第7話 R

スフェルとマインさんと相談した結果、とりあえず魔毒虎の子供は我が家に連れて帰ることにした。

生まれたてとはいえ、スフェルほど小さくないので大きめの籠にマインさんが剥いでくれた親魔毒虎の毛皮を敷いて寝床としてもらった。

今は、スフェルが片時も離れずにいてくれるから、ぐっすり眠っている。

マインさんも、病み上がりで解体なんてさせたからか、家に戻るなりベッドに倒れこんでしまった。私、猛反省。

みんながお昼寝の間に、魔毒虎について書いた本を片っ端から読み込んでおこうと思っている。

生まれたての子のご飯も心配だし、何より基本的に親以外に懐かない魔獣のお世話はしたことがない。

元々、単独で行動して縄張りから離れることがない魔毒虎。

繁殖期と餌を狩りに出る夜間にしか、森の中をうろつかない。

出会った例も少ない上にすぐに逃げるように言われていれば、生態など知っている人は限りなく少ないだろう。

納屋に置いてあるばぁさまの残してくれた本を読み漁りに、そっと玄関の扉を開けて外に出た。

外に出ると、まだ昼の陽が高い位置にある。

朝からの解体で魔力を使ってもまだ余りある魔力で、出がけのついでに最近作った野菜畑に水撒きをした。

飛沫が待ってキラキラと光ると、子虎の無事を妖精たちが祝っているような気になって楽しかった。

納屋でごそごそと本を探して読み漁っていると、スフェルが納屋の窓の外でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

「いつからいたの?小さい子、起きた?」

私が外に出ると、既に日が陰り始めていた。

案外長い時間、本を読みふけっていたみたいだ。

急かすように飛び跳ねるスフェルと共に家に入ると、マインさんが子虎を抱っこして立っていた。

「体調・・・どう・・・?痛みとか・・・?」

「あ、リェースさん!随分寝ちゃっててごめんない。えっと、それは大丈夫なんだけど・・・」

マインさんの困った顔を見て、痛みでもあるのかと思ったらそうではなかったらしい。

マインさんは、困り顔のまま抱っこしている子虎を見て私を見て子虎を見てと繰り返している。

当の子虎は、穏やかにのんびりと心地よさそうに抱っこされていた。

「リェースさん、この子、降ろそうとすると、すんごい鳴くんだけど・・・」

紫の瞳をうるうると滲ませて私に助けを求める彼女の話を、聞くことにした。

曰く、マインさんが起きて、子虎の様子を見に来た。

寝ている子虎をそっと撫でたら目を開けてじっと見つめられて、そこそこ大きな声で鳴き出した。

子虎が手を伸ばしてくるから抱き上げてあやしていたけど、降ろそうとするとまた鳴き出して下せずにずっと抱っこしたままでいた。

と、言う事らしい。

抱っこ自体は、軽さも可愛さも相まって苦ではないらしい。

ただ問題は、お手洗いに行きたくなってきたという事。

それで、スフェルに私を呼んできて欲しいと頼んだようだ。

私は、マインさんから子虎を受け取って、お手洗いに行ってもらった。

マインさんがお手洗いに行っている間、子虎はずっと私の手から逃れようと動き回って暴れていた。

これは、あれだ・・・多分、そうだ・・・

帰ってきたマインさんに椅子に座ってもらって、子虎を返した。

すっきりした味のお茶を淹れて、彼女に本を読み漁った結果わかったことを伝えた。

「多分・・・擦りこみ・・・小さい子、お母さんだと、思ってる・・・きっと・・・」

魔毒虎の事が載っている魔獣の本は、2冊ほどしかなかった。

そこには、ただそういう魔獣がいて、危険度が高いからすぐに逃げろとしか書かれていなかった。

でも、魔獣について書かれている他の本に、4足歩行の魔獣の多くが初めて見た動くものを親だと思い込む「擦り込み現象」があることが分かっていると書かれていた。

「え・・・本当?私を親だと思ってるのかぁ・・・どうしよう・・・何食べるの?私食べられたり襲われたりしないの?えっと、リェースさん、わかる?育て方・・・」

マインさんも、相当に困惑している様子。

私に魔獣の育て方なんて、わかるわけない・・・ごめん。

首を振って彼女を見ると、「そ~だよねぇ・・・」と苦笑いされた。

「大きな街なら・・・育て屋・・・」

「そっか、従魔獣師ならわかるかも!ありがとう!やっぱり、リェースさんは凄いや。」

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