第4話


 宿を出て広場で待機していると、2本の木刀を持ったリベットさんがやって来た。


 「あんまり時間がある訳じゃないから、剣の型を教えるぞ。修行方法は後で教えるからな。」

 「お願いします!」


 リベットさんの修行が始まり、まずは剣の型を正確にするように形を教えられた。


 「構えが違う! 楽な方に逃げようとするな。そうだ! その構えを常に出来るように反復しろ。」

 「は、はい!」


 ある程度、型が出来てくると次は剣の振り方の指導に入る。


 「脇が甘い! それに力が入りすぎている! 剣を振る時は力を抜いて身体全体を使って振り抜くんだ。」

 「はい!」


 そして、剣の素振りを教えて貰っていると、ミレイさんがやって来て、


 「リベット、そろそろ時間よ。」

 「そうか。全然教えれなかったな。」

 「はぁはぁ、ありがとうございました。」

 「とりあえず、今教えた型の反復、それに素振りを毎日100回から始めて、慣れたら増やしていくこと。上限は1000回にしておこうか。」

 「わかった!」

 「アレクは今10歳だろう? 15歳になれば、首都にある俺が通っているセントラル学園の受験に参加出来るようになる。今よりも強くなりたかったら、うちの学園に来い。そこでみっちり鍛えてやる。」

 「わかった! 親としっかり話をして説得する!」

 「そうしろ。あと、修行をつけている間はお前は俺の弟子だ。ちゃんと敬語使え。」

 「あ、はい! わかりました!」

 「それじゃあ帰るか。待ってるぞアレク。」


 そう言い残し、リベットさん達は帰って行った。

 父さんと母さんに話をしないとな。

 帰って行く魔導四輪を見ながら俺は決心した。



 〜リベットside〜


 魔導車に乗り込んだ俺達は、待たせていた領主に頭を下げ席に座った。


 運転手に合図を出し出発すると、隣に座っていたミレイが声を掛けてきた。


 「あなたが指導するなんてどうしたの?」

 「あいつはまだまだ未熟だが、結構良いセンスしてるぞ。鍛えがいがある。」

 「剣聖に褒められるなんてあの子素質はあるのね。」

 「普通に師事すればナイトは確実といったレベルかな? それなら俺がみっちり指導してパラディンまで持っていく。あいつの根性は、鍛えても手に入れられない天性のもんだからな。」

 「ふふっ。ずいぶんな入れ込みね。あなたに師事を希望している人なんて山程いるのに。」


 そこで会話を終わらせたが、自分でも何故アレクを指導する気になったのかわからない。


 だが、自分でも気付いていない光るものがあったのだろうと勝手に解釈する。

 早く来いよアレク。お前ならきっと俺達クラスパラディンまでいけるはずだ。

 遠くなっていく村を見ながら俺は心の中でアレクに声を掛けた。



 〜アレクside〜


 俺は急いで家に帰り、父さんと母さんを探した。

 ちょうど居間で2人で寛いでいる姿を発見し、話をする為に向かった。


 「父さん! 母さん! 話があるんだ!」

 「どうしたの急に? まずは座りなさい。」


 母さんが椅子を引き座るように言うと、大人しく座り2人の方を見た。


 「それで、どうしたんだ急に?」


 父さんが尋ねてきたので、自分の思いを伝える。


 「父さん母さん。俺、首都に行って強くなりたいんだ。」


 2人は驚いたような表情を顔に出し、


 「何言ってるんだいきなり。本気なのか?」

 「本気だよ。さっき帰ったリベットさんと話をして、学園に入るまでの鍛錬方法も聞いた。

もう、この前みたいな思いをしてソフィアを悲しませたくない。皆を守れるようになりたいんだ。」

 「そうか。しかし首都かぁ〜。」

 「あなた、この子なりに真剣に考えているのだから。」

 「わかってる。だからこそ親の俺達も真剣に考えてあげないといけない。」


 父さんは少し考え込みそして、


 「よし! それなら条件をつけよう。リベットさんに教わった鍛錬を毎日続ける事。家の手伝いはしっかりする事。最後に、ソフィアちゃんが納得するように話をする事。許可なく村の外には出ない事。これを守れるなら良いだろう。」

 「ほんとに!? ありがとう!」


 反対されると思っていたが、そこまで強く反対されず俺は嬉しくなった。

 よし! これからは鍛錬頑張るぞ!

 さっそく俺は庭に出て先程習った素振りを始めた。


 「アレクー! 遊ぼー!」


 素振りをしていると、ソフィアが遊びに誘いに来た。

 額の汗を拭いソフィアの方を向き、


 「ソフィアごめん! 今は鍛錬中だからもう少し待ってて!」

 「鍛錬って?」

 「俺、大きくなったら首都に行って強くなって来るんだ!」

 「え? じゃあ離れ離れになるの?」


 俺の話を聞いたソフィアの目に涙が溜まってくる。

 慌てた俺はソフィアに近付き、


 「そ、そうなるかもしれないんだけど、この前みたいな事があってもソフィアや村の皆を守れるようになりたいんだ。」

 「ぐすっ。ずっと一緒にいれると思ってたのに。」

 「わー! ごめんごめん! 泣くなソフィアー!」

 「今日は帰る……。」


 半べそになりながらソフィアは帰って行った。

 うわぁ〜。もしかしてソフィアの説得が一番大変なのかも……。

 そう思いながらも、まだ期間はあるからなんとかなるだろうと考えるのを止め、鍛錬の続きをする事にした。


 そして、鍛錬や家の用事、ソフィアの説得をしている内に、5年の月日が流れた。



 「ふわぁ~。よく寝た。さて! 今日も鍛錬するか。」


 鍛錬を始めてから早起きになった俺は、15歳になった今では、朝日が昇る前に起床していた。

 素早く着替えを済ませ居間に向かうと、母さんが昨日用意してくれていたのだろう軽めの朝食が置いてあった。


 「うん。美味い。いつ食べても母さんの料理は最高だな。」


 あっという間に食べ終わった俺は、食器を片付けてから家を出た。

 庭に出て軽く準備運動をしてから剣を構える。


 「ふっ!」


 鋭い剣筋で構えを意識しながら素振りを行う。

 始めた当初はすぐに体力がなくなり剣も乱れていたが、鍛錬のおかげで今では乱れることもなく綺麗に振れている……はずだ。


 あれからリベットさんが来ることもなく、村の中に剣の指導者もいない為、完全に独学で昔に教わった事を繰り返していた。

 いつものメニューをこなすと、父さんがこちらに来て、


 「おはようアレク。今日も頑張ってるな。」

 「おはよう父さん。当たり前だろ? 俺は首都で一番の剣士になるのが目標なんだから。」

 「はははっ。それもそうか。どうだ? 明日出発だが、準備は終わっているか?」

 「準備はバッチリだよ。ソフィアの事以外は。」


 そう。両親から許可を貰えた俺は、明日から首都フランベルクに向かう事になっている。


 リベットさんやミレイさんに会えるかどうかは分からないが、毎月やって来る行商人に首都の事や、セントラル学園について必要な事を聞いている。

 金額面ではかなりの費用がかかる為、出してくれた両親には感謝だ。


 あと1つ、解決していかなければならない問題がある。ソフィアの事だ。

 5年前に、首都に行くことを告げてからソフィアとは少しずつ疎遠になっていき、今ではまともに会話をする事もなくなった。


 俺が剣を習うきっかけの1つがソフィアを守れるような男になる事だ。しかし、肝心のソフィアと仲が悪くなっているのなら本末転倒だ。


 「ふぅ。ソフィアに会いに行くか。」


 今日を逃したら次にいつ会えるか分からない。

 旅立つ前になんとか仲直りしないとな。

 一度家に入り、服を着替えてソフィアの家に行く用意をしていると後ろから、


 「あら、出掛けるの?」

 「ちょっと外に行ってくるわ。」

 「じゃあこれを持って行きなさい。どうせソフィアちゃんの家でしょ?」


 なんで分かる母さんよ……。

 平静を装い俺はソフィアの家に向かって歩き出した。

 歩く事数分……。

 ソフィアの家の前に到着した。


 「ふぅ。よし。」


 意を決して扉をノックする。すると、


 「はーい。」


 ソフィアの声だ。

 久しぶりに聞いた気がして、自分でも緊張しているのがわかる。

 扉を開けたソフィアは、俺を見て一瞬だけ笑顔を見せたがすぐに無表情になる。


 「なに?」

 「いや、あの、えっと。」

 「何か用があって来たんでしょ?」

 「そ、そう! 母さんがお菓子を作ったからお裾分けを。」

 「ありがと。おばさんにお礼を言っておいて。それじゃあ。」


 ソフィアはお菓子の入ったバスケットを受け取り扉を閉めようとするが、俺が扉を抑える。


 「なによ?」

 「ソフィア。俺は明日、首都に行ってくる。」

 「そっか。それじゃさよならだね。」

 「お前に言わないといけない事がある。」


 緊張で喉がカラカラだが、真っ直ぐソフィアの目を見て、


 「俺は絶対強くなって戻ってくる。それと、昔にした約束は忘れてないから。」


 それを伝えると、ソフィア目を開いた。そして、涙目になり、


 「ほんとに? 嘘だったら絶交だよ?」

 「あぁ。これからは一緒にいれないけど、必ず帰って来るから。」

 「うん。待ってる。」


 そう答えたソフィアの顔は、昔とは違いとても綺麗な笑顔だった。



 次の日の朝……。


 行商人の馬車の前で俺は両親とソフィアと顔を合わせる。


 「それじゃあ行ってくるよ、父さん母さん、ソフィア。」

 「身体には気を付けるんだよ。」

 「しっかり頂点を取ってこい!」


 両親からの激励が身に染みる。

 少し泣きそうになるが、こんな事で泣いていてはダメだ。

 そして、ソフィアの方を向き、


 「じゃあ行ってくるわソフィア。」

 「いってらっしゃい。手紙くらいは書いてよね?」

 「分かってるよ。手紙なら魔導車で送れるそうだから、すぐに届くよ。」


 今回は、荷物が多いので馬車に乗せてもらう事になったが、手紙のやり取り等は魔導車で配達を行っているそうだ。

 馬車なら1週間はかかる道程だが、魔導車なら約2日で到着するらしい。

 首都での生活が安定したら魔導車を絶対買おう。俺はそう誓った。


 3人と別れの挨拶を済ませたので、馬車に乗り込む。

 行商人は、俺が乗ったのを確認すると、馬車を動かし始めた。


 「頑張ってねアレクー!」

 「あぁ! 行ってくる!」


 ソフィアが手を振っているので、俺も手を振り返す。

 そして、村が見えなくなった頃、俺は気持ちを落ち着かせて前を見た。


 さぁこれからは強くなる事を第一に考えた生活を送ろう。

 まだ見ぬ首都を思い浮かべ、俺は無意識の内に握り拳を作っていた。

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