第109話女子会と密談
ラティーシャとのお茶会が始まった。この場にいるのは主催者であるラティーシャ、アリシアとケイティ、それからキャロルにポーラ、そしてレセリカだ。
場所はラティーシャの寮室で行われており、他の者は誰も立ち入らないようにとメイドに指示を出してある。ラティーシャ曰く、乙女の密談だ。
「や、やっぱり緊張しますねぇ……貴族階級の寮室なんて」
「ポーラったら、そろそろ慣れてもいい頃じゃない? 私の部屋にもよく来るのに。そりゃあ部屋のレベルが比にもならないけれど」
「キャロル様のお部屋も豪華ですし、そう簡単に慣れませんよ! 私、一般市民ですからねっ!?」
ポーラは部屋に入る前から緊張でガチガチであった。レセリカの部屋にも来たことはあるが、お茶会のように長居をするとなるとやはり違うらしい。
初々しい反応が可愛らしく見え、レセリカはいつか自分の部屋でもお茶会をしてみようかなどと考える。
だが今はみんなに相談をするためにここにいる。せっかくラティーシャがこの場をセッティングしてくれたのだから、無駄には出来ない。
なお、ラティーシャ本人は決してレセリカのためではないと否定をするだろうが。
「今回、集まってもらったのは情報の共有のためですわ。とはいっても、私もあまり詳しいことは知りませんの。レセリカ様、ランチタイムの事件のことも一緒にお話ししていただけます?」
ランチタイムの事件とは、当然フレデリック乱入のことだ。あの場でどんなやり取りがされたかはわからないものの、セオフィラスとフレデリックの間に漂う雰囲気が険悪なものだったことは離れていてもわかる。それがすでに学園中で噂となっているのだ。
そのことについて、この場にいる誰もが気になっていたのだろう。ラティーシャが話題に出したことでそこはかとなくソワソワとし始めている。
もちろん、レセリカはこの場で事情を話すつもりだ。ただ、シィの介入については黙っておこうと思っている。
なぜなら元素の一族については、関わるのも、知ることだけでさえも危険が伴うからだ。
「実は先日……」
レセリカは、フレデリックと初めて会った時のことから説明を始めた。
言葉の端々で王位を狙っているように感じられること、妙にレセリカに関わろうとしてくること。ランチタイムの時に、セオフィラスを怒らせようとするような言動をしていたこと。
「間違いなく、フレデリック殿下が王位を狙っていますわね!」
「ら、ラティーシャ様っ、他に誰もいないとはいえ、もう少し声を潜めましょう!?」
レセリカの話を聞いて最初に声を上げたのはラティーシャだった。腕を組んでフンッと鼻を鳴らしている。
慌てたのはポーラである。隣の部屋やドアの向こう側に声が漏れてはいないかと気が気ではないのだ。
「大丈夫よー。貴族が使う部屋はある程度の防音は施されているからー」
「ケイティ様……えっ、そうなんですか? いや、普通に考えたらそうですよね。あはは、一般寮は壁が薄くて丸聞こえだから……」
のんびりとした調子でケイティがにこやかに告げると、ポーラは気まずげに住む世界が本当に違うのだと居心地悪そうに身を縮こませた。
「ポーラの言うことも一理あるわ。密談ですもの。もう少し声を落としましょう?」
そこへ、フォローするようにアリシアが口を挟む。確かに大きな声でするような話ではない。ポーラはホッとしたように顔を上げた。
「それもそうですわね。悪かったわ、ポーラ。それで、話を戻しますわよ。私、この週末に実家に戻ってお母様主催のお茶会に出席しましたの」
そこでそれとなく、フレデリックの話を探ってみたのだとラティーシャは誇らしげに言った。
「ただ、私が聞かなくともこの話題になっていたと思いますわ。今、夫人たちの間で最も熱い噂話ですもの。けれど、夫人たちの噂は侮れません。どれもこれも信憑性の高いものですわよ!」
ラティーシャはそこで一度紅茶に口をつけて喉を潤わせると、そこで聞いた話を語り始めた。
曰く、フレデリックが王位を狙っているのは、母親であるシンディーの指示によるものであること。フレデリック本人も満更ではないらしいこと。そして。
「これは……貴女にはまだ早い話題だからとあまり聞かせてはもらえなかったのですけれど。少し漏れ聞こえたのでお伝えしますわ。べ、別に盗み聞きしたわけではなくてよ!? そこだけは、勘違いしないでくださいましね!?」
前置きがどうも不穏だ。これはあまり良くない話だったのかもしれない。レセリカはそう感じて、心の準備を決めながら続きを待つ。
「王弟夫人のシンディー様は、その……どこかの貴族家当主と、不貞を働いている、と」
ラティーシャの小さな小さな呟きをしっかり聞き取ったアリシア、ケイティ、キャロル、ポーラの四人は、その場できゃあっ! と小さな小さな悲鳴を上げて盛り上がる。
レセリカはというと、不貞というあまり聞き馴染みのない単語にぽかんと、目を丸くしていた。
しかし数秒の後、意味をしっかりと理解した途端、信じられないと眉を顰めたくなる気持ちと、想像するのも恥ずかしいという気持ちが混ざり合い、顔を真っ赤に染めてしまうのだった。
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