第5話 R

今日は、スフェルとの本格的な生活のために、家の中を少し改造した。

ばぁさまの部屋の片付けも、ぐずぐずと先延ばしにしていたから丁度良かった。

今の食卓を中央から日当たりのいい窓際に移して、スフェルの寝床用籠を置いた。

ソファの位置をずらして、お茶が飲める来客用兼私のほっこり用の場所が出来た。

家に積もっていっていた薬草たちも納屋に仕舞って、納屋も棚の整頓と作業場所の整理をした。

なんとか一日がかりの大仕事を終わって、簡単な食事で早めの夕飯を取った。

スフェルも窓際の寝床を、ふみふみして寝心地を良く改良していた。

ソファに腰かけて食後のお茶を飲んでいると、スフェルが飛び跳ねて唸り声を上げた。

「どうしたの?何かいるの?」

そっと窓に近づいて、窓の外を窺った。

辺りはすっかり暗くなっていて、窓から見える玄関にぶら下げた明かりがぼんやりと周りを照らしている。

なんとなく影が動いた気がして、さっと窓から離れた。

小さな音がして、ビクッと心臓が撥ねる。

飛び出していきそうなスフェルをぎゅっと抱きしめて、玄関の近くまで忍び足で近づいた。

「大丈夫・・・怖くない・・・怖くない・・・」

自分になのかスフェルになのか分からない「大丈夫」を繰り返して、玄関まで来た。

「・・・・・・・て・・・・・・・れか・・・・・・い・・・いの・・・・・」

小さく何かの声が聞こえて、玄関を少しだけ開ける。

隙間から外を覗くと、人が倒れているような影が見えた。

スフェルが、ぴょんっと腕から飛び出して慌てて追いかけた。

結論、影は、鬼人の女の子だった。

「生きてる!!スフェル、運ぶの手伝って!!」

途切れ途切れに一生懸命助けて欲しいと喋る彼女をなだめながら、何とか大丈夫だと伝えて手当をした。

今は化膿止めと痛み止めの薬を飲んで私のベットで眠ってしまった。

対人恐怖症の私には、もう限界。

切羽詰まってたからできたことだと、実感して手が震えている。

それでも、彼女が助かって良かったと心から思う。

「スフェル、ごめん。少しだけ、横に・・・ならふぇ~て・・・」

あくび交じりにスフェルに周りの見張りを頼んで、ソファで横になった。


目が覚めると、スフェルが腕の中に居た。

そばに居てくれたんだと、嬉しくなってそっとスフェルを撫でてから、鬼人の女の子の様子を見に行った。

そ~っとドアを少しだけ開けると、玉の汗をかいて苦し気に喘いでいた。

小さな桶に水を汲んで、布を濡らして見える範囲を拭いてあげると少しは苦しさが和らいだようだった。

しばらく、何をするでもなく彼女の寝顔を見ていた。

鬼人は、総じて私たち人族より背が高い。

力が強く、戦いにおいては訓練をしていない人でも戦士並だと聞く。

そんな彼女がこれ程に深手を追うような魔獣がこの森にいる事が、普通に怖い…

「ここ・・・私・・・?あなた・・・・?」

頭に疑問符をたくさん浮かべて、ぼやぁっと開かれた鬼人特有の紫の瞳が私に状況を説明して欲しいと言っている。

人の顔をまともに見れない私は、俯きながら何とか言葉を絞り出した。

「えっと・・・あの、倒れてた。怪我してた。手当・・・あ、私、リェース。」

顔から火が出そう・・・逃げたい・・・恥ずかしい・・・怖い・・・

俯いて小さな声しか出なかった私を、彼女はどう思っただろう・・・

「リェースさん?私は、マイン。ありがとう、助けてくれて。突然で大変だったよね、ごめんね。でも、本当にありがとう。」

マインさんは、ゆっくりとだけど、丁寧にお礼を言ってくれた。

そっと目を上げると、小さく微笑んでいた。

「何か食べた方が・・・食べれる?えと、スープ、パン、チーズ、果物」

家にある物を指折り数える私に、マインさんがふっと笑った。

「ありがとう。お腹空いてる。多分、食べて寝れば熱も下がるし、なんでも食べれるから、お願いします。」

頭を下げる彼女に、すぐに持ってくるからと言い残して部屋を出た。

「スフェルぅ~。私ダメダメだぁ~。上手くしゃべれないよぅ。どうしよう・・・絶対変な子って思われてる。あぁ・・・」

きょとんと私を見上げるスフェルに小さな声で話しかけながら、返事を期待しないで食事を用意した。

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