第21話
〜???side〜
「さぁ僕のペット達。憎きソルジャーの卵達をこらしめておいで。」
自分の身体に埋め込んだクリスタルから黒い光が溢れ、そこから魔物が次々と現れる。
ゲートを守っていたソルジャーが隣で血の海に沈んでいる中、フードを深く被ったその男は、最初は大演習の観客席から観戦していたが、頃合いと判断し誰もいない所で多数の魔物を召喚し、演習場の中へ送り込んでいた。
今回の作戦で使用する魔物を全て送り込むと、いつの間にかフードの男の後ろに片膝を着いていた人物が、
「ジーニアス卿。全ての準備は完了したぜ。」
「そうか。では我々は先に退散するとしよう。」
「俺は少し遊んでいっても?」
「構わん。全ては星の導きのままに。」
誰にも見られることなく、1人はゲートを潜った。
残ったジーニアス卿と呼ばれた男は、
「仕方のない奴だ。援軍が来ないよう少しだけ手助けしてやるか。」
そう言い、再びクリスタルが黒く光りだした。
そこに現れたのは、全身が黒い甲冑で覆われた人型と首のない人型だった。
「暗黒騎士、デュラハン、このゲートを死守せよ。」
そう言い残し、ジーニアス卿は消えていった。
☆
〜アレクside〜
「グルルルゥ。」
「こいつって説明であった召喚獣なのか? それにしちゃあ弱そうだな。」
森の中を歩いていると、急に目の前が光りだし、その中から狼が現れた。
俺の姿を見た途端、戦闘態勢に入っていたので恐らく召喚獣なんだろう。
「敵なんだから倒すか!」
俺は剣を抜き、狼に向かって構える。
俺が戦うつもりなのがわかったのか、狼は口を開けて俺に襲いかかってきた。
横に飛び避けると、再び構えて作戦を考える。
フェイントも何も無いただの突進か。これくらいなら作戦なんかいらないな。
真正面からぶった斬る!
再び狼が突進してくると、それに合わせて俺は剣を振るった。
「飛斬!」
大演習ギリギリで師匠から合格をもらった飛斬を使った。
飛ぶ斬撃を考えていなかったのか、狼は回避する事が出来ず真っ二つに切り裂かれた。
召喚獣なので消えるかと思ったら、血と臓物を撒き散らしているままの状態から変わらない。
最近の召喚獣は妙な所でリアルなんだな。
不思議に思いながらも、召喚獣には詳しくない為無理矢理納得した。
次の場所へと移動しようとした時、血の匂いを嗅ぎつけたのか10頭程の狼の群れがやって来た。
仲間を殺されたのが嫌だったのだろう。かなり興奮している。
襲われたから反撃しただけなのに。
お前ら召喚獣だろ? それくらいで怒るなよ。
ため息をつきながら剣を構えると、
「異常事態発生。異常事態発生。現在、演習場内にて魔物の出現を確認。応援を送ろうとしているが、ゲート前の敵を片付けてからになるので遅れます。現場のソルジャーは各自殲滅せよ。繰り返す。魔物を発見次第ソルジャーは殲滅せよ。」
魔物が現れただと? それに応援が来ないのか。
俺は今しがた倒した狼の方を見て、もしかしてこいつら召喚獣じゃなくて魔物なのか? と、自問自答する。
そうこうしている内に狼達は吠え、一斉に襲ってくる。
「くそっ! 物理攻撃じゃ俺の魔法は使えねえ。どうする?」
少し焦っている時に、ふと師匠の言葉を思い出した。
「ピンチの時こそ冷静になれ。慌てていたら無様に死んでいくだけだぞ。状況をよく見ろ。生き残る為の最善を尽くせ。」
その言葉を思い出した時、俺の身体は自然と動いていた。
前方から襲ってくる3体の狼の足元に滑り込み、中央の1体を縦に両断した。
続けて左から2体が襲ってきており、俺は反対側へ転がり避ける。
タイミングをずらし着地した所を接近し2体を切り裂く。
残り7体!
順調に3体を倒したが、まだ数は多い。
油断せず周囲を警戒すると、両側から2体ずつ襲いかかってくる。
俺は右側の狼に剣を向け、
「飛斬!」
斬撃を飛ばし1体を葬る。しかし、
「いてぇ!」
反対側から襲ってきた狼の1体に足を噛まれる。
「痛いじゃねえかよ!」
俺は噛み付かれた方の足を振り回し、狼達を近付かせない。
少し怯んだ所で、噛み付いている狼に剣を刺し倒すと、怯んだ狼の1体に向けて剣を投げた。
見事に刺さり、残りは4体。
武器を持っていないのを感じ取ったのか、狼達は連携して再び襲いかかってくる。
俺は走って剣を取りに行き、狼から剣を抜いたと同時に後ろに向かって剣を横薙ぎに振るう。
後ろから飛び付いてきていた2体を切り倒すと、残りの狼は勝てないと悟ったのか逃げていった。
気配が完全になくなったのを確認すると、俺は座り込んでから一息つき、
「ふぅ〜。疲れたぁ。」
ふと考えると、1人で魔物と戦闘したのって生まれて初めてか?
ボーッと狼の死骸を見て考えていると、何やら光っている所がある。
痛む足を引き摺りながら近付くとそこには、小さめのサイズだがクリスタルがあった。
もしかして、クリスタルって魔物の死体から出てくるの?
俺は取り出したクリスタルと、以前にクリスタルを付与してもらった腕輪を見比べる。
これも魔物から取れたのかな?
今度誰かに聞いてみようと結論が出ると、クリスタルをポケットに入れ歩き出した。
まずは誰かと合流しよう。そこからだ。
再び歩き出そうとすると、前方から誰かの気配がした。
剣を構え、魔物が襲ってきても対応できるようにしていると、
「なんだお前かクズ。」
森の奥からやって来たのは、大きな槍を持ったフレイだった。
「フレイか。無事で良かった。今は魔物が出るらしいから気を付けないといけないぞ。」
「もう何体も殺している。あんな雑魚で私を止められる訳がないだろうが。お前は……ふっ、怪我してるじゃないか雑魚め。」
鼻で笑ったフレイに反論したかったが、向こうは無傷で俺は負傷している。
悔しいが今は何も言い返せなかった。
フレイが少し視線を外しながら、
「まぁなんだ。1人より2人の方が安全だろう。私が守ってやってもいいぞ?」
「それ知ってるぞ。前にマルスから聞いた。ツンデレってやつだろ?」
俺がツンデレと言うと、フレイが槍で突きを放ってきた。
「うおっ! 危ねぇな!」
「そのくだらない事ばかり言う口を黙らせてやるから動くな。」
「すいませんでした!」
恐怖を感じた俺は、頭を直角に曲げ謝った。
ふんっ。と言ったが何もしてこないのでどうやら許してくれたようだ。
とりあえずこれからの動きを相談しないと。
「今からどうする?」
「まずは動ける生徒を探す。」
「じゃあ探すか。俺は向こうで気配を探るからフレイは反対側な。」
「……お前が全部やれ。」
はぁ? 今の俺は変な顔をしているだろう。
頭を傾けながら、
「なんでそんな無駄な事すんだよ。2人でやった方が早いだろうが。」
「う、うるさい! さっさとやれ!」
「お前……。もしかして気配探れないのか?」
顔を赤くしたフレイから何やらオーラが見えるような気がする。
あ、これは言ったらダメなやつだ。
「わ、わかった! 俺が気配を探るからフレイはしなくていい! だから怒るな!」
ふぅ〜っと息を吐いたフレイは俺を睨み、
「じゃあさっさとやれ。」
はいはいわかりましたよ。
俺はため息をつきながら気配を探った。すると、
「フレイ。こっちの方向に誰かいるかもしれない。」
「よし。それじゃあ行くぞ。」
「お、おい! 俺も正確じゃないから、もしかしたら魔物かもしれないぞ。」
「魔物なら蹴散らすまでだ。」
なんて頼もしいんでしょうね。
槍を構えながら勇ましく歩いていくフレイの後ろ姿を見ながら、俺はもう一度ため息をついた。
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