婚約破棄からヤリ捨てられてばかりの貴族令嬢ですがどうにかして王家に嫁ぎたいです
す
第1章 一昨日ヤった王子様から連絡がこない
※冒頭おとぎ話口調になります。ご了承ください。
※主人公が飲酒をする描写がありますが、彼女らの国の飲酒年齢を超えているという設定の元書いております。未成年者の飲酒を推奨する意図はありません。
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昔々、1人の少年がいました。
少年はある一国の王子様でした。王子様といってもその国に王子様は何人もいて、彼は一番年末の子どもでした。お城に住んでいる少年は、一見豪華な生活を送っているように見えました。しかし実際は兄達に虐げられる日々を過ごしていたのです。
ある日、王子様は兄達により虐めに耐え切れずにお城を抜け出します。そして街中の路地裏で、同じように孤児院を抜け出した少女に出会いました。悲しみを抱えた2人はお互いの傷を癒やし合いました。
ずっとこの子と一緒にいたい。2人はそう思ったものの、時間は待ってはくれません。
帰った後も2人はそれぞれの世界に傷つけられました。
しかしただ一つ、変わったことがありました。2人が1人孤独に泣くことが無くなったのです。涙を流すとき2人は寄り添いあい、そして厳しい世界に戻っていくのでした。
数年後、少女は女の子が欲しいという良家に引き取られることになりました。少年は自由に外へ出れるようになった少女を王家のパーティーに招待し、婚約指輪を贈ったのです。
これからはずっと一緒にいられるね。そう言って2人は笑いあったのでした。
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一昨日ヤった王子様から返信がこない。
「きっと忙しくて魔法の鏡見れてないんだきっとそう」
『いやヤリ捨てられただけだろ』
自分を納得させようと呟いた一言は、魔法の手鏡越しの声―――隣国の第2王子、ユダによって否定された。
HR開始前の教室、周囲を気にして耳元で声が聞こえるように設定している私には、そっち側の小さな音も筒抜けだ。木々が揺れる音や鳥の鳴き声が聞こえてきて、どうせ外で昼寝でもしているのだろうと推測する。
まあそんなことはどうでもいい。問題は私の王子様から返信がこない今の状況だ。一昨日パーティーで出会い一夜を共にした王子様は大変予定が詰まっていて、私のメッセージに既読を付ける暇もないようだ。
『パーティーに出る暇はあるのに返信できない程忙しい訳ないだろ』
「きっと事故に遭って鏡を見れないくらい重症なんだよ」
『護衛付いてんのにそう簡単に怪我するか?』
ユダに言われるまでもなくそんなことは分かっている。でも希望を捨てるにはまだ早い…と、思いたい。一人悶々と悩む私を放って、ユダはどうでも良さそうに欠伸をした。なにその態度!こっちは悩んでるのに…!
ユダに対して理不尽な怒りを感じつつ、ヤリ捨てられた以外の可能性を模索する。事故じゃないならどうしたのか……もしかして暗殺!?
1つの可能性を見つけた私は焦りながら手鏡に異国の新聞を表示させる。彼の国のものを急いで選び取ると、一つの記事が掲載されていた。
『○○国王子、××国の姫と婚約発表』
○○王子、つまり今私が返信を待っている彼だと理解した瞬間、思わず手鏡をぶん投げた。
「またヤリ捨てられたんだけど!!?!?」
思わず席を立ってそう叫ぶと、両耳から『最初からそう言ってるだろ』と声がした。鏡から直接声が聞こえるようにしなくて良かった。ワイヤレスって便利。
「こんなに沢山の王子様の寝室に私はお邪魔してるのになんで誰も結婚してくれないの!?私は王族専用ラブドール!?」
『間違ってはないな』
「間違えであってよ!!」
声を荒げながら鏡を回収しに席を離れる。教卓付近にまで飛んだそれを近くの席の子が拾い、憐みの目と共に渡してくれた。
「くっそ、ろくにテクもなかった癖に…!8割演技の私の反応を本気にして、どこかの姫にやらかして慰謝料請求、婚約破棄されればいいのに…!」
『お前朝のクラスルームにいるんだろ?さっきからよくそんなこと言えるな』
「女子校を舐めないで。これくらいで引いたりしないよ」
私がこう言ってる間にも、クラスメイト達は『経験人数●人目おめでとう』と大きく黒板に書いている(●に入る数字は秘密♡)。というかクラスメイト達知ってる?被害者本人がいじめだと感じたらそれはもういじめなんだよ。
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月日は流れ、少女は立派なお嬢様になりました。
あの頃とは外見も振る舞いも洗練され、そして考え方も変わっています。それもそのはず、お嬢様は成長する中で、様々なことを知ったのですから。マナーや深い教養を得る為の科目を学ぶことは勿論、王族・貴族達の顔と名前、趣味や好物、そしてその人の周囲との関係もしっかり暗記しています。
そんなお嬢様は、もう知っています。
王子様のお気に入りだからこそ良家が少女を養子に取ったことも、彼女に向けられた愛情は偽物で、王家の仲間入りをしたいという欲望しかそこにはないことも。
それでも彼女は笑顔を忘れませんでした。
王子様の想いだけは本物だという事実が、あの日の少年が少女の為に向けた愛情が、一番にお嬢様の心にあるからです。王子様の為になら、彼女は何でも出来ると思っていました。
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ーーー数週間後
「何だその格好」
「何その反応」
ドレス姿の女性にその反応は如何なものだろうか。
扉を開けた先にいたユダを放って、そのまま閉じてしまおうかと思った。いやまあ、背中のファスナーを閉めくれって呼んだの私なんだけど。王族の男性らしく女性に優しいユダだが、その能力は私には発揮されないらしい。いくら腐れ縁でも平等に扱え。
あの後、ユダが某王国の結婚記念パーティーに招待されていることを知った私は、相手役として連れていくよう頼み込んだ。そして粘り勝ちした私は無事この場に訪れられたのだ。
「とりあえずファスナー開けてくれる?」
そう言って部屋に招くと、そのまま背を向けた。髪を手で抑えて背中を晒すものの、ファスナーは一向に上がらない。
「ちょっとユダ」
痺れを切らして振り向くと、不服です、という表情そのままに腕を組むユダがいた。
「本当にその格好でいく気か」
何だ、何がいけないんだ。私は怪訝な表情を浮かべつつ全身鏡に目を移す。胸元を飾る淡い色の花飾りやふわりと膨らんだシフォンスカート。清純派で可愛いと思うんだけど…
「よく着る黒いやつにしろ。どうせ持ってきてんだろ」
「は?駄目だって。この国では初体験を済ませることを処女『喪失』、童貞『卒業』って表現するの。男はともかく、女は慎み深い人畜無害ふわふわ系が人気なの!」
女は三歩下がって男の後を歩く、なんていうフレーズを聞いた時には驚いたものだ。先を歩いて私が危険回避できる環境を作ってくれ。こちらに危害を加えようものなら背後から殴り掛かるけど。
「いいからさっさと着替えろ」
ベットに置いたままの黒のドレスを私に押し付けると、「着たら言え」と言いユダは部屋から出て行った。絶対ショッピングデートしたら面倒臭いと思うタイプの癖に、何なんだ一体。
「はい仕事ですよー」
「あんま調子乗ると服ブチ破くぞ」
ドレスを着た私がユダを呼ぶと、物騒なことを言いつつも彼はファスナーをあげてくれた。
このタイトドレスは一番のお気に入りで、私の魅力を一番に引き出す。腰のベルトがくびれを、短い丈が美脚を強調するものの、質の良い生地のお陰で下品にならないのが良い。靴はどうしよう。ピンヒールを履きたいけれど、この国は平均身長が低めなんだよな。いやでもさっき履いていたものは絶対に合わないからピンヒールでいい。私が許す。ピアスはヒール部分の差し色に合わせよう。大きくてゴテゴテとしたやつだと如何にもすぎるから、某有名ブランドの小さなものにして…。
あれこれものを合わせていると、鏡越しに背後にいるユダと目があった。
「…妙に媚びるより、普段のお前の方が断然良い」
不意に視線を逸らしながら、ユダは小さな声でそう言った。…な、なにその反応…。
「……もしかしてユダ、私のこと好きだったりする?」
「お前本当にめでたい頭してんな」
いや勘違い女爆誕させたの君だから。メイクポーチを開きながら、私は口を尖らせた。
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少女がお嬢様になったように、少年も立派な王子様になりました。
お嬢様が偽物の愛情を与えられている間にも、年々酷くなる兄達の暴力や罵声を浴びせられていた王子様。痣も瘡蓋も歪んでいく心も、もう綺麗に隠してしまえます。一見幸せに見えるお嬢様の慰めは、もう王子様を癒してはくれません。
抑圧された悲痛は次第に憤りに変わり、王子様は兄達を捻じ伏せる権力を求めるようになりました。末の王子様が兄達の上に立つには、どこかの国のお姫様と結婚する他ありません。
彼の為に何でもしたいと思うお嬢様。ですがお嬢様は良家に引き取られた身、王家ではありません。王子様の呪い少年の憎しみを解けるのは、お嬢様少女ではなくお姫様だけでした。そのことに気付いたお嬢様は、そっと薬指から婚約指輪を抜き取りました。
「返すよ。私にはもう必要ないから」
そう言って婚約指輪を返した時、王子様が息を吐きました。それにはどこか安堵が含まれていたことに、お嬢様は気付かない振りをしました。
呪いの解けた
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招かれざるパーティーほど、人の視線を集められる機会はない。そう言ったのは、一体どこの誰だったか。
「あら、王子の元婚約者様じゃない」
今気づきました、そんな雰囲気が醸し出されたその声に内心舌打ちした。私が入場した時から気づいていただろ。オスカー賞でも狙っているのか。
そう思いつつ振り返った先には、案の定とある国の王女…、私の元婚約者の現婚約者の母がいた。ややこしい。つまりあれだ、元婚約者が新しく婚約した娘の母だ。とにかく気まずいことだけわかればいい。
そして案外やんごとなき方々はゴシップ好きだ。妙な関係の2人が接触したと、遠くから数々の好奇の目が私達を刺した。
「陛下、お目にかかれて光栄です」
「こちらこそ。貴女に是非とも会いたいと思っていたの」
あら本当ですか、私はそんなこと微塵も思っていませんでした。そんなことが言えるわけもない私は、「私もです」という社交辞令を口にした。逃げたい。逃げたいけれど、そんな私を逃がす訳もなく王女は話を続ける。
「噂はかねがね聞いているわ。随分と型破りな人のようね」
型破り。意味ありげに出されたそれは私の性生活のことを示すのだろう。否定できないそれに苦笑いを返す他ない。
「先日○○国の王子とも仲良くしていたそうじゃない」
「ああでも、最近別の方と婚約したそうね」
「じゃあ深い関係じゃなかったってことかしら」
降ってくる言葉は確実に私を刺す。ああもう事実です。すべて事実なのでその辺にしてくれませんかねぇ。時間よ早く過ぎろと遠い目をしていると、一つの言葉が耳に入った。
「うちの王子がまた貴女に誑かされたらどうしようかしら」
………………あ”…?
今、私の元婚約者を…、彼を心配しなかった?
浮気なんて真似させないよう、私に釘を刺さなかった?
……彼をそんな無責任な奴だって、思っているってこと?
理解した瞬間、強い怒りが私を包んだ。
―――勝手な妄想で彼を侮辱するな、この弱者が
勢いのままに自身の小さなバックに手を突っ込み、よれよれになったそれを取り出す。ああ捨てていなくて良かった。
「先日貴女の旦那様が間違えて私のポケットに入れてしまったみたいですので、返しておきますね」
渡したのは小さな部屋番号の書かれた小さなナプキン。その少し癖のある数字と仄かに香る男性物の香水に覚えがあったのか、彼女の目は大きく開かれた。
「誤解のないように言っておきますが、“貴女の男”に手を出す気はありません。いくら性に奔放な私にも好みがありますから」
あと浮気性の夫のせいで目が曇ってるみたいよ。貴方の娘はちゃんと愛され、貴女と同じ経験はしないわ。そんな優しい忠告のできない私は、礼儀正しい挨拶と共に去っていった。
「失礼」
短く声を掛けユダの腕に絡んでいた女をやんわりと、だが確実に引き剥がす。相手は一瞬顔を顰めたものの、私がユダに顔を近づけると慌てて去っていった。
感謝してほしい。この男はあんたと付き合うどころかワンナイトすらする気もない。女性に優しいところを勘違いしてたら時間が無駄になる。
「随分と熱烈なアピールを受けていたみたいね、ユダ“第二”王子」
「そっちこそ妙な牽制受けてただろ、第五王子の“元”婚約者」
吐息が掛かるくらいの距離で交わされる会話。あんたの言う通り、私はもっとイイ男を相手にしてますってアピールしないといけないの。そっちも貴方の娘さんは大変魅力的ですが僕には相手がいるのでって示さないといけないんでしょ。黙って付き合って。
招かれざるパーティーほど、人の視線を集められる機会はない。しかも私は最上級の女だし、その相手は最上級の男だし、目を惹くのも当然だ。大した地位のない私達だけど、生まれながらに美しい顔面と体は武器になる。周囲の視線をそのままに、顔を離すと意味ありげに腕を引く。一緒に退出する私達がこの後何をするかなんて、貴方達は知らなくていいことなんだ。想像とは違うと思うけど、勘違いしていてほしい。
誰もいない、2人きりの廊下に出てふと思った。…私が王女になった時、あの人のようになる日が来るのだろうか。
その思考にヒヤリとした何かが背中を伝う。だってそうだろう、私がマトモでいられるなんて、そんなの誰も補償してくれない。大人を汚いと思ったあの時から、私は確実に大人へと近づいていた。
「あ~~~~~もうっ、あのボトル持ち帰ってヤケ酒する!」
「俺はその隣のワイン担当な」
仄暗い思考を投げ捨てるように出した提案は、隣の王子が受け止めてくれた。
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お嬢様が婚約破棄をした。
それに一番衝撃をうけたのは、お嬢様でも、王子様でもありません。王家になりたいという想いを持ち、お嬢様を育て上げた良家の者達です。偽物の愛情も、お嬢様にかけた多額のお金も、すべて無駄になってしまったのですから。
「誰でもいい、王族の者と結婚しろ」
そう言って偽物の愛情すらも与えなくなった周囲を、お嬢様は悪く思えませんでした。孤児院にいる間に、彼女は嫌という程お金の大切さを学びました。婚約を結んでいる間に、貴族と王族間でも差別があることを身をもって知りました。
(もし私が彼らの立場だったなら、きっと同じようにしてしまう)
お嬢様には嫌いな人がいます。
いくら糞人間でもお母さんにはお母さんなりの事情あっただろうに、余りにも酷い言葉を投げつけた大人。あの人は言うだけのことを言っておいて、結局子供(私)に手を差し伸べることはなかった。人の不幸をストレス発散の道具としか見ていない人、そもそも興味を向けない人は、世の中には溢れる程にいました。そういった人達と比べたら、良家の者の怒りはまだ理解ができたのです。
まあそれでも、お嬢様は良家の人々を好きな訳ではありません。
彼らの態度の急変は腹立だしかったので、その家の既婚者を誑かした後、全寮制のお嬢様学校へと逃げました。そういったやらかしをカバーする為にも、彼女は王家に嫁がねばならなくなったのです。
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「…っ、つぅ…」
頭が痛い。よれたシーツの上、ズキズキと響くそれに私は目を覚ました。
原因はわかる。客間に戻った後せめてもの利益を求めて馬鹿みたいに高いお酒を馬鹿みたいに飲んだからだ。帰ってスムージーでも飲もう。
寝転んでそんな予定を立てながら、周囲を見渡すよう視線を動かす。色んな汚れが付いたシーツと数個の丸められたティッシュの塊、開けられたコンドームの残骸と、脱ぎ捨てられた見覚えのある衣服達。
極めつけは、隣で眠るユダ(全裸)。
「……まさかユダとヤるなんてなぁ…」
同じく全裸の私は、思わず心の声を漏らした。
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なんということでしょう。
酒癖の悪さと股の緩さが化学変化を起こしたお嬢様は、腐れ縁の第二王子とベッドを共にしてしまったようです。
のちに二人は火遊びのつもりだったそれにガソリンが大量注がれ、己の身をも燃やすことになることになります。しかし一夜の過ちなんてよくあることだと無断で寮に戻るお嬢様も、未だ夢の中にいる第二王子も、今は想像もしていないのでした。
お嬢様とユダ第二王子の爛れた関係は、まだ始まったばかりです。
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