第32話 R
森へ帰る日の朝、見送りは大勢いた。
いつもの4人に加えて、冒険者達が朝早くに目を擦りながら来てくれていた。
御者さんは、みんなからの餞別を馬車に詰め込んでくれた後で手綱をマインに渡していた。
たくさんの人に色々と話しかけられて困惑気味の私に代わって、マインが挨拶をしてくれる。
やっぱりまだ、人と話をするのが少し苦手だ。
挨拶やお礼は、声が小さいなりにも言えるようになってきたけど。
大勢の人に囲まれると、無理だった。
私たちは、ボロスさんに借りた馬車に乗り込んで、みんなに手を振りながら出発した。
森までの平原は、休憩所のおかげで過ごしやすく、森に入ってからはイオル効果のおかげか、ルフトゥ効果なのか、魔獣や魔物の類には出会わなかった。
だが、大変なのは家に辿り着いた後だった。
地面が傾き、母屋の屋根は剥がれ、納屋がぺちゃんこになっていた。
氾濫によって生まれたというキングドレイクは、片足だけで家ほどある巨獣だと知識としては知っていた。
多分、キングドレイクはここをただ歩いただけだろう。
戦闘が行われていたら、こんなものでは済まないだろうから・・・
それでも・・・
「う~ん。すごいな。納屋にものがほとんどなくてよかったってのと、屋根が半分残っていただけでもありがたいってところだね。」
マインも苦笑いで、途方に暮れた。
屋根を直すのが最初だねと、とりあえずは屋根が無事なところに荷物を置いて寝床を確保した。
私とマインの部屋は野ざらしになってしまったが、お風呂やお手洗いは無事。
何より、井戸が壊れもせず枯れもせず無事だったことが嬉しかった。
ルフトゥの母親が、気遣ってくれたのだろうかと思った。
野ざらしで、屋根の残骸まみれになった部屋を片付けた後、大きな撥水布で屋根を覆ってその日の作業は終わっってしまった。
使い物にならない台所を今日は諦めて、外で食事を作って食べた。
雨さえ降らなければ、何とかなる気がした。
例によって3匹のおかげで食料は確保できるし、水も無事だし、マインと3匹がいる。
私だけなら何もできなかっただろうけど、今は一人じゃない。
翌日から、私たちは実によく働いた。
マインと2人で瓦礫の撤去、使える材料と足りない材料の把握に、買わざるを得ないものの書き出し。
いっそのこともっと使いやすく立て直そうかと相談して、建材の確保を考えた。
幸い森には木がたくさんあるし、撥水や強度も魔力の有り余る私と森の素材で完結できる。
蝶番や釘などは、マインがせっせと持っていた道具で使えなくなった金物たちを鋳直してくれた。
食料と水に不足が無いことに感謝して、少しづつ納屋のあったところに新しい家を建て始めた。
3匹も荷運びや食糧確保に協力してくれて、かなり助かった。
外枠が出来上がるまでに2か月を要して一段落ついた頃、大魔鷹が現れた。
それはルフトゥの母親でも父親でもなくアルコでもなく、多分お手紙を届けてくれた子だと勝手に思った。
大魔鷹は、魔鉄鷹の羽を一枚と手のひら大の赤い石を置いて去って行った。
赤い石を見たルフトゥは、小さくキューと鳴いて空を見上げた。
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