第3話 婚約破棄の書類

先ほど、婚約破棄の書類を持たせた従者を、使いに出したわたくしは、ラミーリア公爵邸でアフタヌーンティーを楽しんでいる。


「アリア様、殿下が簡単にサインするでしょうか?」

「えぇ、必ずするわ」



クッキーをつまんだところでちょうど、従者が帰ってきた。

「アリア様、サインをもらって参りました」

「ありがとう」

従者から受け取って、確認する。

「どうしてサインをしたのでしょう?婚約破棄の書類なんかに。殿下は、アリア様そっちのけで女漁りをしていますが、アリア様にも手を出しそうな勢いでしたのに」

「まぁ、マリー、殿下がわたくしの耳元でおっしゃったことを聞いていたの?」

「私、耳はいいのです。本当に、許せませんわ」

「ふふ、そうだったわね。それで、殿下がこの婚約破棄にサインしたのは、これが読めなかったからよ」

「えっ、殿下って古語が読めないのですか」


古語は、話し言葉としては今は使われていないが、このような正式な書類には必ず使われる。そのため、王族、貴族はもちろん、庶民のほとんどが読める。が、勉強が嫌いな殿下は、もちろん学んでいない。

このことを知っているのは、わたくしと、国王夫妻、それとわたくしの父のような一部の上位貴族ぐらいかしら。


「えぇ、そうよ。殿下は古語が読めないの。でも、殿下はプライドが高い方だから、そんなことをわたくしの従者に言えるはずがないわ。だから読んだふりをすると思ったのよ」

「では、殿下は婚約破棄したことを知らないと?」

「そうでしょうね」

「さすがアリア様です。実際、殿下はこの書類を読んでおりませんでした。私が見たところ、目が書面をおっていませんでしたし、婚約破棄と分かっているような素振りを見せておりませんでした」

「ほらね」


ウクリナ王国では、婚約破棄は両者の合意がないとできない。

形式的に、婚約時に婚約破棄の書類も作成する。ここに2人がサインをすれば、婚約破棄が成立する。が、実際にこの書類を使う人はほとんどいない。あくまで、「形式」である。婚約破棄自体をする人が少ないのだ。婚約破棄は基本、男性の方に原因があったと捉えられてしまう。


「王宮に行きましょう。この書類を陛下に提出しなくては、正式に婚約破棄したことにはならないわ」




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