第32話


 「今日はいい日じゃ!お主のお陰で研究がしぶりそうじゃわい!」


 「それはよかったよ。けど俺が手伝ったことは言ってくれるなよ?」


 「わかっておるわい!けどこの発明から得られた利益はお主にも渡さなければならぬ、それが筋というものじゃわい。」


 「なら、爺さんが自分で管理して俺の分を分けておいてくれよ。必要になった時に取り出すように頼むからさ。」


 「うーむ。それならば、いや、しかし…」


 「俺は冒険者だぜ?もしそこら辺で死んじまったら俺の金は街に吸われるんだ。それなら爺さんが持っていた方が有意義に使えるだろ。」


 「はあ、そうじゃった。お主もいっしょに魔道具作りをすれば良いものを…」


 「すまないな、俺はこっちの方が性に合っているんだ。」


 というよりも、ダンジョンマスターとしての仕事を考えると研究者で居続けることは不可能に近い。それならばこうやって任せておいた方がマシだ。


 「爺さん、俺はちょっと用事があるからまた来るよ。それまでに何か行き詰まったところがあったらまた言ってくれ。」


 「分かったぞい。それじゃあの!」


 俺は爺さんの家を後にして木漏れ日亭に戻って次の日の朝にギルドに訪問していた。みんなが既に割の良い仕事を受けて準備しているのを横目に残った依頼を掲示板から探す…お、良いのあるじゃん。ギルド内の掃除だそうだ。各部屋や箇所によって依頼を受けられるかどうかは受付の判断によって決められるらしい。


 「おはようございます、今日はこの依頼を受けようと思うのですがどの箇所なら担当させていただけますか?」


 ミィスさんが今日は見当たらなかったので別の受付に行こうと思ったところ厳ついナイスガイなおじさんが居たからそこに来た。他の女性向けor男性向けの美男美女の受付に人が集まるのは仕方がないが俺はこっちの方が好きだ。


 「ふむ、すみませんがステータスカードの方を見せていただいても?」


 「ええ、もちろんです、どうぞ。」


 ステータスカードを受け取ったおじさんは後ろに行き、カードを発行した機械に通した後戻ってきた。


 「あなたの評価を確認したところ、基本的には掃除してもらいたい箇所全て担当可能です。これがその一覧になります。」


 なになに、受付前 飲食場所 図書室 トイレ 解体場 倉庫 作業棟 訓練場 それぞれの備品室などがあった。


 「では、この図書室を担当させて頂けますか?」


 「はい、わかりました。一応お伝えしておきますが窃盗や何かギルドに不利益になることをなされれば厳しく処罰致しますのでご注意下さい。期限は1週間です、早く雑によりも遅くてもしっかりとこなしてください。」


 「わかりました、では失礼致します。」


 俺はまずは図書室の整理に行くために2階へと上がり図書室へと入った。今日は誰も居ないみたいで管理人のような人が一人本を読んでいるだけだった。


 「すいません、ここの掃除を担当する冒険者カズマです。どのように掃除すれば良いか教えていただけますか?」


 「…はい、基本的には埃掃除と窓拭き 床掃除になります。拭き掃除をする際は特に本を濡らさないように気を付けてください。」


 チラリとこちらを見たメガネ少女はさっさと答えて、本の世界に戻ってしまった。部屋の隅に掃除用具があるのを見つけた俺は、そこから箒と雑巾を手に入れた。箒雑巾だけだと本の上や棚の上の掃き掃除はしづらいのでまずは本をどかして風魔法で弱い風を出して埃を落としてしまおうとする。


 しかし、本を片付けているうちに順番になっていないことに気づいた俺は本来のこまめな性格も相まってアイウエオ順で分け始めてしまった。そうこうしながらとりあえず一つの棚から本を下ろした俺は残りの棚も順番に本を下ろしてアイウエオ順に分けていった。半分を過ぎた頃にはもう日暮れどきになっていたが全然気づかなかった。

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