第2章 学園編① 入学〜大演習編
第5話
首都に向けて馬車を走らせる事約1週間……。
「そろそろ見えてきましたよ。」
「そうですか!」
御者の人からそう伝えられ、俺は外を見た。
「これが首都かぁ。」
初めて見た首都はとても大きかった。
行商人の人の話によると、首都は様々な魔導機械で溢れており、人の数もとんでもなく多いそうだ。
また、首都を維持する為の莫大なエネルギー資源を発掘する為に夜も明るく人々からは眠らない街と呼ばれているらしい。
「ここで俺は頂点を取る!」
改めて首都を見た俺は、自然と握り拳を握った。
☆
首都に入る為の検問を通過し、広場で行商人の人と別れた。
「さあて、まずは何から始めるかな。」
両手を上に上げ、背伸びをした俺はまず何から始めるか考えた。
うん、まずは受験の申し込みからだな。
行商人の人から事前に聞いていたセントラル学園の場所へと向かうか。
「しっかし、本当に広いなぁ。道を覚えるのに時間がかかりそうだ。」
歩き出した俺は、首都の広さを感じこの街の人達はどうやって覚えているのだろうかと気になってきた。
今は、色んなお店がある通りを歩いている。
露店で売っている食べ物の匂いの誘惑に負けそうになるが、今は我慢だ。
誘惑を断ち切り、学園に向かって歩いていると、
「ちょっと! 先にぶつかってきたのはそっちでしょ!」
この喧騒の中でも良く聞こえる声が響いた。
なんか揉め事か? 通り道だし少し見てみるか。
声のする方向へ歩いていくと、
「おいおい嬢ちゃん。そっちからぶつかってきたのにその言い方はおかしいぜ。」
「何言ってんのよ。私は避けたのにわざわざこっちの方に向かって来るのが悪いんでしょ!」
同じくらいの歳の女の子と、男が口論になっていた。
どうやらぶつかった際の口論みたいだが、別にお互い謝ればよくね?
そんな事を思っていると、男が拳をパキパキと鳴らし、
「お嬢ちゃんが悪いって言ってんだろ? 口で言っても分からない様なら、身体で覚えてもらうしかねえな。へへへ。」
「厭らしい笑いを。気持ち悪いわ。怪我しても知らないからね。」
「あんまり歳上をからかいすぎると痛い目にあうぞ!」
堪忍袋の緒が切れたのか、男が拳を振り上げた。
周囲がザワつき女の子が構えた時に、気が付いたら俺は走っていた。そして、
「女の子に手を出すんじゃねえよおっさん!」
「ぐほぉ!」
男が情けない声を出しながら吹き飛び、野次馬の中に突っ込んでいった。
突然の乱入者に周囲が沈黙する中、口論をしていた女の子が、
「あなた誰?」
まぁ普通そういう反応になるよな。
当然の反応だと思いながら俺は、女の子の方を向き、
「通りすがりの人です。あの男が気にくわなかったから乱入しただけなので。それじゃ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「そうだ! てめぇよくも蹴り飛ばしてくれたな。ぶっ殺してやる!」
野次馬の中から鼻血を出して戻って来る男が俺に向かって剣を構えた。
武器を構えた事で周囲は騒がしくなり、人混みが散らばっていく。
「おいおっさん! こんな街中で剣を構えるって常識外れかよ!」
「いや、急に飛び蹴りをするあなたに常識を語られても……。」
隣から女の子の指摘が入ったが、聞こえないふりをした。
男から発せられる雰囲気が変わり、
「うるせぇ! おらぁ!」
剣を上段から振り下ろしてきた。
うわっ! おそっ!
あまりもの遅さに剣を構える事もなく横になって回避し、男が通り抜ける勢いを利用して足を引っかけた。
「ぶへっ!」
男は予想通りに頭から地面にぶつかった。悔しかったのか、急いで起き上がろうとするが、振り向いた時には既に俺が首元に剣を当て動けない様になっていた。
俺は剣を男に当てながら、
「女の子を傷付ける為に剣を振るうんじゃねえよ。男ならその剣で周りの人を助けろよ。」
「なにカッコつけてるのよ。ちょっと怖いんだけど。」
周囲からの歓声に紛れ、女の子から冷たい刃のようなツッコミが入る。
気にするな、受け流すんだ俺。
気を取り直して、女の子に声を掛けようとした時、
「こらぁー! お前達何をしている!」
「うわぁ! 警務隊が来たぞー!」
誰かが発した声に野次馬達が反応し逃げ出した。
状況がよく分かってない俺は辺りを見渡すが、誰も俺に声を掛けてくれない。
女の子に話を聞こうと振り向くとそこには、誰もいなかった。
え? 嘘だろ?
呆然としてる中、警務隊と呼ばれた人達が俺の周囲を囲んだ。
「貴様! 何故街中で剣を振るっている! 今すぐ剣を降ろし投降しなさい!」
「え? ちょっと! 俺は女の子を助けただけで……。」
「女の子なんか何処にもいないぞ! 詳しい話は詰所で聞くから落ち着きなさい。」
事情が全く分からずとりあえず剣を背中に片付けると、警務隊の人達が近付いてきて俺の両手に金属製の輪っかを取り付けた。
「あ、あの! 手が動かせないんですけど。」
「何言ってんだ。動かせないようにする為の手錠だろうが。」
「えぇー! 俺何も悪い事してませんよ!」
精一杯反論したが、警務隊の人の目線が俺の足元にいき俺も足元に目を向けると、鼻血を流して気絶しているおっさんがいた。
そして、2人同時に目線を上げ目が合うと、俺も警務隊の人も乾いた笑いをした。
「よし! 詰所に連行しろ。」
「待ってくれ! 俺は悪くない!」
「だから、詳しい話は詰所で聞くと何回も言っているだろう!」
「誰かー! さっきの話をこの人達にしてくれー!」
叫びも虚しく、街の人達は見て見ぬふりで目を逸らした。
くっ! 都会の人はなんて冷たいんだ!
頭を垂れた俺は、大人しく連行されて行った。
☆
詰所に連行された俺は取調室と書かれた部屋の中に案内され、部屋の中にあった椅子に座らされた。
警務隊の人が対面に座り、
「さて、それじゃあ話を聞こうか。」
「いや、話も何も俺は悪くないですよ。」
「だから! それを確かめる為に話を聞くの!」
「はぁ。分かりましたよ。」
納得がいかないが、俺は先程の騒動の話を詳しく話した。
話の内容は、警務隊の人がメモを取っており疑問点があればすぐに質問をされた。
メモを書き終わった警務隊の人は、
「結論を言えば、女の子が先程の男に襲われそうになった所を君が助けた、と言う事で間違いはないか?」
「だからさっきから何回もそう言ってるじゃないですか!」
「その助けた女の子が居れば話は早いんだが……。見つからなかったら今日1日はここで泊まることになるね。」
「ちょ! 俺は今日、セントラル学園に受験の申し込みをしないといけないんですけど?」
「なんだと? 確か受験の受付は今日までだったな。うーん困った。どうしようか。」
え? まさか俺……。こんな事で学園に入学出来なくなるの?
流石に焦った俺は、苦し紛れにリベットさんとミレイさんの名前を出した。すると、警務隊の人は笑い、
「ははは。リベットさんとミレイさんってクラスパラディンのお2人かい? それはいくら何でも嘘だろう。」
「いやいや! 本当だって! 俺はリベットさんの弟子だよ!」
「あの人が弟子を取るなんて聞いた事ないからなぁ。本当に連絡してもいいんだな? 嘘だったら余計に罰が厳しくなるぞ?」
「嘘じゃないから連絡してくれ!」
頭を傾けながら警務隊の人は扉を開け、近くにいた人に話をしだした。
なんで首都に着いた初日からこんな目にあうんだよ。都会って怖い……。
それにしてもあの女! 自分が逃げる為に俺を囮に使いやがって! 次に会った時は文句言ってやる。
そんな事を考えていると、警務隊の人が戻って来て、
「どうやら君の言っている事は本当みたいだ。疑ってすまなかった。」
「もう解放されるなら何でも良いですよ……。」
「じゃあ今から行こうか。ちょうどリベットさんは任務に出ていないから学園の方にいてるそうだし。」
「解放してくれれば1人で行きますけど?」
「解放じゃなくて釈放な。それに、リベットさんに引き渡すまでが俺達の仕事だから。それまでは手錠を付けたまま連れて行かせてもらうよ。」
「待って待って! さすがにこれは恥ずかしくない?」
客観的に見て、悪い事をした人が付ける手錠をしたまま学園にいるリベットさんの所まで向かう。これは恥ずかしすぎる!
しかし、俺の願いも虚しく、
「悪いとは思ってるよ? でも規則だから。」
そう言い残し警務隊の人は扉を開けた。
このままかぁ。嫌だなぁ。
心の中で思うが、どうしようもないんだろうと悟り、暗い表情で部屋を後にした。
☆
「さ、学園に着いたよ。」
手錠をかけられたまま、警務隊の人に背中を押され歩き、ようやく学園に辿り着いた。
うぅ。街の人達の俺を見る反応が……。
都会は怖いんだな……。
気を取り直して学園の門の方を見ると、懐かしい人が待っていた。爆笑しながら。
「ははははっ! 到着早々何やらかしてるんだよアレク!」
「リベットさん! 早く助けてくれ!」
「助けても何もお前を引き取りに来たんだぞ。それにしても、くくっ。ダメだ面白すぎる!」
久しぶりの再会に感動する要素など微塵もなく、ただただ爆笑された。
くそっ! これも全部あの女のせいだ!
俺がぶつぶつと文句を言っていると、警務隊の人が苦笑しながら、
「これで引き渡しは完了だから手錠を外すよ。」
やっと解放……じゃなくて釈放された。
リベットさんを見ているのか、手錠をかけられた俺を見ているのかは分からないが、周囲からたくさんの視線を感じる。
リベットさんが俺の肩を叩き、
「まっ。色々あったと思うがよく来たな。ようこそセントラル学園へ。さっさと受付済ませるぞ。警務隊もご苦労だったな。」
「はい。それじゃ私はこれで。」
警務隊の人が去っていき、俺達は受付所に行くために歩き出した。
歩いている時、リベットさんが俺の方を見て、
「さっさと受付を終わらせて軽く手合わせするぞ。今のお前の実力が知りたい。」
「分かりました。全力でいきます。」
「おぅ。全力でかかってきな。」
そうやって話をしたいる内に受付所まで到着した。
係の人は、驚いた顔をして、
「リベットさんじゃないですか! どうしたんですかこんな所に。」
「終わり間近なのに悪いな。こいつの受付をしてもらえるか?」
「はい。分かりました。えーっと君、名前と出身を教えてくれるかな?」
「ソゴ村のアレクです。」
「アレク君ね。あったあった。はい、受付は完了しました。試験は明日なので、朝の9時までにここに集まってください。」
「分かりました。」
無事に受付が終わると、リベットさんが歩き出し、
「さて、時間もあまりないし早速手合わせしに行くか。」
「はい。お願いします!」
俺とリベットさんは手合わせをする場所へと向かって行った。
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