからこそ今のうちに教会との関係を築き、さらに街に住む者たちも気軽に教会へ来られるようなパイプを作っておきたい。

 そうすれば、教会を通じて国民の直の声を聞けるのではと思っているのだ。


 それと、もう一つ。

 もし不審な何者かが教会に接触してきた時、密に連絡を取り合えれば事件を未然に防ぐことが出来る。


(危険に巻き込みたくはないけれど、対策は必要だものね)


 ヒューイという繋がりが出来てしまっている分、情報が漏れた時に何があるかはわからないのだ。だからこそ後ろ盾となったのだが、それだけで全てが防げるわけではない。


 教会の責任者には、ある程度の情報を伝えた上で協力を願わなければならない。

 レセリカは道中、頭の中で伝えるべき情報の取捨選択をするのだった。

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