第31話お茶会の開始と紹介
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。こうして、同年代のご令嬢が五人集まる機会はあまりないでしょう。えっと……初めて言葉を交わす方もいるでしょうけれど、仲を深めるキッカケにでもなれば嬉しいですわ。領地で採れた素材で作った軽食もありますの。どうぞ、リラックスして楽しんでくださいね!」
ラティーシャの挨拶は少々たどたどしくはあったが、招待客をもてなそうとする気持ちや楽しんでもらいたいという気持ちが伝わる良い挨拶であった。
心なしか、緊張していた他の令嬢三人もその挨拶と笑顔でホッとしたように見える。場の空気を和らげる雰囲気は天性のものだ。
「はじめまして。ベッドフォード家長女、レセリカです。こうして皆さんとお会い出来て光栄よ。親しくしてもらえると嬉しいわ」
最初にレセリカが口を開く。そうしないといつまでたっても会話が始まらないからだ。当たり障りのない挨拶を心がけたつもりだが、背筋が伸びたままで隙のないレセリカの姿に令嬢たちは完全に委縮してしまっている。
レセリカは誰よりも美しいが、表情がほとんど変わらないからか同時に怖くもあるのだろう。三人のご令嬢たちは戸惑い、目だけで互いに次は誰がと探り合っているようだ。なかなか次に繋がらない。
せっかくラティーシャの挨拶で少し緊張が解れたというのに、またしても逆戻りである。レセリカは内心で困惑し、同時に申し訳なく感じていた。
「レセリカ様、まさか来てくれるとは思っていませんでしたわ! ここは遠かったでしょう?」
「ええ。でも、とてもいい経験が出来たわ。この領地の美しさも知れたし、来てよかったと思っているの」
そんな中で、物怖じせずに話しかけてくるのはラティーシャである。彼女のフワフワとした容姿と気さくさで、再び令嬢たちの肩の力が抜ける。
(これがラティーシャ様のいいところね。私にはない部分だわ)
とはいえ、レセリカにはこの空気感をどうすればいいのかがわからない。対処法が思いつかないのだ。
彼女たちが緊張してしまうことはわかるのに、うまくフォローが出来ないことに歯痒さを感じている。
「ね、皆さんも緊張しているのでしょ? よかったら、私から紹介させてくれないかしら?」
そんなレセリカとは対照的に、ラティーシャは人の心を和ませるのが抜群にうまかった。嫌味もなく、委縮しすぎることもない。
彼女が人から好かれるのも頷ける。今も勝手に紹介し始めるのではなく、ちゃんと令嬢たちを気遣いながらレセリカに紹介しようとしてくれていた。
あの記憶がある分、どうしても彼女を怖いと感じていたが、実は良い子なのかもしれない。レセリカは、ラティーシャという人物について決めつけてしまわないよう気を付けなければと気を引き締めた。
令嬢たちがそれぞれ小さく頷きで返事をすると、ラティーシャはニッコリと笑いながら一人ずつ紹介をし始める。
まずはラティーシャの左隣に座る巻き毛の令嬢、アリシア。彼女はフロックハート家と仲のいい子爵家のご令嬢だという。
二人だけで会うことも多く、一番親しげなのが雰囲気でわかった。警戒心が強いように見受けられ、緊張からか顔が強張ってレセリカに向ける微笑みもぎこちないものとなっている。ただ、歩み寄ろうという姿勢があるのか、ちゃんと目を合わせてくれるのは好ましい。
次に紹介されたのはアリシアの隣に座る赤毛の令嬢、ケイティ。彼女も子爵家の令嬢で、フロックハート伯爵とは父親同士がよく仕事で顔を合わせるという。その関係で、彼女もラティーシャに会う機会がそれなりに多く、親しい付き合いをしているらしい。
ケイティはおっとりとした雰囲気で、とても優しそうに見えた。事実、普段から穏やかで癒されるのだとラティーシャは嬉しそうに語った。
「そして最後に彼女ですわね。キャロルは男爵家のご令嬢ですわ。商家の娘だからと、こうした場に慣れるために積極的に参加するようにしているんですって。性格もサッパリしているからとても話しやすいの」
「きゃ、キャロルです……! レセリカ様、お、お会い出来て光栄、です!」
キャロルは緊張でガチガチになりながらも、自分から挨拶をしてくれた。頭を勢いよく下げた拍子に、バサッと長い亜麻色の髪がテーブルに落ちる。額もぶつけたのではなかろうか。
見ていて心配になるほど硬くなっているが、それ以上に自分で挨拶をと思って勇気を出してくれたのがレセリカは嬉しかった。
「私も会えて嬉しいわ、キャロル。仲良くしてちょうだいね」
「は……は、はいっ!!」
その気持ちが表情に出たのか、レセリカはほんの少し口角を上げていた。その微かな笑みに見惚れつつ、キャロルは顔を真っ赤にし、ハチミツ色の目を見開いて返事をする。どうにかこうにか声を出した、と言った様子だ。
見れば、ラティーシャを含む他の令嬢も驚いたように目を丸くしてレセリカを見ていた。アリシアもケイティも頬を染めて、レセリカを見ている。
「? どうかした?」
一方、微笑んだ自覚のないレセリカはその反応に首を傾げる。令嬢たちの顔を見回しながら問いかけると、真っ先に再起動を果たしたラティーシャが口元にだけ笑みを浮かべて口を開いた。
「……いえ。みんな、レセリカ様も笑えるんだ、って。そう思って驚いたのですわ」
その言葉にはほんの少し、そう、ほんの少し嘲りの響きを持っていたが、レセリカはそれに気付かない。三人の令嬢たちも、彼女の言葉を聞いて慌てて座り直す。
ただ、レセリカの背後で控えていたダリアは、ラティーシャから僅かに漂った敵意を感じ取り、少々警戒を強めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます