それで終わり

 家の中に引きこもる生活が、最近は堂にいってきた。初めこそ、慣れないリモートワークやら家族友人に会えないやらでストレスが溜まったけれども、一度サイクルを作ってしまえば簡単だ。冷凍食品やインスタント食品、その他それほど健康に悪くなさそうな保存食品を買いだめたから、外に出る必要性は、あとひと月くらいはない。

 今は繁忙期ではないので、今週一週間は仕事もない。ニュースもネットも暗くて気分が落ち込むから、最近はテレビもケータイも見ていない。

 そんな生活の中の、ひとつの潤いが、あるラジオ番組だ。ポータルラジオのツマミをテキトーに回していた時に見つけたその番組は、毎日夕方から深夜にかけて、ダラダラとトークしたり、今じゃ誰も聞かないような昔の流行曲を唐突に流したりして、取り留めがない。別にリクエストを求めているわけでもないようで、多分、完全に個人の趣味だ。けれど、その雑多な、パーソナリティーの個性をそのまま垂れ流しているような雰囲気が気に入って、ここ数週間はずっと聴いている。

「はい、というわけでね。今日もまあたいしたニュースもなく終わるわけですけれども。しかしあれですね、この番組をここまで聴いてくれてるって人は、いたとしたらですけど、大層な鈍感さんですね。まだ気づいてなかったりするのかな? ははっ、まあもうどうでもいいことですけどね。それじゃあ、世界は終わりますけれど、最後まで気のいた台詞せりふを聴かせてあげられなくてゴメンナサイ。それではさようなら」

 ぼんやり聴きながら、何か変だな、と思った。ラジオを切ると、静けさが耳に刺さる。あれ、この辺ってこんなに静かだったっけ。

 そう言えば最近、アパートの前の車道から、車の通る音がしないような気がする。

 そんなことを思ったけれど、もう夜だし、眠いし、じっくりものを考えられるタイプでも、夜更かしできるタイプでもないし。

 あくびをしながら、そのまま布団に潜り込んだ。

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