第41話 M

昨日ウェントゥに白銀雪花狼の子供の事と闇魔篝蜘蛛の事を伝えたのと一緒に聞いたのは、魔聖銀のこと。

じぃさまの鉱山に潜らなくても、どこかに無いかと、知らないかと聞いてみた。

曰く、湖に潜って山脈の地下に行くか、ウェントゥに乗って山脈の頂上から急降下するかの二択だと言われた。

私は、絶望した。泳げないのだもの、高いところも嫌いだもの。

どうにもならなくて、半泣きを隠すために相当眉間にしわが寄ったところをリェースに見られていたのは知らなかったけれど・・・

結局、ウェントゥが見かねて取ってきてくれると言ってくれた。

凄く、同情を前面に出した声で言ってくれた。

ウェントゥは、山脈の地下にある湖に住む黒魔魚がお好みだそうで、ついでだから気にしないでいいと気まで使ってくれた。

私は、情けない声でお礼を言って、白銀雪花狼の様子を見に行った。

あれから2日、一命を取り留めた白銀雪花狼にすり下ろした果物を与えている所に、大きな羽ばたきが聞こえた。

ウェントゥ自ら魔聖銀を持ってきてくれて、お土産だと黒魔魚まで頂いた。

そして、極めつけは彼女の夫、ルフトゥの父親の爪を一本、魔聖銀の加工用に削って使うといいと言って渡してくれた。

帰りには、ついでに闇魔篝蜘蛛の様子まで見に行ってくれると言う。

本当に至れり尽くせりで、多分一生、頭が上がらない。

私とリェースは、ウェントゥが来てくれたついでにルフトゥの様子を聞いた。

ルフトゥは、着々と大きくなっているようで短い距離なら浮いていられるようになったとのことだった。

長距離飛行が出来るようになれば、遊びにも来てくれるだろう。

楽しみにしていると、伝えてもらうことにした。

ウェントゥは、どうせだからと通信魔導具の進捗状況も見ていくことにした様だ。

家には入れないからと、窓から工房と作業場を覗き込んで、興味深そうに観察していった。

その間に、リェースへの注意や私への助言をしていってくれる。

私もリェースも、ウェントゥに心からのお礼を言って見えなくなるまで見送った。

暫くすると、私が見つけた蜘蛛の巣の当たりから突風が吹いた。

その後、玄関にどさっと音がして、リェースと2匹と一緒に恐る恐る見に行った。

なんとなく、わかっては、いた・・・でも、わかりたくなかった・・・

大きな蜘蛛の死体と、大きな繭(中身抜き)が5つ、そして脚と耳が溶けてなくなってしまった大きな白銀雪花狼の死体があった。

そして、これらを置いていったはずの当のウェントゥの姿は見当たらなかった。

先ずは、白銀雪花狼の死体を綺麗にして毛皮を剥いだ。

せめて、毛皮だけでもそのぬくもりで子供を温めてほしかった。

匂いが分かったのか、肌触りでわかったのか、少し荒かった子狼の呼吸が落ち着いた。

私たちは、少し安心して、蜘蛛の死体や繭の処理をし始めた。

終わるころには、どっぷりと日が暮れていた。

翌日、居間で目を覚ますと子狼も目を覚ましていた。

クリッとした瞳をじっと私に向けて、状況を把握しようとしているようだった。

ひととき見つめ合っていると、リェースが目を擦って起きる。

その瞬間、子狼はリェースに近づいて顔を舐める。

寝起きで突然のことに驚いたリェースは、そのまま後ろに倒れた・・・

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