第12話 指輪の助け

 その刹那,千雪の指輪から,雷光が一瞬放たれた。


 それと同時に,月を覆った雷雲から,雷撃が,剣をめがけてけて落下した。


 ピカーーーーーッ!!!

 ゴロゴロゴロゴローーー!!!


 一瞬の出来事だった。ジョセフは,黒焦げとなり,その場で倒れた。



 ーーー


 翌日,千雪は,大きな欠伸をあげて,自分のベッドから起きた。なんで,自分がここにいるのかわからなかった。彼女は自分の最後の記憶をひも解いた。


 『そうだ,ジョセフに手刀を浴びせようして,電撃を浴びたのだった。電撃は防御できると思っていたが,予想を超えて電撃の威力が強かったのだ。でもなんで,私は助かっているのだ?わからない』

 

 後で,師匠に聞いたところ,ことの顛末はこうだった。


 雷の後,雨が降り出した。犬の遠吠えが異様に多くなりだした。


 討伐を依頼した村人は,ブラック・ウルフの討伐に行ったパーティが,その森に行ったことを知っていた。異常事態を察知して,自衛団の隊員らを連れて,森を恐る恐る森の中に入っていった。

 

 すると,数匹の野犬が,ブラック・ウルフと二人の死体を食いちぎっている状況を目にした。しかも,そのそばには,手首を縛られた半裸の女性と黒焦げの死体があるではないか。


 自衛団の隊員は,野犬を退けさせ,急ぎ女性を助けた。その後,3名の死体は残っていた登録証から,ジョセフをリーダーとする冒険者パーティだと判明した。そして,手足を縛られた半裸の女性は,ズボンのポケットからでてきた登録証から,そのパーティにその日から合流した千雪という新人だと判明し,師匠のもとに届けられたのだった。


 彼らは状況から判断し,まず,4人でブラック・ウルフを撃退したあと,千雪を裸にして縛り上げたが,仲間割れして3人とも死亡したものと推定した。


 師匠はその話を聞いて,実際の状況とはかなり異なるのではないかと思ったが,師匠からは,以下のことを述べるだけだった。


 師匠「まだ,右も左も知らない弟子です。たまたま,自分の技量もわきまえずに,そのパーティに合流して,こんな目にあったのでしょう。自業自得です。今後は,私も十分にサリーを監督したいと思います。ただ,本人はすごいショックを受けています。どうか,今後は,この話題を持ち出して,本人を煩わすようなことはしないでいただきたい。よろしくお願いしたい」


 自衛団の団長は,至極もっともな意見だと思った。

 団長「尊師の言う通りです。ほんとうに,本人はショックだと思います。われわれもその点は十分に留意したいと思います。本人が早く精神的ショックから回復されるのを願っております」

 こうして,本件は解決をみたのだった。


 千雪は,人を殺したことによるショックはことのほかなかった。あの状況で,自分を殺人機械に変えるという行動が,すんなりとできることに驚いた。


 一方で,自分の防御能力がまだまだ不十分であることを痛感した。また,この経験でこの魔族の冒険者のレベルがどの程度のものかが,感覚で理解できるようになった。まだ一流の冒険者には会っていないが,なんとかく,そのレベルを予測することができる気がしてきた。


 まずは,霊力による防御能力のアップだ。この霊力を鍛えることで,魔族の魔法にも十分に対抗できることを身をもって体験することができた。


 その日から,千雪の修行の仕方が,大きく変わった。今までは,師匠から言われたことだけを,確実にこなす,という姿勢だった。それが,その日を境に,師匠に,自分の強化したい点を明確にして,その修行方法を師匠に提案して,師匠からアドバイスを受ける,という姿勢に変わった。


 強化レベルは,少しずつレベルをあげていき,2か月後には,SS級魔法でも防御できるようにすることを設定した。そのための訓練方法は,師匠からのアドバイスをベースに,自分なりの工夫を加えていった。

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