過去のイマカレ 未来のモトカレ (旧題:彼と彼女の初恋)
元 蜜
プロローグ
川沿いの桜並木の下で幼い子どもが二人、手を取り笑い合っている。
「優介くん、大好き!」
「僕も大好きだよ。雫ちゃん、大きくなったら僕のお嫁さんになってね!」
そう言うと、二人はまた笑い合った。
暖かく穏やかな風が吹き、二人を祝福するかのように桜が舞っていた。
(……懐かしい思い出だなぁ)
場面は変わり、今度は夕日に照らされた教室で不安げな表情をした女子生徒が一人、同じ制服を着た数人の女子に囲まれている。
(……イヤだ。この記憶は思い出したくない……)
「山野さんって、香月君のこと好きなの?」
「えっと……」
私は何と答えてよいか分からず、突然起こったこの状況に困惑している。
アヤはハキハキした性格で、同じ学年の中ではリーダー的な存在の女の子だ。見た目も華やかで、男子生徒にも人気がある。
一方、中学生になった私は、基本的にはいつも友達と一緒に教室の隅で静かに過ごすようなおとなしい子だ。
多くの男子生徒がアヤに気に入られようと取り入る中、優介は私のことばかり気にかけてくれた。だからなのか、別に友達が少なくても私は全く気にならなかった。
カッコよくてスポーツ万能で、男女問わず人気があるのに、他の女子にはめったに笑顔を見せない優介が、こんな平凡な私にだけ優しい表情で笑いかけるので、クラスのみんなはいつも不思議に思っていた。
「アヤがさ、ずっと前から香月君のこと狙ってたんだよね。正直、山野さん邪魔だよ。空気読んだら?」
アヤの取り巻きの一人がそう言いながら詰め寄ってくる。
「香月君なんて、す、好きじゃない!!」
私はこの場から早く立ち去りたいがために咄嗟に嘘をついた。
気まずくなり視線を反らしドアの方を見ると、そこには怒りと悲しみが入り混じった表情を浮かべた優介がこちらを見つめて立っていた。
「優介君……」
その表情から、私は嘘の代償に大切なものを失ってしまったのだと気がついた。
私たちにとって桜並木の下で交わした約束はずっと特別なものだった。
優介と付き合うことはなかったが、私たちはいつもお互いを大切に思っていた。それなのに、私はその関係を自らの手で壊してしまったのだ。それも、優介がどう思うか想像すらせず自らの保身の為だけに……。
桜の花びらが枯れて散るように私の初恋も終わってしまった。
あの時から優介は私の方を見なくなり、私たちは疎遠になっていった。
優介に会いたい。会ってあの時のことを謝りたい。いや、それだけでは足りない。できる事なら一度は恋人同士になりたかった。
『優介君、ごめんなさい……』
私は夢の中でそうつぶやくと、アラームの音で目が覚めた。しばらく白い天井を見つめ、涙を拭った。隣を見ると、真が静かに寝息をたてて眠っている。
私は苦い初恋の想い出を胸に秘めたまま大人になった。今は、隣で眠るこの男性と一緒に穏やかな日々を過ごしている。
しかしこの時の私は、まさかこの数週間後に自分たちの身に不思議な出来事が起こるとはつゆ知らず、真の寝顔を見つめていた。
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