第51話入学と様々な声
『……以上をもって、新入生代表の挨拶とさせていただきます』
講堂内に盛大な拍手が響き渡る。
今日は王立イグリハイム学園の入学式だ。真新しい制服に身を包んだ新一年生たちと教職員が講堂に集まる中、レセリカは立派に代表としての挨拶を終えた。
家柄はもちろん、成績もトップクラスの彼女が選ばれるのは当然といえば当然であった。
とはいえ、レセリカは入学の際に試験を受けたわけではない。一般生徒は書類の他に簡単な試験があるが、貴族は家庭で教育を受けるのが普通であるため試験は免除になるのだ。
そういった事情を知らない一般生徒の中には、お偉い貴族だから選ばれたのだ、というあまり良くない声もチラホラと聞こえていた。
しかし、壇上に上がったレセリカを見て、それらの声は一切なくなる。
サラサラなホワイトブロンドの髪、美しい紫の瞳。知的な目元と綺麗な鼻筋に小さく形の良い唇。それだけでも完璧な美少女であるのに、姿勢も所作の一つ一つも全てが美しいのだ。誰もがレセリカから目が離せなくなっていた。
おそらく、学園生活が始まればその優秀さが際立ち、より文句を言う者などいなくなるだろう。使用人の待機スペースにて、ダリアはやはり得意げに微笑んでいた。
「すっごく綺麗な子だったね」
「でも、近寄りがたいな」
「うん、少し怖そう……」
ただ、やはり完璧すぎるがゆえにそういった声も目立つ。高嶺の花、遠い存在、怒らせたらまずい。
最初からレセリカのことを知っていた貴族たちはもちろん、一般生徒の間にそんな認識が広まるのも仕方のないことであった。
(気にしてはダメ……。でも、そんなに怖そうに見えるのかしら、私ったら)
そして、そんな囁きはどうしても本人の耳に入ってくる。気にしないようにと言い聞かせながらも、ちょっぴりショックを受けるレセリカであった。
翌日からは、いよいよ学園生活の始まりである。初日は五つのクラスに別れて教材の配布や職員やクラスメイトの確認、そして今後の予定の説明を聞いて終わりである。
それは午前中で終わり、本格的に授業が始まるのは明日からとなる。
レセリカは教室内でも浮いていた。一年から三年までは貴族と一般生徒の混合クラスとなるため、一般生徒は完全に貴族相手には委縮してしまっている。
特にレセリカは纏っているオーラからして他の者とは雰囲気が違うため、誰も何も喋れないでいた。
「それでは、明日から始まるオリエンテーションの説明をします。いやぁ、実は僕、かなり緊張していたんですけどね、このクラスは本当に静かで助かりますよ。ははは!」
そんな中、空気を読んでいるのか読めていないのかわからないクラス担任の明るい声だけが教室内に響く。おそらく、読めていない方だろう。
さらに言うなら、レセリカがいるからこそ胃を痛めない人選なのかもしれない。本当に緊張しているのかどうかも怪しい。
「オリエンテーションは三日に渡って行われます。初日と二日目は一限目だけを使いますからね。三日目だけは午前の授業を全部と、昼食も一緒に摂ってもらいますよー! 上級生との交流の締めってところですね。お世話になったお礼などもその時に言うといいでしょう」
教師は静かに話を聞いてくれる生徒たちに気を良くしたまま説明を続けた。
「組み合わせはくじで決まります。各学年一人ずつの三人グループですねー。当然、人数のバランス的に四人のところもありますが。今日の内に引いてもらって、明日発表しますよ」
ただ、さすがに最初から貴族と一般生徒の混合グループになるのは互いに戸惑うだろうからと、そこは分けた組み合わせになるという。方々から安堵のため息が漏れ聞こえてきた。
一通りの説明を終えた後、生徒たちが順番にくじをひいていく。その番号を覚えておくようにと伝えられ、教師も同時に紙に記録する。本日中に教師同士で組み合わせの確認をするため、不正も出来ないという仕組みだ。
待機中、このオリエンテーションでもしかしたら友達が出来るかもしれないとレセリカは胸を膨らませる。それともう一つ。
(もしかしたら、セオフィラス様とお会い出来るかも)
この学園は広く、生徒数も多い。そのため、学年も違う特定の人物と偶然会うということはなかなかに難しいのだ。
だが、オリエンテーション中なら姿を見かけるくらいはするかもしれない。
(さすがに同じグループになることはないでしょうけれど)
これだけの人数がいるのだから、相当なくじ運でもない限り同じグループにはなれないだろう。そんなことは重々承知の上だ。それでも、可能性はゼロではないと思うとわずかに期待してしまう。
(……ただ、違う学年で知っている方がセオフィラス様だけだから。そう、それだけ)
そして、誰に対するものなのか、そして何に対してなのかわからない言い訳を脳内で繰り広げるレセリカである。
「ちょっと楽しみですよね、レセリカ様っ」
奇跡的に同じクラスだったキャロルが、小声でレセリカに声をかける。自分から声をかけるということにかなりの勇気を振り絞ったのか、キャロルは頬を赤く染めていた。
そのことに、レセリカは胸がいっぱいになるのを感じる。
(そうよ。同じクラスにキャロルがいることがまず奇跡だわ。本当に良かった)
何ごとにも動じないように見えて、知っている顔が同じクラスにいるというだけで安心してしまう。彼女は公爵令嬢である前に、よくいる九歳の少女でもあるのだ。
レセリカは柔らかく目を細めて、キャロルにそうね、と答えた。
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