第12話

 ナターシャさんが再び前に立ち、


 「以上、学園長の挨拶でした。それでは、今からソルジャーの証、クラスソルジャーのバッジを渡します。誰からでも良いので取りに来てください。」


 その言葉を聞き、俺達は順番に並んでバッジを受け取った。


 これがソルジャーバッジか。

 俺の手の中にあるバッジは、ボタンサイズの大きさで中心に剣のマークが彫ってある。因みに色は銀色だ。

 バッジが全員に行き渡ると、


 「そちらのバッジは左胸に装着しておいてください。続いて、担任となる方をお呼びします。どうぞ。」


 ナターシャさん呼ぶと、1人の男性が前に立った。


 「こちらが担任のロック先生です。先生一言どうぞ。」

 「担任のロックだ。クラスはナイト。俺の担当授業は戦闘訓練だ。学園長に睨まれるとダルいのでこれからビシバシ鍛えていく。よろしく。」


 少し面倒くさそうな表情をしたロック先生が簡単な挨拶をする。

 女性が前に戻ってきて、


 「今からロック先生に教室の場所を案内してもらいます。教室に案内後、解散となります。明後日からさっそく授業を行うので、皆さん解散後は早速荷物を纏めて寮に入ってください。寮の場所や入寮時間は、これから渡す生徒手帳に記載されているので、それを調べながら来てください。」


 え? そこは案内とかしてくれないの?

 不親切だなぁと思っていると、


 「それを調べるくらいはソルジャーとして出来て当然です。遅刻した場合は、罰があるので忘れないように。ではロック先生お願いします。」


 頭を掻きながらロック先生が、


 「じゃあお前ら行くぞ。最初は迷うだろうが、なんとかして来い。授業に遅刻なんてめんどくさい事はするなよ?」


 迷うって? 今から案内してくれるのに?

 先生の言う事が理解できずとりあえずついていく事にした。


 しばらく歩いていると、マルスが後ろから近づいてきて、


 「おいアレク。ちゃんと道順覚えてるか? 覚えてないと遅刻する羽目になるぞ?」


 あっ……。そういう事か……。


 何も考えていなかった俺は、ここまでの道順を全然覚えていない事に気が付いた。

 マルスはため息をつき、


 「全員寮から通学だから連れていってやるよ。」

 「ありがとう。助かるよ。」


 そうこうしている内に、俺達は教室に辿り着いた。


 中に入ると、20人分の机と椅子が並んでおり、好きな席に着席するよう指示された。

 俺とマルスは適当に真ん中あたりの椅子に座る。

 全員が椅子に座ったのを確認した先生は、


 「全員座ったな。ここがお前達の教室、1年Aクラスだ。他にも普通科とかがあるからこういう呼び方になっているが、実際このクラスはさっきバッジを貰ったとおり若きソルジャー達の養成を目的としている。だから任務にも出てもらう事もあるだろう。普通科の奴とは違うと理解しておけ。ここにいるという事は心配ないだろうが、間違っても普通科の奴等に暴力やいじめなんかするなよ?」


 俺は田舎暮らしで分からないが、都会ではいじめなんてあるんだな。

 ボーっと考えていると先生が、


 「今日は自己紹介だけして解散だ。順番を決めるのはめんどくさいから扉側に座っている奴から順番に前に来て自己紹介しろ。」


 自己紹介か。何を言おうかな。

 名前と出身地、後はジョブを言ったらいいかな?

 魔法はクリスタルを持っていないから今の所は使えないし。

 他に何を言ったらいいんだろう。初めてだからよくわかんないぞ。


 1人で考え込んでいると、マルスが俺の肩を叩いた。


 「おいアレク。お前の順番だぞ。」

 「え? もう? まだ何を言うか決めてないんだけど。」

 「全然話聞いてねえな? 名前と出身、ジョブの3つでいいんだよ。」

 「それだけか。」

 「おい。早く終わりたいんだから早くしろ。」


 先生にそう言われ急いで前に行く。

 クラスメイトの前に立つと、


 「えーっと、アレクって言います。辺境のソゴ村から来ました。ジョブは戦士?剣士?です。よろしくお願いします。」


 まぁ自分でもはっきりとジョブは分かってないしこれでいいか。

 自己紹介が終わり、自分の席に戻る。

 次の人とすれ違う時に、


 「田舎もんはお呼びじゃないんだよ。さっさと帰れ。」


 周りには聞こえないくらいの声量で俺に囁いてきた。

 イラッとした俺は思わずそいつの肩を掴み、


 「あぁ? 田舎もんはこの学園に通ったらいけないのかよ? 試験に受かってるんだから文句言われる筋合いねぇだろ。」

 「ちょ、おいアレク!」


 近付いてきたマルスが俺を掴み離そうとした。

 しかし、俺は掴んだ手を離さずに睨んだままだ。相手の男も俺を睨み、一触即発の空気が流れた。


 「お前らやめろ鬱陶しい。」


 先生が面倒くさそうに間に入り、俺の手を離した。

 男はよれた服を戻し俺を睨んでから前に立ち、


 「俺の名はガリオン。性はフランニーグだ。出身はフランニーグ伯爵領でジョブは銃剣士。先程のような田舎もんには絶対負けない実力を持っている自信はある。よろしく。」


 ガリオンと名乗った男は、俺の方を馬鹿にしたような目で見ていた。

 先生がはぁ〜っとため息をつき、


 「この学園では爵位は関係ないから別に性は名乗らなくてもいいんだがな。それと、これからは同じ任務を受けることもあるんだ。仲良くやれ。」

 「無理ですね。こんな礼儀を知らない平民と仲良くなど。」

 「平民平民うるせえぞ。貴族だかなんだか知らねえけどお前が偉いんじゃないんだからな。」

 「あなた達うるさいわよ。他の人に迷惑がかかってるの。喧嘩なら後でしてちょうだい。」


 セレスティアが俺達を睨みそう言い放った。

 ガリオンは片膝をつき、


 「申し訳ございませんセレスティア様。」


 こいつの急な態度の変わりようといい、セレスティアは貴族の娘なのだろうか。

 俺も見よう見まねで片膝をつこうとすると、


 「そんな態度はしなくていいわよ。学園に通っている間、私はただのセレスティアです。それに、偉いのは私の親であって私は別に偉くないわ。」


 そう言い終わるとセレスティアは席に着いた。

 先生が教壇に立ち、


 「今ので全員自己紹介が終わったから今日は解散とする。明日からは通常の授業が始まるからな。じゃあまた明日。」


 そう言い残し、ロック先生は教室から出ていった。

 少し気まずい空気の中、俺が立ち上がるとマルスが俺の肩を掴み、


 「さっさと帰るぞアレク。」


 そう言い俺の背中を押して教室を出ようとすると、


 「逃げるのか平民。」

 「あぁ? なんだって?」

 「アレクやめろって!」

 「マルス! あんな事言われて許せるのかよ!」

 「1回落ち着けって!」


 マルスの必死な説得が俺にも伝わり少し冷静になった。

 俺が落ち着いたのが分かったのか、


 「いいか? ここで争っても意味なんかないんだよ。見返したかったら成績で見返してやれ。」

 「それもそうだな。ありがとう。」


 俺はマルスの言っている意味を理解し、教室から出ようと歩き出した。


 「貴様らが俺に勝てる訳がないだろうが。」


 後ろからガリオンが何か言っているが、俺は気にせず教室から出て寮に向かって歩いて行った。

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