心中

 彼女は、眠る前に必ず私の手を握る。布団の中で小さく丸まりながら、おずおずと私の手をねだる仕草は本当に愛らしい。けれどそれは私のことを好きだからという理由だけではないように思える。

「怖いの」

 いつものように私の手を包みつつ、彼女は言った。笑わないでね、と前置きして続ける。

「眠るって、その日の自分が死ぬってことでしょう。朝に絶対、目覚めるという保証はない。だから、もしそうなっても後悔しないように、眠るときは貴方を感じていたいの」

 それなら、と、私は彼女を抱きしめた。

「こうすればもっと安心できるでしょう」

 腕の中で顔を真っ赤にし、彼女は小さく頷いた。

 私たちは今日も、一緒に死んでいく。

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