第3話
「お嬢ちゃん大丈夫か?」
魔物の攻撃を剣で真っ二つに切り裂いた後、男の人が私の方を向き声を掛けてきた。
突然の事にパニックになった私は、
「あ、あの! アレクを、アレクを助けてください。お願いします……。」
「アレク? 誰だそいつ? って後ろの坊主か! こりゃまずい。」
重症のアレクを見て慌てた様子の男の人が、アレクに向かって手をかざし、
「
それは私が初めて見た魔法だった。
男の人が魔法を唱えると、出血が収まりアレクの呼吸が安定してきた。
「俺の回復魔法じゃこれが限界だ。とりあえず命の危険はないから安心しな。」
「ぐすっ。ありがとう、ございます。」
「俺の相方の方が魔法は得意なんだが、どこに行きやがったあいつ!」
「クエェェェ!」
「お兄さん危ない!」
突然新たに現れた人間に怒りを表現しているのか、魔物は鳴きながら羽ばたき空中に浮かんだ。そして、上空からお兄さん目掛け突進してきた。
地面を走ってきた時に比べ遥かに速い速度で突進してきたが、
「邪魔だぁ!」
タイミングを合わせ、大剣を振り下ろし縦に切り裂いた。
男の人は、大剣を背中に背負い、
「Bランクのガルーダ如きが俺に勝てると思うなよ。」
そう呟いた。
そして男の人は、両手を口元に持っていくと、
「おーいミレイー! どこにいるー! 急ぎだから早く来ーい!」
と、とんでもない声量で叫んだ。
近くで聞いた私はあまりもの大声量に耳に手を当てた。
男の人が叫んだ直後、茂みの方から、
「うるさいのよリベット!」
ミレイと呼ばれた女の人がやって来た。
男の人、リベットさんは笑顔になり、
「やっと来たか! お前の魔法が必要なんだよ。この坊主を治してやってくれ。ある程度の治療はしたが、俺にはこれが限界だ。」
「お、お願いします。」
「酷い怪我じゃない! どうしたのよ!」
アレクの状態を見たミレイさんは、とても驚いた表情ですぐに近くに来た。
リベットさんは頭を掻きながら、
「たぶんこの坊主は、嬢ちゃんを守るために盾になったんだろうな。こんな子供がBランクの魔物相手に素手で立ち向かうなんて根性あるぜ。」
「バカな事言わないで。自殺行為じゃない。」
ため息をつきながら、ミレイさんはアレクの傍にしゃがみ込み、
「
魔法を唱えると、酷い状態だった手足があっという間に綺麗になっていく。
ちょうど治療が終えたあたりでアレクが目を覚ました。
☆
〜アレクside〜
「んっ。」
なんだ? 何か分からないけど、俺の手足が暖かく包まれている感覚がある。
目を覚ますと、綺麗なお姉さんと泣き顔のソフィアが目に映った。
「うわぁーん! アレクー!」
とうとう号泣したソフィアに抱きつかれ、お姉さんは笑っていた。
俺は鳥の魔物に襲われて死んだと思ったのに。
状況が良く分からず混乱していると、お姉さんの隣からお兄さんがやって来た。
「おぅ坊主、無事か? もう魔物は倒したから安心しな。」
「ありがとうございます。あの、あなたは?」
「自己紹介がまだだったな。クラスパラディンのリベットって言うんだ。隣の奴は、同じクラスパラディンのミレイだ。」
隣のお姉さん、ミレイさんが手を振っている。
「クラスパラディン?」
「あーまだ知らないか。これは首都で働くソルジャーの階級だな。まぁ首都で生活する様な事があれば分かるさ。」
リベットさんはうんうんと頷いているが、正直全く意味が分からない。
俺が理解していないと分かったのだろう。ミレイさんが笑いながら、
「あんまり気にしなくていいわよ。それよりもあなた達はソゴ村の住人?」
「あ、はい。そうです。俺はアレクで、こっちはソフィアって言います。」
「アレクとソフィアね。今日、私達は護衛の依頼でたまたまここに来たんだけれど、私達が来なかったら2人共死んでいたわよ。本当に運が良かったわね。」
知りたくなかった事実を突きつけられ落ち込んだ。
俺の前に立ったリベットさんは、
「実力もないのに、森の奥に入ったらダメだろう。でも、女の子を守ろうとした根性は認めてやる! よく頑張ったな。」
その言葉に全て救われたのか、俺はポロポロと涙を流した。
リベットさんは豪快に笑いながら、
「よし! それじゃあ帰るか! もう偉いさん方の話も終わる頃だろう。」
「そうね。ほら、あなた達も帰るわよ。早く着いてきなさい。」
リベットさんとミレイさんが先に歩きながら俺達に話しかけてくる。
帰っている道中にも魔物が数体現れたが、リベットさんが全て一刀で切り伏せていき俺達は無事、村に辿り着いた。
村に着いたのは日暮れ前であり、当然の如く俺とソフィアの両親は俺達を探していた。
両親は俺達を見つけると駆け寄ってきて心配していたと怒られた。
ミレイさんが事情を説明すると、案の定父さんからの拳骨が飛んできた。
母さんにも心配をかけたみたいで、夕食時はこっぴどく怒られた。
普段は優しい人が本気で怒るとめちゃくちゃ恐いということが俺の心に刻まれた夜だった。
寝室のベッドに入り、今日の事を振り返る。
「リベットさんめちゃくちゃカッコよかったなぁ。俺もあんな風に強くなりたい。」
今日の帰り道、魔物を倒していくリベットさんの後ろ姿は本当にカッコよかった。
俺もあんな風に強い男になりたい!
そう決意し、まずはどうするか考えてみた。
確か、明日の昼までは村にいるはずだ。
リベットさんの所へ行き、色んな話を聞きに行こう。
もっともっと強くなって、誰にも心配かけないようにするんだ!
俺はそう誓い、明日の為に早く寝ることにした。
次の日……。
「ふわぁぁぁ。良く寝た。よし! 少し早いけどリベットさんの所へ行こう!」
すぐに支度を終えた俺は、急いで家を出る。
家を出る時に母さんに、
「もう森へは行くんじゃないよ?」
そう釘を刺されたので、
「今日はリベットさんの所へ行ってくる!」
そう言い残し、外へと飛び出した。
「さて。リベットさん達はどこにいるかな?」
外へ勢いよく飛び出したは良いものの、どこに泊まっているか分かっていない。
でも、そんなに大きい村じゃないから、大体の予想は出来る。
村に1軒だけある宿屋へと俺は駆け出した。
「おばちゃんおはよう! 昨日、遠くから来た偉い人達は泊まってる?」
「おはようアレク。領主様は泊まっていないけど、護衛の人達は泊まっているよ。」
「その人達はどこの部屋なの?」
「あのねぇ。お客さんの部屋は普通言わないよ?」
おばちゃんに呆れられどうしようかと迷っていると、ちょうど会いたかった人達が降りてきた。
「おっ! 坊主じゃねえか。どうしたんだこんな朝早くに?」
「あっ、リベットさん! おはよう! 今日はリベットさんにお願いがあって来たんだ!」
「お願い? まぁとりあえず座ろうや。すいません。何か飲み物を頂けますか?」
「はいはい。少し待っててくださいね。」
おばちゃんがキッチンへと向かい、飲み物を入れてくる間に俺達は近くにあったテーブルに座った。
座って少し待っていると、おばちゃんが果実水を持って来てくれてテーブルの上に置いていった。
リベットさんは一口飲み、口の中を潤すと俺の方を見て、
「それで? お願いってなんなんだ?」
「あの! 俺も昨日のリベットさんみたいに強くなりたいんだ。もう昨日みたいな思いは嫌だ。凄く痛かったし、ソフィアも泣かせた。だから、どうしたら強くなれるのか教えて欲しい。」
「なんだ、そんな事か。それなら帰るまでは少し時間があるから剣術を教えてやるよ。」
「ほんとに!? ありがとう!」
「そのかわり、俺の修行は厳しいぞ? 弱音を吐くならすぐに辞めるからな。」
「わかった!」
「じゃあ先に外へ出てな。用意したら俺も行くから。」
そう言い残し、リベットさんは部屋へと戻った。
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